くらいへやで8 (カテノナ:S)
「これは素晴らしい! こんなことは初めてです!」
小さな小さな呟きが響く中、奥戸は歓喜に震えていた。
「きっかけは何なのでしょう? これは突然変異というものでしょうか? こんな味が出来るなんて。しかも突然に味が変わるなど、これは初めての体験ですよ! あははっ!」
指に付いた黒い水を口に含みながら、奥戸は自らの興奮を抑えることが出来ずに叫び出す。
ガラス瓶の中に沙十美が座った椅子の下をたゆたう黒い水を注ぎこみながら、奥戸は彼女に向けて一方的に捲し立てていく。
「素晴らしいですよ、千堂さん。あなたはいったい、何をしたのですか? どんな念いを持ち続けているのですか?」
奥戸の問いかけに応ずることなく、沙十美はただただ同じ言葉を呟き続けている。
「相手にしてはくれないのですね。……まぁ、いいです。それよりもまずは一刻も早くこれを皆さんに届けないと」
黒い水を数本のガラス瓶に詰めると、奥戸は待ちきれないと言わんばかりに部屋を出て行く。
その扉が閉まってもなお、部屋の中には沙十美の呟く声が響き続けるのだった。




