表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/28

1-5 稽古

 翌朝、予定通り森へ行ったシャルロッテは、小屋に着くなりへたりこんだ。

「……大丈夫か?」

 ハンスが呆れたように声をかけてくる。シャルロッテは溜息を吐きながら

「ただの筋肉痛よ」

 と言った。

(昨日、クラウスに治癒魔法をかけてもらえば良かったのかしら)

 クラウスは治癒魔法にSの適性をもつ。因みに、アルベルトは火Bと補助Aの適性持ちだ。

「ねえハンス。筋肉痛は治癒魔法で治ると思う?」

「そんなこと知らねえよ」

「そういえば、貴方の魔法適性は防御がSだったわね」

「それがどうかしたか? ……ってか、よく知ってるな。それも公爵家の情報網とやらか」

「まあね。……剣との相性が悪いと思っただけよ。私は補助魔法の使い手だから、剣を使うには最高だわ」

「ああ……確かにな」

「けど、まだろくに覚えていないから使えないの。今日は補助魔法を覚える日にして、明日はそれを使って稽古ということで良いかしら」

「1日じゃ治らねえだろ」

 ハンスの言う通りだ。シャルロッテの筋肉痛は本当に酷く、歩くのも一苦労である。とても剣を振るえる状態ではないし、治るのに数日かかりそうだ。

「だから補助魔法を使うのよ」

「そんな無茶したら、体にガタが来るぜ」

「その時はクラウスに治してもらうから平気よ」

「クラウス……? って、第一王子⁉ そんな気安くて良いのか」

「良いのよ。いとこだもの」

「得だなあ」

「貴方も気安く話しかけて良いのではなくて? アインは気安く接しているわよ」

「別に、話したい訳じゃねえ。ただ、貴族や王族と気兼ねなく接せられる立場なのが羨ましいだけだ。アインはその……何を言っても許される感じがするから、また別というか」

 苦笑して言うハンスをまじまじと見て、シャルロッテは首を傾げた。

「どうしてそんなに貴族が怖いの? いざとなったらその剣技で切り抜けられるじゃない」

「脳筋か」

「レディに向かって失礼ね」

「……貴族が怖いのは、両親の影響だと思う」

 ハンスは語り始めた。

「オレの母親は、貴族の屋敷でメイドをしてて……そこで酷い目にあったらしいんだ。それで、オレが小さい頃から、貴族は恐ろしいから関わるなって言い続けてた。で、父親は商人なんだけど、貴族に騙されて大損したことがあるらしくて。何かある度に貴族の悪口を言ってたんだ」

「……」

「そんな話を聞き続けてたら、怖くもなるだろ。関わったら最後、何をされるか分かったもんじゃねえ」

「刷り込まれてるのね……。どっちが剣聖の子なの?」

 シャルロッテは、話に関係ありそうで無い質問を飛ばした。ハンスは嘆息する。

「……父親」

「騎士にはならなかったのね」

「ああ、剣聖の息子として扱われるのがプレッシャーで嫌だったらしい。まあ、剣自体は好きらしいけど」

「やっぱり強いの?」

「そりゃもう。オレに剣を教えてくれたんだ、強えって分かるだろ?」

「あら、てっきり剣聖に教わったのかと思ったわ」

「似たようなもんだ。親父は何やかんや言っても小せえ頃から剣聖に鍛えられて、しっかり剣聖並みの強さになってるぜ」

「商人なのに?」

「そう。護衛を雇わなくて済むから得とか言ってる」

 ハンスは呆れたような顔で言っている。しかし、その瞳は誇らしげに輝いていた。

 シャルロッテは苦笑しながら立ち上がる。

「そろそろ魔法を覚えに行くわ。また明日ね」

 よろよろと歩き去るシャルロッテに、ハンスは

「ああ」

 と呟いた。





 翌日。朝早く、シャルロッテは森に着くなり詠唱した。

「術式展開。補助の書14節、全身強化」

 筋肉痛が嘘のように引いていく。体を動かすのに何の支障も無く、これなら剣を振るえると思えた。

「随分と早いお着きで、お嬢様」

 ふざけて言うハンス。既に剣を抜き、ぶらりと軽く持っている。

 シャルロッテは風のように駆け、勢いよく斬り上げた。

「っ!」

 いない。いつの間にか横に回り込まれている。

「おっ?」

 ハンスが横から突き出した剣は、シャルロッテの剣の柄に阻まれた。

「これに反応するか」

「補助魔法って凄いでしょう?」

 シャルロッテは得意気に微笑む。

 それからしばらく打ち合って、速さも上がっていった。まだいける……互いにそう思い、更に速く動こうとした時。急に、シャルロッテの動きが落ちた。

「⁉」

 ハンスは反応しきれずに、剣を当ててしまう。シャルロッテの制服の袖がすっぱりと斬れ、腕から血が滲み出た。

「悪い! 大丈夫か⁉」

「平気。掠っただけよ。流石ね、普通の人ならもっと、ざっくりいっちゃってたわよ」

 シャルロッテは息を切らしながら言った。悪いのは自分だ。補助魔法の効果が切れる前に中断すべきだったのだ。

 何とも言えない表情で固まっているハンスに、シャルロッテは苦笑する。

「気にしないでよね。私が今動けないのは、筋肉痛のせいよ。昨日より酷くなってるわ」

「その……斬っちまった所は」

「全く痛くないわ。筋肉痛で紛れているし……もう血も止まってる、本当にかすり傷なのよ」

 そう言ってから、シャルロッテは再び同じ魔法を使って立つ。

「貴方こそ平気? 強引に動きを止めたでしょう」

「ああ、鍛えてるからな」

「なら、仕切り直しよ」

「まだやるつもりか」

 ハンスは呆れたように言った。

「補助魔法無しじゃ立てねえ状態なのに、これ以上やったら……」

「大丈夫。帰りに使う分の魔力は残しておくわ」

「そういう問題じゃねえだろ」

「心配してくれてありがとう。けど、私は引かないわ」

「……どうなっても知らねえからな」





 こうして、シャルロッテは毎日のように剣の稽古に励み、3週間が経過した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ