エマの絵
なかなか進まないことにイラついています。
タイピングの練習はじめました。
「二階堂君はどんな絵を描くのが好きなの?」
夕陽が差し込む廊下をエマと凪は歩いていた。
「うーん。好きとかはないかな。でも花とかはよく描くよ。」
「お花かぁ、いいね。」
「描くのはなんだっていいんだ。描いてる時間が好きだから。でも、花だと書き終わった後あげると喜ぶからさ。」
凪はニコっと笑う。
「あげる人がいるの?」
「妹とか母さんとか…」
「妹さんがいるんだ。」
凪はあっという顔をした。
きっとエマの妹の話を昼間誰かにに聞いたのだろう。
少し気まずい空気がながれたまま、2人は美術に到着した。
「ここが部室。鍵は奥の倉庫だけかかってるから、部員ならいつでも自由につかえるよ。」
「倉庫には何が入ってるの?」
「絵の具のストックとか石膏とか…あとは今描いてる作品が保管してあるわ。」
「三井さんの絵もある?」
「これが今描いてるやつ」
エマは制服が汚れないように慎重にキャンパスを持って出てきた。
「すごい……。」
エマの描きかけの絵は抽象画だ。
全体が黒と赤で構成されている。
凪は目をキラキラさせてじっくり作品を見ている。
コンコン
美術室のドアを誰かがノックした。
「エーマ。一緒に帰ろ?お?凪!?」
テニスウェア姿の湊が美術室に入ってきた。
湊はテニス部に所属している。
「なんだよ凪、まさか美術部に入るつもり?」
「そのまさかだよー。てか三井さん天才だな。」
「そうなんだよ。エマはいつもなんか賞とってるもんな。」
湊がエマの頭を撫でる。
「…実力かはわからないけど。」
ポツリとつぶやくエマ。
「うん?」
湊にエマの呟きは聞こえなかった。
「何でもない。湊、着替えなくていいの?
お迎えよんだ?」
エマが言った。
「お迎えとか呼ぶんだ。」
凪が少し驚いて聞いた。
「まぁ、毎日じゃないけど。凪の家どこ?一緒に乗ってく?」
湊がスマホをいじりながら言う。
「マジ?広尾のほうなんだけど。」
「オッケーオッケー。一緒に帰ろうぜ。じゃ俺着替えてくるから、正門のとこでな。」
そう言うと湊は走って行ってしまった。
「じゃ、私も片付けてくるね。」
エマがキャンバスの端を握る
「俺が運ぶよ。」
凪はキャンバスをもちあげてもう一度エマの絵を見た。
「俺は本当にすごいなって思ったよ。」
凪は真っ直ぐに絵をみている
「ありがとう。」
「欲しくなっちゃった。」
「え?」
「ううん。そのぐらい三井さんの絵、感動したよってこと。」
エマはうれしくて笑った。
「凪、こっちにいつ引っ越してきたの?」
助手席に座る凪に後ろから湊が話しかける。車は3人を乗せて凪の自宅に向かっていた。
「先月かな。2学期にあわせて準備したんだ。」
「お父さんも一緒に住んでるの?」
「たまに帰ってくる感じかな。他にも家庭がいくつかあるらしいから。」
そんなプライベートなことをざっくりと言うなんてエマはおどろいた。
「まぁ、そーゆーのあるよな。」
隣に座っていた湊が言う。そんなふうに言うなんて湊の父親にも他に家庭があると言うことなのだろうか?もしかしてよくあることなのだろうか?
たいしたことでもないことのように湊と凪は談笑している。
エマは自分が聞いていてもいい会話なのかわからなかったので窓の外をながめているフリをした。
「その角を曲がって2軒目の白い家です。」
凪が運転手に言う。
湊の家が見えたときエマは心臓がドクンと跳ねた。
あの悪夢で見た白い家だった。
毎日コツコツ