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冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―  作者: とは


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眠りの後に

 つぐみの家の前に車を停めた品子は助手席で眠り続ける彼女へと目を向けた。

 ゆっくりと肩に手を掛け、揺すりながら声を掛ける。


「おーい、冬野くーん。起きてもらっていいだろうか?」


 少しして小さな声を出し、つぐみは目を覚ました。


「……あ、あれ? ここは一体? 先生がどうして?」

「覚えていないかな? 君は買い物の途中で気分が悪くなって休んでいたんだ。そこへ偶然、私が通りがかって送らせてもらったんだよ」

「え、そんな……」

「あぁ、そうなんだ。熱中症かもしれないね。熱はあるのかな?」


 品子はつぐみの額に手を伸ばし最後の発動を行う。


「思い出したかい? 『君は気分が悪くなり、私にここまで連れて来られた』んだ」


 小さく風が吹く。

 これで全てお終い。

 ……どうか、明日からの彼女に平穏を。

 そう願い見つめる品子を、つぐみは戸惑った様子で眺めてくる。


「あ、あの先生。私は」

「ん、まだ気分が悪いのかい? 部屋まで良かったら送……」

「おぼえて、います」

「……へ?」

「私の記憶が残っています、消えてません」

「……へ?」



◇◇◇◇◇



「というわけで連れて来てしまったんだが」

「えーと。お邪魔、……します」


 目の前のつぐみが自分へと話しかけてくるのを、シヤは信じられない思いで見つめた。

 驚いたことに、つぐみに対して品子の記憶消去が効かなかったというのだ。

 発動を掛けた品子も、ひどく動揺しているのがシヤにも伝わってくる。

 だがまず、何よりもだ。


「シヤちゃん。あの私なんだかとてもよく憶えていて何というかそのでもこれでよかったと思っているといいますか……」


 記憶の代わりに、平常心や落ち着きというものを失ったこの人。

 動揺のためか、ずっと早口で話し続けているこの人を。

 どう扱えばいいのだろうとシヤは思いを巡らせる。


 白日本部や上層部には、つぐみのことを知られたくない。

 更にはつぐみが、落月に存在を知られている可能性も否定できない。

 それを踏まえ、保護もかねて三条の一部のメンバーで今後は彼女と行動を共にする。

 シヤは品子からはそう説明を受けた。

 惟之と明日人には、すでにその連絡を済ませたことも合わせて聞いている。


 ちらりとシヤは前に立つ二人の様子を見る。

 とてもぎこちない。

 本来は最後になったであろう、二人の会話はきっと恥ずかしい内容だったのであろう。


 ……もう二人は放っておこう。


 シヤはそう結論付けると、和室へと向かい静かにふすまを開けた。

 部屋では、ヒイラギが眠っている。

 惟之は二条の人に運ばれてすぐに意識を取り戻した。

 それなのに、ヒイラギは目が覚めないままだ。


 肩代わりの代償であろうかとシヤは明日人に問うた。

 だが彼によれば、身体には何の問題もないらしい。

 ただ、目を覚まさないだけ。

 このまま起きないのであれば、ここにではなく病院に行くことになると明日人はシヤに伝えてきた。

 ヒイラギの傍らに座りシヤは声を掛ける。

 

「それまでには起きてくれますよね? だって、つぐみさん来ていますもの。お礼を言われるのは、助けた兄さんの仕事ですよ。だから……」


 シヤの声が途切れる。

 彼女の膝の上に小さく。

 ぱた、ぱたと打ち付ける小さな音が鳴った。

 

「……お願いです、早く目を覚ましてください」



◇◇◇◇◇



「えっと、それでは失礼します」


 玄関で靴を履いたつぐみは立ち上がると、前に立つ品子へと別れのあいさつをする。


「本当に送らなくていいの?」

「はい、大丈夫です。帰りに食材も買っていくつもりなので」

「ちなみに今日は、何を作るの?」

「あ、まだ決めてないです。何を作るかは、いつもお店でチラシを見て考えているので」

「そ、そうか。……明日は、学校には来るんだよね?」

「良かったら、多めに作って持っていきますよ?」


 つぐみの言葉に、品子は目をキラキラと輝かせる。


「あー。やっぱり冬野君は、いいお嫁さんになるよ。私の所に来ない?」

「あはは、考えておきます。ではお邪魔しました!」

「うん、また明日ね」


 玄関の扉を閉めると、つぐみは駅へ向かって歩き出す。


「ふふっ。『また明日』って言われるのって嬉しいんだね」


 記憶が消えなかった理由は、分からないままではある。

 だが皆との明日が続いてくれていることは、つぐみにはとても嬉しい。


「その中に沙十美がいてくれたら、もっと良かったのだけど」


 沙十美の言う平穏な生活とは少し違う日々が、これから来るのかもしれない。

 でもそれは、悪いことではないとつぐみは思う。


 今、帰ろうとして歩いているこの道。

 ここを自分は何の迷いもなく歩くことが出来ている。

 それは今日までの経験があったから。

 平穏に生きていたら知らなかった道、歩むことの無かったこの道を。

 今、自らの足で歩いているのだ。

 この一歩を踏み出す力は、出会えた皆からもらえたもの。


 それを抱きしめて、一歩ずつでもいいから前に進んでみよう。

 それが今の思いであり念いだ。

 前を向き歩いていくと、誰でもない自分が決めたのだから。



 ――そう、これは。

 つぐみが品子達と歩き出した、始まりの一歩目の日の物語。

お読みいただきありがとうございます。

これにて一度、区切りとさせて頂きます。

とてもとても楽しかったです。

もし、自分に今後の成長のチャンスを頂けるようでしたら、感想、メッセージ等頂けたらとても嬉しいです。


次話からちょっとした番外編をいくつか投稿させて頂きます。

先に申し上げておきます。

こちらの番外編は笑いに全振りしたお話となっております。


あと、本編終わってからのタイミングですがTwitterはじめました。

@tugumi_omoikata です。よかったら覗いてください。


お読みいただき本当に本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読み切りました。 まだ番外編が残ってますがまずは一区切り(`・ω・´)ゞ ミステリー感と能力あふれるハイファンタジーが融合した素敵な作品をありがとうございます。つぐみちゅわんが無事で居てく…
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