リザードマンと人間の子 回想
俺はリザードマンと人間の子、ザード。
聞いた話によると、俺の母は人間の女で、俺の父であるリザードマンにレイプされ、その時に俺が胎内に宿ったという。
その、俺の父とされるリザードマンはその後、母である人間の女を助けようとやってきた勇者と交戦し、勇者の剣によって斬られ、そのリザードマンは命を落としたという。
いや、この話は本当に、後になってから人から聞いた話だし、俺の生まれる前の話だし、本当の話かどうかなんて、そんなことは、事の真偽は、今となっては分からないが、俺の生まれるきっかけになった話だからと思って、聞いてみたということだ。
そんな経緯があって、俺はリザードマンと人間のハーフとして生まれた。
その後母も精神を病んでしまい、俺は児童養護施設に預けられ、そこで育てられることになった。
ちなみに、俺の見た目は、リザードマンの血をひいてはいるが、人間、一見すると普通の人間と変わらない姿なんだ。
リザードマンは腕力が強く、同じ武器で攻撃したとしても、威力が全く違う。
こん棒や銅の剣レベルでもそうだ。いやそもそも、武器など持たなくても充分力が強いので、敵に大きなダメージを与えられる。
しかしそれと同時に、感情をコントロールできなくなることもよくある。そのため、よくけんかになると、必要以上に相手を殴ってしまい、大けがを負わせてしまうこともある。
「いい加減にしてくださいな!」
俺とけんかをして大けがをさせてしまった子の母親が、児童養護施設の施設長に抗議しに来ていた。
「こんな大けがをさせるなんて、またあのザードという子の仕業ね。
いくら施設長の先生が不憫に思って預かったとはいえ、これは黙ってはいられませんわ!
これでは施設長の先生の名前にも傷がつくことになりますよ!
まったく、あのトカゲみたいな目つきが、ああ気味が悪いったら。」
俺は奥で話を聞いていた。
トカゲみたいな目つき…。そりゃそうだ。何しろリザードマンと人間のハーフなんだから。
とはいえ、あの母親は、もともと俺がリザードマンと人間のハーフというだけの理由で、ただそれだけの理由で、俺のことが気に食わない、息子にもそう言い聞かせている節があった。
「とにかく、あの子には、私から言い聞かせておきますから…。」
「ですが…!」
「お願いします。」
俺がけがをさせた子の母親に、必死に頭を下げて謝る、施設長の姿を、俺は何度も見た。
この施設長も、実は魔族と人間のハーフ。
そして、俺をからかってくる、いじめてくるのは、純血の人間たち。
「ヒューマンオンリー」という差別的論調を掲げる、要するに亜種とか、俺たちのようなハーフとかを排除し、自分たち、純血の人間さえいればいいという論調を掲げる連中のこと。
「この汚れた血め!」
というのが、「ヒューマンオンリー」の純血の人間たちの主張だという。
それが子供たちにも影響及ぼしている。
母親たちが帰った後、施設長は俺に話を聞かせる。
「理由は聞かないよ。君がただ理由もなく人を傷つけるわけがないと思っている、またいつものように、リザードマンと人間のハーフであるということで、からかわれたんだろう?
私も魔族と人間のハーフということで、幼少の頃からよくからかわれたよ。
だけど、君にはリザードマンの力強さと、人間の心優しさを兼ね備えた、すばらしい資質があると、私は見込んでいる。だから、私は君をこの施設で引き取った。」
その時は、リザードマンはともかく、あの人間たちが、そんな心優しさなんて、本当に持ち合わせているのか?と考えていた。あの人間たちが?と考えていた。
やがて時は流れ、人間でいうなら20歳くらいの、いや半分は人間なのだが、成人した俺は、人狼と人間のハーフの、ヘレンという女と恋仲になっていた。
「今日もよろしくね。ザード君。」
「ああ、ヘレン。今日もデートに行こう。」
「ああ、いってらっしゃい。」
魔族と人間のハーフの施設長も、相変わらず元気そうだ。なにしろ魔族は、1000年以上も長生きするのだから。
デート先は、亜種やハーフがもともと多く住む、ソノの町というところ。
俺は施設を出ないで、そのまま施設で住み込みで働いていたのだった。
今時、ハーフや亜種は珍しくもないのだが、「ヒューマンオンリー」の連中は、それでも嫌がらせや、暴力、暴言を彼らに加えるのだった。
「ヒューマンオンリー」の純血の人間たちに邪魔されることもなく、俺たちはデートを満喫していた。
「今日は楽しかったわ。またね。」
最後に、帰り道に俺は、スライムとゴブリンに遭遇したが、特に小競り合いにもならず、それどころか、お互いに挨拶をかわして、立ち去った。
だから、あえて言わせてもらおうか。
「あのヒューマンオンリーの人間どもに比べたら、スライムたちや、ゴブリンたちの方が、人間味がある。」
俺らのようなハーフや亜種は、種族にもよるが、スライムたちやゴブリンたちとは仲良しなんだ。
そして、この日の夕食は、小さなトカゲを捕まえて、丸焼きにして食べた。
仮にもリザードマン、トカゲ人間が、トカゲを捕まえて食べるなんて、共食いじゃないかと思ったが…。
そんな生活が、この先もずっと続くと思っていたのに、あの時が来たんだ。
「お前ら、亜種だな、そっちはハーフだな!」
「この汚れた血め!この世界には純血の人間さえいればいいんだ!」
これが、「ヒューマンオンリー」と呼ばれる組織の、考え方だった。
ザードたちがデートに行った、翌日も特に何事も無く、その日も夕飯を食べ終え、これから寝に入ろうとしていた矢先の、奴らが仕掛けた、夜襲だった。
「ヒューマンオンリーだ!ヒューマンオンリーの奴らが来るぞ!」
この世界では、ヒューマンオンリーのような人間たちの方が悪者で、亜種やハーフ、それからスライムやゴブリンなどの弱小の魔物なども、いじめられていた。
ザード「あいつらが…。」
施設長「ヒューマンオンリーだ。しかし何が目的なのか、どうもただ単に、殺戮を楽しんでいるようにしか思えないのだが。」
施設長も、ヒューマンオンリーの人間たちによる、亜種狩りとも呼べる殺戮を、嫌というほど目の当たりにし、その恐ろしさは、充分すぎるほど、知っていた。
「亜種とハーフをかくまっている施設だな!
火を放てー!亜種のガキどもも、皆殺しだー!ハーッハッハッハ!」
たちまち、火に包まれる施設の建物。
奴らはいったい、何人ぐらいいるのだろう、少なくとも5、6人、いや10人以上はいるとみられる。
施設長「逃げろ!みんな逃げろ!
…ザード!ヘレン!行け!行くんだ!お前たちは生き延びろ!行けー!早く行くんだー!そしてこの恨みを晴らすんだー!」
施設長は自らが盾となり、ザードたちを守ろうとしていた。
ザード「施設長!施設長ー!」
結局、何もすることができなかった。
生まれ育った施設は、跡形も無く破壊し尽くされ、多くの仲間や、施設の職員たちが殺され、生き残ったのは、ザードとヘレン、そして、数少ない者たちだけだった。
「これが、ヒューマンオンリーの、やっていることなのね、許せない…!」
ヘレンはザード以上に怒りに震えていた。
「ああ、ヒューマンオンリーの奴ら、きっといつか、皆殺しにしてやるよ…!」
しかし、そんな中で一つだけ、不思議に思うことがあった。どういうわけか、施設長の遺体が、どこをどう探しても、見つからないのだ。
もしや、あの炎の中で、跡形も無く、燃えカスすら残らずに、焼き尽くされてしまったのか…?
その後、遺体も回収されたが、発表された死者数は、32人。
しかし、遺体の数は、なぜか31体。
1体足りない、これはいったい、どういうことなのか…?
ザード「お前だけでも戦いには巻き込みたくないんだ。ヘレン。」
ヘレン「いや、私も戦う。」
彼女を巻き込みたくない、しかしその彼女は戦いたいと言っている、どうすれば…。
そして叫んだ。声の限りに叫んだ。
しかし、響きわたるのは、こだまだけだった。
ザードとヘレンは、あてもなく歩いていた。
ソノの町は『ヒューマンオンリー』の手中に落ち、背後には選民思想を掲げる、あの帝国、『アノ帝国』がついていた。
『アノ帝国』こそ、『ヒューマンオンリー』の後ろ盾だった。『アノ帝国』の帝国兵も、町の人間たちも、みんな敵になった。
どうすればいい…、本来なら絶望的な状況なのだが、もともと、リザードマンや人狼といった種族は、都市型の生活は得意ではなく、むしろ苦手といった感じであると、誰かが言っていたのを、覚えていた。本当なのかどうかは分からないが。
そればかりか、規則のある生活や、管理社会の中での生活は、どちらかというと性に合わず、むしろ山中や原野を、移動しながら食物を確保して生活する方が、性に合うような気がしていたザードだった。
そこに、亜種レジスタンスと名乗る者たちが現れた!彼らは敵か味方か?
「ウオオオオー!」
いきなり、ワニのような顔をした、鎧に身を包んだ怪人に、斧で攻撃される!
俺はなんとか攻撃をかわしたが、何者だ…?