【勇者の館】と【鋭利な盾】(1)
未だ傷が癒えていないアルゾナ王国認定Sランクギルドの【鋭利な盾】。
その為に国家防衛を行う戦力が不足し、同盟国であるジャロリア王国がAランクギルドの【勇者の館】を派遣したのだが、ルーカスは余計なプライドがあるため、こう考えている。
目の前のボロボロになっている連中の代わりに、態々遠路遥々他国であるアルゾナ王国を守りに来てやっているのだから、もう少し媚び諂うべきだ・・・・・・と。
「よく来てくれました、【勇者の館】の方々。既にご存じの通り、Sランカーのホスフォが敗北し、既に国葬の処置を終えています。同行していたAランカー二人も未だ癒えておらず、皆さんにはこのアルゾナ王国の防衛をお願いしたい」
「・・・・・・お悔やみ申し上げます。ですが、我ら【勇者の館】が来たからには安全は確保されたと、ここに明言致します」
自信満々のルーカス。
たとえ同格のSランカーが死亡したとしても、その中で最強は自分であると一切疑っていない。
何故ならば、最強の魔王を倒した実績があるのだから・・・・・・
こうして国王に対しての謁見も終わり、襲ってきた魔族に対する情報を集めようとギルド【鋭利な盾】に向かう。
「これは、ようこそお越しくださいました。私、ギルドマスターと同行して魔族と相対したAランクのフィライトと申します。もう一人のAランカーは未だ傷が癒えていないので、この場には来られない事、ご容赦ください」
このフィライトも回復術やポーションで癒しきれない傷を負った事は見てわかるが、その立派な体躯からか、一応動けるまでには回復している。
「いや、構わない。で、相手は何人だ? Sランカーのホスフォ殿とAランカー二人で相手をしたと聞いている。となると、三人以上か?」
「初撃で魔族の一人は死亡したのですが、残りの二人は別格でした。いえ、奴が言うには、初撃で仕留めた魔族の一人も、残りの二人が致命傷を負わせたと言っていたのです。確かに後に検分したところ、我らの攻撃では付かないような傷が背中にあったのですよ」
ルーカスとは異なり、国家の為にプライドは一切捨てて全てを明らかにするフィライトだが、どこに行ってもルーカスはルーカスだ。
「と言う事は、実質三対二・・・・・・と言う事だな?」
「そうです。しかし、ホスフォ様は一撃で片腕を持って行かれ、危険性を感じたホスフォ様の指示によって、我ら二人は国家に情報を渡すべくその場を後にしました」
「つまり、Sランカーを放って逃げた・・・・・・と。そして、魔族二人に対してSランカー一人。これは死亡する可能性が高いだろうな」
明らかに共闘しなかった二人、目の前にいるフィライトを含めて侮蔑しているルーカスだが、アルゾナ王国を自分達の代わりに守ってもらう立場であるため、グッと堪えるフィライトだ。
「そう言われてしまえばその通りです。ですが、ホスフォ様の遺志を継いで情報を届ける事が出来た結果、こうして皆様の助力を得る事が出来ているのです」
「自らの力不足による尻ぬぐいをさせていると言う事だがな」
格下Aランカーに対しては、どこまでも不遜な態度であるルーカス。
実際に他国からルーカス達【勇者の館】がどう思われているかと言うと、勝手に魔王国に攻め入って均衡状態を破壊した愚か者がマスターとして君臨しているギルド・・・・・・なのだが、立場が弱いフィライトは何も言い返せない。
「だがよ?一応国王からの依頼として受けている以上は、仕事はするぜ?熟練Sランカーが負けて、Sランクギルドの面々が敗走した相手を始末すりゃー、流石に俺達がSランクギルドに返り咲くだろ?ちょうど良い仕事だ」
自らが尊敬するギルドマスターをバカにされたようで、頬が無意識に痙攣してしまうが、国家の為に我慢するフィライト。
さすがは新魔王ゴクドが治めている魔王国に侵攻できる実力を持っていたパーティーの一員だ。
そんなことはお構いなしで、自分の立場の事だけに意識が向いているルーカスには、フィライトの怒りは伝わる事はなかった。