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冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―  作者: とは


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作戦会議

 つぐみが木津家を出て間もなく。

 台所で食器を洗っているヒイラギは、シヤと品子の会話を耳にする。


「つぐみさん、駅に向かいました」

「わかった。一応、彼女が家について安全が確認できるまでは、『リード』はつなげておいてね」

 

 二人の声を聞きながら、ヒイラギは今の状態を思う。

 いつも通りの家が、人が一人いなくなることでこんなに静かになるものなのかと。


 さっきまでが、いつもと違うことなのに。

 今こそがいつも通りの状態なのに、違和感を抱いてしまうのは一体なぜなのだろう。


 たった一日、居ただけの人。

 人の家でぎゃんぎゃん泣いて。

 品子の手当てしながら、ぎゃんぎゃん騒いで。

 自分の作った食事を美味そうに食べて帰っていった人。


 つぐみが品子と惟之以外に、この家に滞在した初めての人間だったことにヒイラギは気づく。


 ヒイラギはそもそも他人が好きではない。

 彼が属している場所で、今までに周りに扱われてきたことや掛けられてきた言葉。

 それを考えるまでもなく、人を好きになれる環境ではなかったのだから。

 

 もちろん品子や惟之のように、彼に普通に接してくれる人間も少しはいた。

 だがほとんどの人間から向けられるのは侮蔑、嫌悪、嫉妬ばかり。

 それならば関わらずにいてくれた方がよほど互いのためだ。

 いつしか彼はそう思うようになってしまっていた。


 ……それなのに。

 ヒイラギは自分の中に芽生えた感情に戸惑う。


 それなのにさっきまでの時間が、あのよくわからない時間は。

 ……嫌じゃなかった。


「ヒイラギ、ちょっといい? 明日の件で少し話がある」


 品子の声に、ヒイラギはいったん手を止め後ろを振り返る。


「わかった、もう少しで終わるから」


 急ぎ皿を洗い終えると、三つのコップにお茶を注ぎヒイラギはリビングへと向かうのだった。



◇◇◇◇◇



「惟之は明日の夕方過ぎには、発動可能だそうだ。それで私達の方だけど、シヤは惟之に何かあるといけないのでリードを惟之に発動。ヒイラギは惟之の傍で待機して、何かあったら即座に惟之を連れて移動。これでいこうと思っている。何か質問はあるかい?」


 片手でコップを持ち、ゆらゆらとお茶を揺らしながら品子が二人に問いかけてくる。


「品子姉さん、私はどこにいればいいですか?」

「シヤは私の車の中だよ。私と一緒に、多木ノ駅のターミナルで待機していてもらう」

「品子、惟之さんの発動場所ってどこ?」

「んー。わかんないけど多分、駅に近い高い所だと思う。周辺を見渡せるところじゃないかなぁ」

「じゃあ今から俺は、ちょっと多木ノ駅に行ってくる。もう少し地理を把握しておきたい」


 残っていたお茶をグッと飲み干し、ヒイラギは立ち上がる。


「そうだね、退路の確保よろしく。今回はみるだけだから、よほどその心配はないと思うけどね」

「わかった。行ってくる。夕方までには戻れると思う」

「おっけ、いってらっしゃい」

「気を付けて、兄さん」


 むせかえるような暑さの中、靴を履くとヒイラギは大きく伸びをしながら思考をめぐらせる。


 行方不明になって、千堂沙十美はまだ日が浅い。

 うまくすれば助けてやれるかもしれない。

 そうしたら、あいつは泣きながら喜ぶのだろうか?


 顔を真っ赤にして、一人で慌てているつぐみの姿が一瞬だけヒイラギの頭によぎった。


「出来るならば……」


 ポツリと言葉を吐き出し、ヒイラギは気持ちを整える。

 自分に出来る行動を今はやるだけだ。

 結論を出し、ヒイラギは玄関を出て駅へと向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒイラギくーん。 もう読んでいてヒューヒューと冷やかしてしまったこと、素直に謝罪いたします。彼は典型的な男の子ですね。 もう心が踊るなんてレベルではありません。さすがはとは様、感服しまし…
[良い点] つぐみが居たことに楽しさというか騒がしさというか、普通らしい生活の温かさを感じたヒイラギ。居心地の良さを上手く言葉にできないヒイラギだけど、悪くない時間だったと思えているのが良いですね。実…
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