ざわめく夜
読み直して反省する日々。
「湊、これ凪がくれたよ。お守りだって。」
帰りの車でエマはもらったブレスレットの箱を差し出した。
「…いらない。」
湊はスマホから目をはなさず、ブレスレットが入った箱を見ようともしない。
「なんで?…なんか怒ってる?」
「別に…」
湊が部屋に戻ると凪とエマは楽しそうに笑いながら話していた。
お互いに距離はしっかりととっていたし、湊が戻ってきても気まずい感じもなかった。
エマの凪への瞳はつむぎが湊にむけるような熱い視線ではなかったし、嫉妬をするにはあまりにバカバカしいことはわかっている。
それでも何か気になりイライラが収まらない。
「凪の妹さんかわいかったね。」
その一言で湊は自分の立場が急に悪くなった気がした。さっきまで嫉妬心をエマにぶつけていた勢いは急に減速していく。
「エマのがきれいだよ。」
湊はエマの白い手をにぎって見つめる。
顔を近づけて左手を後頭部におく。
エマの柔らかく艶やかな髪と自分の指を絡ませて頭ごと自分の顔に近づけてキスをした。
エマはそっと目を閉じて湊を受け入れたが湊のキスがどんどん深くエマを求めてくるのでグッと湊の腕を押し返す。
「運転手さんに見えてるから…」
「……。」
湊はおでこにキスをして少し離れた。
「今日俺の部屋に寄って行きなよ。」
エマの顔にかかった髪を耳にかけてささやく。
「今日は…やめとく…もうおそいし。最近、夜は特に体調が良くないの。」
エマが小さい声で言う。
湊はふぅっとため息をついてエマから少し体をはなす。
「そっか、ゆっくり休んでね。」
「…うん。」
エマは繋いだ手をギュッとにぎったが湊は握り返してはくれなかった。
ここのところ毎日夜になると動悸がする。
胸がザワザワして落ち着かない。
エマは部屋にいるのが嫌になり、バルコニーに出て深呼吸をしてみた。
不安感は無くならない。
スマホの画面をタップする。
(湊…今日、少し怒ってたな…)
電話してみようか、湊の声を聞いたら少しはこの胸のザワつきも落ち着くかもしれない。エマは湊に電話をかけてみる。
でるかな、
でないかな、
でないかも、
でそうにない、
どうしていつも電話にでないのだろう。
期待が不満にかわったのを感じてエマは発信をやめた。
湊も父親も何かあったら電話してといつも言うくせに電話にでることなんてめったにない。
会っているときは宝物のように扱うわりに。
その時、暗くなっていた液晶がまぶしく光った。湊が電話を返してくれたかと思い、いそいで画面を確認するとその電話は凪からだった。
「もしもし?エマ?今大丈夫?」
「うん。大丈夫。どうかした?」
「特に用があったわけじゃないんだけど。」
しばらく無言になる。そうか、私と話してもあまり面白くないから湊は電話を嫌がるのかも。こんな無言で凪ももう電話をきりたいかもしれない。
「今外にいるの?」
「え、うん。バルコニーにいる。どうしてわかったの?」
「風の音と鈴虫の声が聞こえるから。」
「そっか。そうだね。」
「元気ないね、どうかした?」
「うん…いろいろ考えちゃって。」
また沈黙になるのが嫌で、エマは話し続ける。
「あ、今日は突然おじゃましてごめんね。…凪にもらったやつ湊に渡せなかったの…ごめんね。」
「いいよ、気にしないで。湊の気持ちわかるし。」
凪の声は優しかった。
「それよりエマ、明日さっそく部活行ってもいい?」
「もちろん!明日は何を描くつもり?花なら中庭とかにけっこう咲いてるよ。」
「そうだな、花じゃなくて…もっときれいなやつ描こうかと思ってるよ。」
「へぇ。」
「なんだと思う?」
「えー、わかんないなぁ…」
「はじめて描くから上手く描けないかも。だから完成するまで秘密ー!」
凪は笑う。
「完成したらエマにあげるね。」
「本当?うれしい。ありがとう。」
「サインもつけてあげるよ。」
エマは笑った。
「エマ、外寒くない?」
「うん。大丈夫。けど、そろそろ中に入ろうかな。」
エマはベットに入ってそのまま凪とたわいもない会話を続ける。
凪の優しい声に安心して、いつの間にか寝てしまった。
毎日コツコツ。