室映士は尋ねる
どこへ向かっているのだろう。
自分の体に対して思うべきことではない。
だが、そう言わずにいられない状況に室はいた。
今、自分の体のはある存在に操られている。
それが、先程飲んだ薬の材料となった、千堂という娘の力だという。
そもそもこの娘は、力を持っていない一般人だ。
それなのに奥戸の力を使い、自分を操っている。
この状況を何とかしなければならない。
そう考えた室は、相手との接触を図ることにした。
「おい、何もすることが無くて退屈だ。話くらい付き合え」
奥戸の発動者としての能力は、下級か、よくて中級だ。
なのに上級の自分が操られている。
この点から糸口を見つけようと思案していく。
「おい、千堂。聞こえてないのか」
『ああああ、もう、うっさいなぁ! はいはい、聞こえてるわよ!』
「あまり上品ではないな。おい、じゃじゃ馬娘。お前はどうしてこんなことが出来る?」
『前も言ったけど知らないわよ。だって気が付いたら、あんたの中にいたんだもの。それであの子に酷いことしようとしてたから、許せないと思ったら。……色々こうなっちゃってたんだから』
本人にも自覚がないということか。
……もう少し聞き方を変えることにする。
「お前は強く願ったと言っていたな。何を願った?」
『私は奥戸から、あの子を次の薬にすると言われたの。それだけは止めたいと思った。あんた達の一部になるっていうから強く願った。私の全ての細胞の一つ一つに、彼女に危害を加えさせないように、覚えているようにと。彼女を守りたいという思いを忘れないようにと』
己の体の全てに。
細胞一つにすら掛けた強き願い。
これは願いを超えた『念い』と呼べるもの。
「その念いの結晶が、今のお前というわけか」
『なんかかっこいい言い方だけど、そういうことかしら。だからつぐみの存在を知っているのは後はあんただけ。あんたさえ他言しなければ、つぐみの安全は守られる』
「それはつまり、俺を殺すということか?」
『うーん、それがいま迷ってるところなのよね。さくっとそうしたいんだけどさ。そうすると、これであんたの組織が調べ始めたら、つぐみの件がまた探られるかもしれないし』
「口は悪いが、中々に頭は回るのだな」
『それ以上、失礼なことをしゃべったら紐なしバンジーさせるわよ。とはいえあんた本当に強いから、よっぽどのことをしないと死なないでしょう? ……だから』
室の体の中で「何か」がものすごい勢いで膨れ上がる。
「……これは?」
思わず呟く室に対し、くすりと笑う声が聞こえた。
『ねぇ、処刑人さん。私とちょっとした取引をしない?』
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次話タイトルは「井出明日人は思う」です。
ある意味、明日人も働きづめですね。




