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2-3 破滅への導きⅢ

「……どうしても納得してくれないか」

「僕はどうなっても構わない。この学園に破滅が訪れさえすれば」


 生徒会室から話し声が聞こえる。クラウスとウィリアムのものだ。

 シャルロッテはそっと扉を開き、中に入った。ウィリアムが驚いた顔をする。

「何故ここに」

「言ったはずよ。貴方の企みを止めてみせると」

「……」

 ウィリアムは気まずそうな顔で目を逸らした。

 一方、クラウスは微笑を浮かべる。

「良いところに来た、シャルロッテ。困った婚約者くんを説得してくれないかな」

 いつも通り冷静なように見えるが、シャルロッテには分かった。クラウスは怒っている。ウィリアムに対してではなく、教師たちの悪事に気付けなかった自分に、大層腹を立てている。

 シャルロッテは嘆息し、ウィリアムを見つめた。

「貴方が憎いのは、ゾルトなのよね?」

「いや、この学園の全てが……」

「ゾ、ル、ト、な、の、よ、ね?」

「……はい」

 ウィリアムは押し負けた。シャルロッテの圧が凄い。負い目があるから尚更だ。

「なら、破滅させるべきなのはゾルトであって、この学園ではないでしょう? ……そういう話よね、クラウス」

「ああ。そのことでウィリアムに提案していたのだが、納得してくれなくてな」

「因みに、どういう提案を?」

「毒殺の罪をゾルトに擦り付け、ついでに他の教師の犯した罪も全てゾルトの指示ということにして、新聞に載せる。ウィリアムは無罪放免だ」

「あら、良いの?」

「可愛いいとこを犯罪者の婚約者にはしたくないからね」

 ふふっ、と、クラウスとシャルロッテは笑いあった。

 ウィリアムは渋面を浮かべた。そんな言い方をされると、納得せざるを得なくなる。

 もし提案されたものが、教師の悪事を全く表に出さない案であったなら、容赦なく突っぱねた。だがこの案なら、最も憎いゾルトをきっちり破滅に導ける。何があったか公表されて、土で眠る両親も報われるだろう。

 せっかく立てた計画に横やりを入れられるのが嫌で、提案を飲まずにいたが……婚約者に迷惑をかけたい訳ではないのだ。

「確かにそれなら、僕の復讐はそれなりに良い形になる。だが、爆弾はどうするつもりだ」

 時限爆弾を、既に仕掛けてあるのだ。提案を飲んでも爆破事件は起こる。

 そんなウィリアムの懸念を無視し、クラウスは口を開いた。

「君は、ゾルトの薬品管理室から毒を盗み、バレることなく盛ったのだな」

「……ああ」

「高等部のあちこちに爆弾を仕掛けたのも、全て君が1人で?」

「そうだ」

「優秀だな。アルベルトを差し置いて学年主席を取るだけのことはある。是非とも部下に欲しいな」

「……はあ」

 間抜けな声が出た。この生徒会長は、一体何を言い出すのか。

 復讐のためにしたことを改めて突きつけられると、自分は凶悪犯罪者そのものである。そんな自分を「部下に欲しい」などと。信じがたいが、彼は本気で言っている。

「訳の分からないことを言っている暇があるのか? 爆破が成功すれば、提案を受け入れる意味は無くなる。僕はそれでも良いと……」

「爆弾はアルベルトが処理しているよ」

「そう簡単に……」


「片付いたぜ!」


 アルベルトが元気よく入って来た。

「良いタイミングね、アルベルト」

 シャルロッテが微笑んで言う。視線をチラリとウィリアムに向けて。

 ウィリアムは絶句した。

「どうだ、ウィリアム。提案を受け入れる気になったか?」

 クラウスが改めて問いかける。ウィリアムはただただ頷くしかなかった。

「では、アルベルト。これを新聞社に届けてこい。ウィリアムと一緒にな」

「はいよっと」

 クラウスから受けっとった封筒を持ち、アルベルトは軽快に出て行く。ウィリアムは重い足取りでついて行った。




「……王子なのに、まるで使いっ走りだな」

 ウィリアムは皮肉を込めて言った。

 新聞社に向かう途中である。穏やかな日差しを浴びながらも、ウィリアムの心は晴れなかった。

 アルベルトは肩をすくめる。

「良いんだ、俺はこれで」

「理解できない」

「しなくて良い。それより、もっと喜んだらどうだ? 念願叶ったんだろ?」

「……」

 ウィリアムは溜息を吐いた。

「僕は、もっと派手にやりたかったのに。爆弾処理できるなんて反則だ」

「不良王子の異名は伊達じゃねーってこった」

「ふざけているのか」

「ノリ悪いなあ。シャルロッテの婚約者が、聞いて呆れる」

「……努力しよう」

「そういう所。真面目すぎるんだよ、お前。シャルロッテに愛想尽かされても知らねーぞ」

「愛想も何もあったものではない。互いに、家に決められただけの……」

 言っていて溜息が出た。

「……シャルロッテには嫌われただろうな」

 そう呟いたウィリアムの声は、どこか悲しそうだ。アルベルトは、お、という顔をする。

 ウィリアムは言葉を続けた。

「夜会で……シャルロッテは、僕の話を動揺一つせず聞いてくれた。気に入らないとは言われたが、復讐そのものには口出ししてこなかった」

「ふーん、それで惚れちまったんだな」

「何故そうなる、僕はただ……」

 慌てて否定しようとするウィリアムだが、その声は上ずっている。図星だ。

 アルベルトは朗らかに笑った。

「応援してやるぜ。これから挽回していけよ」

「……善処する」


 そんな話をしながら、2人は新聞社に行ったのだった。

 記事は書き換えられ、学園の危機は去った。……かに思えた。


「実は、こんなタレコミが……」


 アルベルトの知り合いの記者が、1枚の紙を見せた。

「なになに……? 学園の地下水路に異常あり、直ちに生徒会が点検しろ、さもなくば学園を爆破する……何だこれ!」

 読み上げたアルベルトは、ウィリアムと共に顔をしかめた。

「何でこんなモンが……」

「あと、これも」

 記者はもう1枚紙を渡す。今度はウィリアムが読み上げた。

「必ず生徒会のみで点検しろ。会議の日に、全員で。これは、生徒会の力を試すためのものである。不正を働いた場合、または異常を見つけられなかった場合、学園の未来は無いと思え。……無茶苦茶だな。僕が言えた口ではないが」


 それを聞きながら、アルベルトは考えた。

(何かの罠か?)

 わざわざ生徒会全員で点検させようとしていることに引っかかりを覚える。一方で、「生徒会の力を試すため」で全て説明がついてしまう。

(誰が、何のために?)

 ただの脅しか、本当に爆破する気か。それも不明な今、書かれた通りに動くしかないだろう。

 丁度、明日が会議の日。情報集めは間に合わない。


「おかしくないか?」

 ウィリアムが怪訝そうに言う。

「生徒会の誰かが新聞社に出入りしていないと、この通知は意味を成さない。それを知る者がどれだけ……」

「俺が新聞社に出入りしてるのは、結構な人が知ってるぞ」

「……何?」

「王子だから生徒会に入ってるのは当然だしな。だから、この書面が新聞社に送られたことは自然だ。分かるのは、学園外部の人の可能性が高いってことくらいか。内部犯なら生徒会室に直接届ければ良いし。……いや、ミスリード狙ってる可能性もあるから、現時点では何も分からないな」

 そう言いながら新聞社を出て行くアルベルトを、ウィリアムは追いかけた。

「君は僕の仕掛けた爆弾を処理したんだろ? また探し当てて処理すれば良いだけだ」

「いやー、しばらくその手は使えないんだよな……」

 精霊使いの力を一度借りれば、数週間は再び借りられない。だから、同じ方法で爆弾を探すことはできないし、自力で探すには時間が足りない。

「……要求通りにするつもりか?」

「本当に爆破されたら甚大な被害が出る」

 アルベルトは簡潔に答えた。






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