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「……以上が、シヤが聞いた冬野君の会話だよ。ここから分かるのはあの店にいるのは、店長と呼ばれる奥戸という男。基本的に一人でいるようだから、どうやら他の発動者はあの店にはいないようだね」
品子の言葉にヒイラギは頷きながら、机に広げられている資料を見つめる。
そのうちの一枚を手に取り、品子は再び口を開いた。
「これがあの店の見取り図だよ。冬野君が言う通り、店舗の奥に部屋が二部屋。間取りは、そのままっぽいな。空間をいじるタイプの発動者ではなさそうだね」
「千堂沙十美の名前も出たから、これで確定したな。この一連の行方不明事件の犯人は、こいつだろう。さらに冬野君が、例の黒い水の所有の確認も済ませてくれた」
惟之が窓の向こうの店舗を見つめながら、ヒイラギ達に向け言葉を続ける。
「相手もなかなか慎重だな。冬野君が何度か逃げようとしてたがことごとく阻止してる。ヒイラギ。悪いが何か飲み物を取ってくれないか?」
惟之は、窓から目を離すことなくヒイラギに言う。
「わかった。コーヒーでいいかな?」
冷蔵庫から出したコーヒーをヒイラギが届けると、惟之は軽く微笑み受け取る。
「だからこそ、これまではうまくやれていたんだろうよ。今回は冬野君が相手だったからそうはいかなかったみたいだがな。っとヒイラギ! 悪いけど私にも、何か飲み物を取ってくれる? っていうか甘いコーヒーある?」
今度は品子か。
そう思いながらヒイラギは、先程とどいたばかりの小さな冷蔵庫の中を覗き込む。
「うわ、本当に甘いコーヒー入ってるよ。これって出雲さんの手配だろうな」
中身を覗き込み思わずヒイラギは呟いた。
出雲は二条の人間で、惟之の直属の部下にあたる。
発動者ではないが、とても視野が広い人物だ。
ヒイラギは出雲がこういった準備を完璧にこなしている姿しか見たことがない。
こうして話している間にも、その出雲が手配したであろう移動型のクーラーやら組み立て式の机と椅子、寝袋までが運ばれてきている。
着実に待機の準備は進んでいるのに、自分だけが何も出来ないでいる。
ヒイラギはそんな自分に無力さを感じていた。
惟之と品子は先程から次々に送られてくる資料を読み込み、対策を練っている。
シヤは継続してつぐみの様子を報告している。
だからこそ彼は思うのだ。
――では、俺は?
俺は、どうしたらいいんだろう?
何もしないで、ここにいるだけなのか?
皆はあいつの為に、こんなに頑張っているというのに。
やりきれない思いから、ヒイラギは思わずコーヒーを強く握りしめる。
うまく消化できない思いを抱え、つい黙りこくったまま品子にコーヒーを渡してしまう。
その様子に品子がヒイラギを見上げる。
「ヒイラギ。彼女を助け出すとしたら、お前の力で救出することになる。今は休んで、どんな時でも動けるように準備しておいてくれ。だから」
急にヒイラギの体が傾く。
品子がヒイラギを引っ張り、わしわしと彼の頭をかき混ぜるように両手で撫で始めたからだ。
「そんな顔、するな」
品子は小さく呟く。
「……うん。ごめん。俺、ちょっと仮眠を取るよ」
「あぁ、そうしておいてくれ」
重い足取りでヒイラギは届いた寝袋を引っ張り出し、ファスナーを開けようと金具に手を掛けた。
「だめっ!」
シヤの鋭い声が響く。
「品子姉さん、惟之さんっ。つぐみさんが!」
その声に慌ててヒイラギはシヤの傍に駆け寄る。
「兄さん、リードを強めます。気分が悪くなりそうなら、……離れていてください」
目を伏せてシヤが言うと、彼女の首に青い光が集まる。
ヒイラギは得体の知れない不安を抱えながら、彼女の発動を待ち続けた。
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次話タイトルは「『ここ』にいますよ」




