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Sランクギルドと(1)

 Sランク冒険者を大々的に公表するのが慣例であると同じく、Sランクギルドも大々的に公表する事になる。


 その対象は、この短い間に個人でもSランクを輩出し、ギルドでもSランクになった【癒しの雫】だ。


 まさか少し前まで、ギルド資格剥奪の崖っぷちにいたFランクギルドであるとは誰が想像できるだろうか。


 国内がその快挙に沸き立っている中、金に物を言わせて高級な回復薬をふんだんに使い、更には所属Aランク冒険者の治癒を受けて回復したルーカスが荒れている。


 当然彼の耳にも【癒しの雫】がSランクギルドになった事は入っており、自分達が手も足も出ずに敗北した魔獣共を軽く捻り潰した事も聞き及んでいる。


 個人でSランク認定されている自分が、Aランクと高級な武具をふんだんに使って手も足も出なかった魔獣に対し、最近Aランクになったばかりの冒険者、そして一人は冒険者ではない鍛冶士が仕留めたと言うのだから、気が狂いそうなほどの感情に飲まれていた。


「そ、そうだ。きっと奴らは魔王と繋がっている。そうでなければ、あれ程の魔獣をたかが鍛冶士が苦も無く始末できるわけがない!」


 ここで、当たらずとも遠からずの結論に達してはいたのだが、事実は【癒しの雫】所属の魔族が新魔王ゴクドの事を知っているだけで、だからと言って魔獣をわざと戦闘時に弱らせるような事は一切していない。


 結局は自分の実力不足が正解ではあるのだが、Sランカーとしてそれだけは認める事が出来ない。


 今回の魔獣を同じSランカーのフレナブルが始末したと言うのであれば、相性も有る事から強引に納得できなくもないが、ただのAランカーと、止めは冒険者でもない者が始末したとあっては、相性云々以前の問題だ。


 そこに来て、未だ書類の処理が終了しておらず、本来ギルド【勇者の館】に入ってくるはずの報酬が得られていない。


 緊急対応であったために個人持ち出しで武具を使用した所属冒険者も多数おり、その補償もギルド本部の報酬に含まれるのだが、それがなければ、所属冒険者達は活動が出来ず、結局赤字を垂れ流す事になる。


 個人としても、ギルドとしても、一切合切が上手く行かなくなっている為、精神状態が極めて不安定になっているルーカス。


 再び【癒しの雫】に粉をかけるか、互いに同じ依頼を受けて実力差を分からせるか…と考えを巡らせるが、今迄の実績から敵に塩を送ってしまう事になりかねないと頭を振る。


 そうこうしている中でも、ルーカスの豪華な部屋の窓から見下ろせる町はお祭り騒ぎになっている。


 どうしようもない焦燥感に襲われていると、緊急事態時に発動される拡声魔道具によって声明が流れる。


 最近は、この拡声魔道具の発動頻度が上がっているので、町の人々も以前ほど驚くような事はないが、一瞬で町は静寂に包まれた。


「速報です。隣国のアルゾナ王国にも敵が襲来したようで、積極的に魔王国に侵攻しているSランクギルドの【鋭利な盾】が対応したようですが……敗北したとの連絡が入ってまいりました。国土の防壁内部には侵入されておらず、襲撃してきた魔族一人は倒したようですが、残りの魔族のその後の行方は把握できていないとの事。当国にも厳重な警戒の呼びかけがありました。街道を使用する際には、厳重な警戒をお願いします」


 アルゾナ王国にもSランカーと、同じくSランクギルドが存在している。


 【勇者の館】とは異なり、魔獣が活発化している今でも魔王国側に侵攻できるほどの実力の持ち主であったのだが、今回、アルゾナ国家に侵攻してきた魔獣と魔族の対応で敗北したと言うのだ。


 そこまでの実力者が敗北するような相手に対し、街道の使用時にどう注意しても助からないだろうと言う当たり前の感情に包まれる市民達だが、彼らには希望があるので、大きく悲観するような事はなかった。


 そう、今正にSランクギルドとして称賛されている【癒しの雫】だ!


 幼い少女でありながらギルドを統括しているシアを筆頭に、少し前までSランクギルドとして名を馳せていた【勇者の館】でさえ対応する事が出来なかった魔獣を、少人数ながらも一掃して見せた【癒しの雫】。


 その実績と、【癒しの雫】に対する期待と信頼からか、この情報を聞き終えた後に悲観的な静寂は長くは続かなかった。


 寧ろ【癒しの雫】に対する希望、称賛が溢れかえり、更に町は活気に包まれたほどだ。


 一方の王城、同盟国であるアルゾナ王国のSランカー達が敗北したと言う速報を受け、国王同士が魔道具を使って情報交換をしている。


「まさか【鋭利な盾】が敗北するとは思いませんでした。ホスフォ以外は辛うじて命は繋いでいますが、彼らを失うと、我が国家の守りは途端に脆弱になります」


「…心中お察しします。忌々しい魔王ゴクドによって、我がジャロリア王国にも特殊個体のAランクの魔獣が複数立て続けに襲来しており、最早【勇者の館】では手も足も出ないのが現状です」


 流石に同格の国王同士の会話であるので、ジャロリア国王も丁寧な話し方になっている。


「なんと!あのSランクギルド…いえ、今はAランクでしたかな?ですが、Sランカーのルーカス殿がいたはず。彼でも手も足も出なかったのですか?」


「お恥ずかしながら、その通りです。結果的に防御にばかり力を削がれ、魔王国への侵攻を貴国に任せきりになってしまい申し訳ない次第です。ですが、新進気鋭のギルド【癒しの雫】によって見事に迎撃する事に成功しております」


「それは素晴らしい。確か【癒しの雫】と言えば、少し前にこちらに来ていた一行ですかな?あの幼い少女を筆頭に……それほどの戦力とは想像する事は出来ませんが、人は見かけによらないのですね」


 アルゾナ国王の手放しでの称賛を受けている【癒しの雫】だ。


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