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ギルド本部(2)

 クオウを始めとした三人は、一旦ギルドから出て荷台を引いてギルドの裏手に回る。

 巨大な倉庫の様な物が立ち並んでおり、内部が外から見えないようになっている上に、匂いや汚物が出ないように対策されている空間でもある。


 高級な邸宅は更に王城方面に向かった場所にあるのだが、比較的近くにある事から、ギルド本部としては環境に対して完全に対策する必要があるのだ。


 そこに荷台と共に入る【癒しの雫】の三人。

 正直ギルドマスターであるシアは、ここに来るのは初めてであるので少々“きょろきょろ”してしまっている。


 フレナブルも初めてではあるのだが、特に興味はないのでクオウにへばりついている格好だ。


 そこに待っていたのは、ギルドの中から裏手に回った担当の受付と、何故か同行しているルーカス。

 受付は、ルーカスはお得意様である為に挨拶程度はするのだが、個人的にひいきをするような事はしない。

 そんな受付が獲物の状態を瞬時に見極め、かつてない程の状態である事を称賛する。


「これは素晴らしいですよ、クオウ様。ここまでの状態のAランクの魔獣が納品された記憶、私の中では一切ありません。もちろん【癒しの雫】の実績にも付記しますし、報酬もそれなりに上乗せされますので期待していてください」

「ありがとうございます。これからの【癒しの雫】に期待していてください」


 受付としては、どこのギルドであっても最初の納品の担当になるのは偶然なのだが、その対象ギルドが【勇者の館】のように高名になれば、それだけ自身のギルド内での立場も良くなり、給金も上昇する。


 納品を行うギルド側からすれば、担当者と波長が合わなければ交代させる事も出来るのだが、できたてのギルド、信頼の無いギルドではそのような事が出来るわけはない。


 クオウとしてはその辺りも知識が十分にあるので、あえて【勇者の館】の担当ではない受付に納品を申し込んだのだ。


「では、報酬を算定しますが……この位になりそうです。宜しいでしょうか?」


 受付が、相変わらず魔道具のボードに何かを打ち込んでいるのだが、基本的に魔獣の種類、状態、更には納品してきたギルドの情報を入力して金額が表示さるようになっている。


 その情報を確認して、問題なければサインして納品完了になる。

 粛々とその流れを実行しようとしている所、突然部外者である【勇者の館】ギルドマスターであるルーカスがクオウ達に近づき、突然こう言い放った。


「クオウ。お前……フレナブルさんと、どう言った関係だ?それに、お前は事務職。フレナブルさんが冒険者登録をしているという事は、この獲物、この危険な獲物をフレナブルさん一人で始末させたと言う事か?」


 【癒しの雫】三人が首から下げているギルドカードを確認しつつ問い詰めるルーカス。

 ハッキリ言って余計なお世話以外の何物でもないので、クオウとフレナブルは無視して受付が提示したボードをのぞき込む。


 シアは、一応大先輩であり高名なギルドマスターからの言葉に、どう対応すればよいのかオロオロしているのだが……


「マスター、これで良いか確認をお願いします。俺としては問題ないと思いますけど、新生【癒しの雫】として初の納品ですからね。マスターがサインをお願いしますよ」


 クオウに呼ばれて慌てて受付がいる方に向かうのだ。

 結果一人取り残された形になったルーカス。


 クオウ達を担当している受付としても、自分の担当外であるルーカスに時間を割くよりも、突然Aランクの素材を有り得ない程の状態で持ち込んだクオウ達の対応をする事に心血を注いでいた。


 ルーカスから少し離れた位置で、心を鷲掴みにされたフレナブルとその一行が楽しそうにしている。

 その姿を改めてみると、フレナブルは何も武具を持っていない事に気が付いた。

 その瞬間、頭が沸騰して思わずクオウに怒鳴りつけてしまったのだ。


「クオウ!貴様……事務しか能がないくせに、冒険者に対して武具すら持たせずにAランクを始末させたのか!!」

「……なんでお前に責められなくてはいけないんだ?そもそも、ここに来るだけなのに武具を常に持ち歩く必要もないだろう?」


 思わず口調が変わってしまったクオウだが、言っている事は正論だ。

 一旦ギルドに戻って少なからず重量物になる武具を置いて、身軽になったうえで素材を運搬している冒険者は多数いる。


 とは言え、実際に魔術を得意とするフレナブルはどの道武具を使わないし、使うとしても魔術で異空間に保管できるので、問題ないのだが。


「そうですよ、ルーカス様。それに、登録されている冒険者をどのように動いてもらうかを決めるのは、登録元のギルドを統括しているギルドマスター、今回は【癒しの雫】のマスターであるシア様です。そんな事は良くご存じでしょう?」


 追撃で受付にまでこのように言われては、何も言い返せないルーカス。

 真っ赤な顔をして震えながら、クオウだけを睨みつけていた。


 そんなルーカスをいない者として扱い、三人と受付は納品を終了していた。


「今日はお疲れ様でした。私、ラスカと申します。今後ともよろしくお願い致します」

「今日は良い納品が出来ました。納得のいく内容でしたので、こちらこそよろしくお願い致します。この魔獣に関する書類は別途お持ちしますね。次回以降はもう少し気軽にお話しください、ラスカさん」

「「ありがとうございました」」


 受付のラスカに対してクオウが丁寧に対応し、シアとフレナブルが同調するように礼を述べると、踵を返してこの場からいなくなってしまった。


 受付のラスカもさっさとこの場を立ち去り、一人残されたルーカスは必死で平静を保つために四苦八苦しており、都合の良い事を口にして強制的に心を落ち着かせていた。


「クソッ。何故フレナブルさんがあんな無能のクオウを慕っている……いや、そんなはずはない、騙されているんだ。あいつが無能であると知れば、必ず栄光のギルド【勇者の館】の加入を懇願するに違いない」


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