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冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―  作者: とは


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大人の相談

 じわりと上がってくる熱気に少し顔をしかめながら品子は階段を下りていく。


「あんなにいじめなくても、良かったんじゃないのか?」


 後ろからついてくる惟之の言葉は、少し(とげ)を含んでいる。


「いじめたつもりは無いよ。彼らの覚悟が知りたかったからね」


 ビルから出て店の方を見つめた品子は、惟之へと言葉を返すと右手の腕時計を確かめる。

 つぐみがあの店に連れ去られてから、まだ一時間程しか経っていない。

 

「きっと私が協力してくれといったら、二人ともそうするのは分かってた。でもそんな気持ちでは無理。(おも)いが足りない。中途半端な気持ちで発動したら、きっと彼らに大変な反動が起こってしまう。それを防ぐためなら、私はいくらだって残酷な人間になれるよ」

「だからあんな、冷たい態度を取っていましたってことか」

「でも二人の力を合わせて発動しようという考えまで、あの子達が自分自身で気付けていたのは嬉しかったよ。冬野君の影響かなぁ? 二人とも、彼女のおかげでぐんぐん成長してるよねぇ。今までのあの子達は母親の言葉を守り動いていた。でも今はそうではなくて」


 語りながら品子は障壁に向け歩みを進める。


「自分たちの『意志』で冬野君を救おうと願っている。これも今までの彼らには無かったもの」


 障壁の場所まで来るとやはり歩みが途絶えてしまう。

 遅れて隣にやってきた惟之に品子は問う。


「惟之。お前はどうするのさ?」

「……品子、お前さ。あの二人を帰したら、一人であそこに行くつもりだっただろ。どんな方法で行くかは、俺には見当もつかないけれど」


 惟之は、品子の言葉をはぐらかす。


「さあね。惟之さぁ、お前こそどうせ一人で行くつもりだったんじゃないの? 今のお前には、それが可能なんじゃない?」

「言ってくれるね。そこまで買いかぶられても困るんだが」

「買いかぶってなんかないよ。……ねぇ、死にたがりやさーん?」

「おいおい。何を言ってるんだ。俺はまだやりたいことが沢山あるんでね。その予定はないですわ」


 惟之は口元に薄い笑みを浮かべ品子と目を合わせたが、すぐに店の方へと向き直る。


「今回、冬野君を助けられたら。マキエ様の件が、あの子達に(ゆる)されるとか思ってない? 命を懸けてお綺麗に華々しく散ったなら、赦してもらえるとか思ってるんじゃないの?」

「残念ながら俺は、そこまで利他(りた)的な人間ではない。そういうのは冬野君が担当だろう」


 品子は、障壁から少し離れたところにある縁石に腰掛ける。

 惟之はその様子をちらりと見ただけで、その場から動く様子はない。


「巻き込んでしまった以上、責任をもって迎えに行く。それが大人のお仕事だと考えただけだよ」


 呟く惟之を見つめ、品子は思う。


 だから私やあの子達を巻き込まずに、一人でお片付けしようって考えかい。

 嫌だね。

 そんな大人のお仕事なんざ、認めないよ。


「惟之、あのさ。一人で行おうとすれば負担は十だ。それが二人なら五になりうる。人数が増えれば、互いの負担はだいぶ減らせるんだ。なぁ、お互いに十というのは止めないか?」


 自分の方を向こうとしない惟之に、それでも品子は話し続ける。


「ここでお前が一人で、冬野君を助けられたのなら。確かにあの子達は、マキエ様のことは赦してくれるかもしれない。でもそれによりお前に何か起こったら? お前はあの子達に新しい心の傷を作ることになる。お前はそれが望みなの?」

「……」


 品子の言葉に惟之からの返事はない。

 それでも。

 それだからこそ、彼女は言葉を続けていく。

 さもなければこの男は、自らの命と引き換えにつぐみを助けに行くのだろう。

 品子にはその思いがあった。


「私は、あの二人の案は悪くないと思う。店まで入れば、あとはヒイラギの力を使って帰るだけでいい。だからお前が考えているであろう、この障壁の破り方があれば確率は上げられるから」

「……二つだ」

「え?」


 唐突に惟之が放った言葉に理解が出来ず、品子は間抜けな返答をしてしまう。

 惟之の右手には、いつの間にかサングラスが握られていた。


「障壁は一つではないんだよ。ここの一つと、店の扉にも施されている。だから二つの障壁を破る必要があるんだ」


 品子を振り返った惟之の左目には、金色の月。


「一つ目は俺一人でも破ることが出来るだろう。だが二つ目の扉まで俺の力が通用するか。俺にはその確証がない」


 金色の光が静かに消えていく。

 もどかしそうな表情を浮かべた惟之を品子は眺め思うのだ。

 この天邪鬼(あまのじゃく)男になんと言ってやろうかと。


「……お前さ。やっぱ一人で、やる気だったんじゃん。ばーかばーか、これゆきばーか」


 そういって品子は笑ってやる。

 思い切り大きな声で。


「おまえは昔からそうだ。何でも一人で抱え、他に頼ろうともしない。自分ばかりすり減らして、それなのに自分自身は守ろうともしない。そんなやつを馬鹿と呼ばずに、なんて呼ぶんだかねぇ」


 品子の言葉に惟之は不服そうだ。


「いい年した大人がする発言じゃねーな。あのなぁ、俺は……」

「二つ目の扉の方。それは私が何とかするよ」


 品子は束ねていた髪をするりとほどく。

 風で広がった髪が頬に触れるのを感じながら、惟之の方を見る。


「もう少し話を詰めよう。ここからはお互いに、はぐらかしなどは無しで」

「……了解、ではお前の話から聞こうか」


 サングラスを着けた惟之が、ようやくいつもの顔をしていることに品子は安堵する。

 くいくいと手招きをしてから、自分の座った縁石の隣を指差す。 

 素直に座った惟之を眺めながら、品子は話を始めるのだった。

お読みいただきありがとうございます。


次話タイトルは「人出品子は誘い寄せる」です。

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― 新着の感想 ―
[一言] アダルティーな魅力を解き放った品子先生にドキドキです(`・ω・´)ゞ 髪をたなびかせてアダルトがアダルトと本音でトークを炸裂させる。もう新宿でスイーパー家業をする男みたいな世界観を見た思い…
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