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Sランクギルドと(2)

「当国では【癒しの雫】を新たなSランクギルドと認定し、数日後には【勇者の館】に出していた依頼をそのまま引き継がせる予定です」


「なるほど。ですが、【癒しの雫】は少人数であったと記憶しておりますが、大丈夫なのでしょうか?」


「そこだけが本当に唯一の懸念点です。ですが、【癒しの雫】はやってくれると信じております」


 この会話が続けられていく中で、最近ジャロリア国内で評判を落としている【勇者の館】が隣国のアルゾナ王国では未だ高い評価を得ている事を理解したジャロリア国王は、ここぞとばかりに恩を売る事にした。


「……では、貴国からの依頼を受けて、アルゾナ王国防衛を【勇者の館】が担当する、と言う事で宜しいですか?」


「願ってもない事です。ですが、宜しいのですか?貴国は【癒しの雫】がいるとは言え、少ない人数。継続して攻められては守りが疎かになりかねませんが?」


 こんなやり取りがあったのだが、結局はある貸しを作ると言う意味でも、厄介払いと言う意味でも、【勇者の館】に対して依頼が発行される事になった。


 表では和やかに会談は終わったが、通信が切れた後のアルゾナ王国の国王ラスカーレ・アルゾナは苦い顔をしている。


「ジャロリア国王はよくぬけぬけとあのような事を言えますね。そもそも彼らがルーカスを含む<勇者>ともてはやされている一行を魔王国に差し向けなければ、今の様な危機的状況にはなっていないのですがね」


 クオウが魔王として君臨していた時代、ごく一部の例外を除いては魔王国からの侵攻はなく、人族の領域も極めて安定した状態にあった。


 そんな中で、国家としての功を求めたジャロリア王国が独断・そして単独で魔王討伐に向かい、クオウを仕留めた(と思っている)のだが、その結果、強硬派の新魔王ゴクドによって人族の領域は危機的状況に晒されている。


 この事態の切っ掛けを作ったと言っても過言ではないジャロリア王国だが、そのような事実はなかったとばかりに振舞っている事に腹をたててはいるのだが、自国の最高戦力をもってしても新魔王の元にすら辿り着けなかったのだ。


 この状態でジャロリア王国に文句を言おうものなら、【勇者の館】すら派遣してもらえなくなるために、グッと我慢していた。


 新魔王ゴクドの脅威が増し、人族の領域に攻め込まれ始めているこの現状。


 その原因となったのは、他国に対して優位に立ちたいジャロリア国王が功を焦って独断で魔王領へ侵攻したためだ。


 一時期、旧魔王討伐がなされたと大々的に公表され、何を勝手な事をと思わなくもない他国の重鎮達だったが、安定が訪れる事に期待して文句は言わなかった、


 しかし思惑は完全に外れ、旧魔王とは比較にならない程好戦的な新魔王ゴクドが現れてしまったのだ。


 当然その切っ掛けを作ったジャロリア国王は非常に焦り、ルーカス率いる【勇者の館】に新魔王討伐と、迫りくる魔獣の対処をさせていたのだが、結果は散々で、最悪は国家の存続すら危ぶまれると考えていた。


当時の魔王討伐を成し遂げた<勇者>と呼ばれている者達の現役復帰も打診したが、既に堕落しきっている人物ばかりで、何の戦力にもなり得ずに困り果てていた所、救世主のように【癒しの雫】がその名を轟かせた。


 これ幸いと、その戦果に応じてランクを与えた上で大々的に公開しだ。


 まさかSランクギルド相当の実績を上げるとは思っていなかったのだが、ここに関してはジャロリア国王にとって非常に嬉しい誤算だった。


 他国も新しいSランクギルド、そして個人でのSランカーに対して今のこの状況から並々ならぬ興味を持つのは当然で、【癒しの雫】と言う強力な戦力を有した自国に対してこれ以上余計な事を言うなと言う牽制を含め、アルゾナ王国からの【癒しの雫】の紹介と言う依頼を受けて訪問させた。


 ジャロリア国王としては、アルゾナ王国が【癒しの雫】を引き抜きにかかるだろうと言う事位は想定済みだが、当然【癒しの雫】ギルドマスターであるシアの情報も掴んでおり、彼女が今の場所を非常に大切にしている事を知っている。


 両親が遺したギルドを捨てる判断が出来るわけがないと言う自信があり、【癒しの雫】をアルゾナ王国へ派遣した。


 このような国家間の綱引きがある中で、再び国家からの指名依頼が二つのギルドに流れた。


 Aランクギルド【勇者の館】には、Sランクギルドが壊滅的な被害を受けてしまった同盟国であるアルゾナ王国の守り、そして余力があれば反撃を。


 Sランクギルド【癒しの雫】には、【勇者の館】に代わって先ずは魔獣の対応だ。


 すっかり体調が回復したルーカスは、ギルドに呼び出されて(・・・・・・)少々機嫌が悪かったところに、アルゾナ王国遠征に関する依頼を告げられた。


「ふざけるなよ!なんで俺達が態々隣国の世話をしなくちゃならないんだ!」


「落ち着いて下さい、ルーカス様。これは指名依頼です。アルゾナ王国のSランクギルドが壊滅的な被害を受けてしまったので、同等以上(・・・・)の戦力を持つ皆さんに国家から依頼があったのです」


 ツイマからSランクギルドと同等以上の戦力と言われては、最近実績がないルーカスとしても悪い気はしない為に途端に大人しくなる。


「…仕方がない。ここはツイマの顔を立ててやろう。俺達【勇者の館】の精鋭がアルゾナ王国に貸しを作ってきてやる」


「よろしくお願い致します」


 口調は渋々と言う感じだが明らかに機嫌が良くなっているルーカスは、ギルド本部を後にする。


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