ハッピーバースデー
完結前に足りない部分を追記したり、ひどいところを修正したいと思っています。
「湊が来てくれてよかった。」
エマが満面の笑みで言う。
湊は六本木高層ビルの13階に来ていた。
エマから電話が来て会いたいと呼び出されたのだ。学校を休んで鬱々とした数日を過ごしていた湊はすぐに家を飛び出した。
「素敵なお店だね。」
湊が店の中を見回して言う。店内は百合の花がいたるところにかざられている。
「知り合いがやってるカフェなの。このビルのオーナーなんだけどね。今日は貸切にしてもらったの。」
「貸し切り?」
「えぇ、私たちには人に聞かれたくない話も…あるじゃない?」
「…エマ…俺…。」
「お待たせいたしました。」
店員がお茶をもってきたので湊は一度黙り込む。
「こちら、オリジナルブレンドティーでございます。」
店員が下がると、エマは紅茶に砂糖を入れてかきまぜる。
「湊もお砂糖いるよね?」
「あぁ…ありがとう。」
「さぁどうぞ。」
湊は紅茶を1口飲んだ。甘い香りが心地いい紅茶だった。
エマはにっこり笑って湊を見ている。
優しいいつものエマだった。
安心して紅茶をもう一口飲んでカップを置いた。
「エマ…俺、本当に反省してる!もう二度としないから!」
テーブルにおいてあったエマの左手に湊は自分の両手を重ねて力を籠めてにぎる。
しかしその湊の両手にエマは右手に持っていたティーカップの紅茶をかけた。
「あつっ!」
おどろく湊にエマは両手でティーカップを持ち直し残ったお茶を飲み干してにっこりと笑いかける。
「…ねぇ湊、私の妹の真央の部屋に入ったことある?」
「…ないよ。どうして?」
湊は目を泳がせる。
「わたしこの前はじめて入ったのよ。おかしくなった真央の母親が、私を真央だと思って押し込むもんだから仕方なく。でも面白いものをみつけたの。」
エマは一冊のノートを机に置く。
「真央の日記帳よ。」
湊の心拍がドクドクと音を立てて早まる。
エマは日記をパラパラとめくり音読を始める。
「湊さんが私を強く求めてくれた。嬉しかった。私の初めてを彼にあげられて幸せ。」
「…。」
湊は額から汗がふき出している。
「湊さんが私を求めてくるのが嬉しい。かわいいと何度も求められる。彼を愛してる。」
「…違う!」
はぁはぁと湊の呼吸がみだれる。
「湊さんはお姉ちゃんと別れたいにきまってる。優しいから振ることができないんだ。」
「うそだ…」
湊は手で顔をふさいでしまった。
「最近湊さんが冷たい。きっとお姉ちゃんのせいだ。家庭教師の先生に相談してみたら、お姉ちゃんと別れなければ死んでやるって彼を試してみたらどうかって。少し怖いけど、やってみる価値はありそう。」
「やめてくれ!」
湊が机を叩いて立ち上がったが、目の前が真っ白になりフラフラと力なくその場に倒れた。
「ふふふ…ねぇ、湊は今日が何の日か知ってる?」
最後にエマの声が聞こえ、湊は意識を失った。
湊が目をさました時、そこはビルの屋上の手すりの外側で湊はビルの外側に足を出して座っていた。
風の音がビュービューと叩き付けてくる。
体が痺れて動けないし、しゃべることもできなかった。
かろうじて眼球だけは動かすことができそうだったので下を見たがあまりの高さに気を失いそうになりギュッとつぶる。後ろに人の気配がしたが体が動かないので振り向く事はできない。
「ふふふ。」
後ろでエマの笑い声がきこえる。
湊はその声であの雨の日のエマの表情を思い出す。あの日エマは不気味なほど美しい笑顔で笑っていた。
「今日は真央の誕生日なのよ。」
ドン!
ガコン!
グシャ!
笑いながらエマは歌う。
「ハッピーバースデートゥーユー
ハッピーバースデーディア真央
ハッピーバースデートゥーユー ふふふ。」
エマはポケットから黒い箱を取り出して開ける。真珠のブレスレットがはいっていた。
手に取り両手で思いっきり引っ張るとブレスレットのヒモは切れ真珠が飛ぶようにバラバラになりビルの下にいる湊に向かって落ちていく。
鏡のチャームだけはエマの足元に落ちてその美しい笑顔を映していた。
毎日コツコツ。