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冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―  作者: とは


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冬野つぐみと靭惟之の場合

「さて、本来なら持出厳禁。だけど、どうしてもっていうから貸したんだ。冬野さんは、まさかそれを見てはいないよね?」


 つぐみへと笑いかけながら、惟之は問うてくる。

 だが、その視線は明らかに自分を観察しているものだ。

 さらに言えば、彼の目は全く笑っていない。

 言葉を選びつつ、つぐみは答えていく。


「どうして、そう思われるのでしょうか?」

「なぜならその資料が君にとって、とても知りたい内容のものだからだよ」

「すみません。おっしゃっている意味が、私にはわからないのですが」

「……まだるっこしい会話は好きではない。ならば、言い方を変えてみようか?」


 惟之は前屈みになり、つぐみへと顔を寄せてきた。

 一転して、怒りを含んだ口調で話し始める。


「君の友達で、現在は行方不明中の千堂沙十美さん。彼女の資料を、君は見たのかい?」

「……」

「どうしたんだい。答えてくれないと、こちらも困るんだけど?」

「それは……」

「それは?」

「それは一体、どういうことでしょうか? 沙十美は今、手足口病で家で療養中です。行方不明になんてなっていません」

「な……」


 惟之が口元を覆い、言葉を途切れさせる。


「確かに話すことはできませんが、スマホできちんと連絡は取れています。グループの皆とも、連絡を取り合っていますから。靭さんがおっしゃっていることは間違いです」


 スマホのトーク画面を開き、惟之へと差し出す。


「そもそもあなたはどうして、名乗っていない私の名前を知っているのですか? その行方不明と言ったことと合わせて、説明をいただけませんか?」

「……もういいだろう。お前の負けだよ、惟之」


 品子が、つぐみの隣へとやって来る。

 目をそらすことなく惟之を見つめるつぐみの肩へ、彼女は手を添えた。


「この子に対する、千堂沙十美の情報漏洩(じょうほうろうえい)。それこそ服務規程違反だ。さらに私も彼女も話してない、冬野君の名前を出した件。これをお前は、どうやって説明する?」


 惟之は何も言わない。


「惟之。お前のその録音が、お前の首を絞めているのを忘れるなよ」

「……」

「惟之、そもそもなぜ」

「……わかった。俺の負けだ」


 惟之がスマホの録音を止める様子に、つぐみは小さく息をつく。


「あ、あの。先生が何か、罰せられるのはもう無いのですよね?」

「あぁ、すまなかったね冬野君。おそらくこいつは、本気で私を罰するつもりは無かったとは思うが」


 品子は、つぐみへと微笑んでくれる。

 温かく優しい、見ているだけで安心できる笑顔。

 嬉しさにつぐみも笑顔を返すそうとするが、先程までのプレッシャーから解放されたためだろうか。

 途端に足に力が入らなくなってしまう。


「あぁ、良かった」


 そう呟き、思わずその場にへたり込んでしまう。


「え? ちょっ、冬野君! 大丈夫?」

「大丈夫です。よかった。先生に迷惑が掛がらなくて本当に良かっだよぉ」

「冬野く……、って、うわっ泣いてるし。わぁ、鼻水も出てる。女の子がこの泣き方はちょっと。惟之っ、ティッシュ持ってきて!」


 わんわんと泣き続けるつぐみを、品子はティッシュで涙をぬぐいながら、頭を撫でくれる。

 やがて品子は、惟之と話があるからと二人で外へ出て行った。


 ひとしきり泣いて落ち着いた頃、今度はヒイラギとシヤがリビングへと戻ってきた。

 二人からは、品子の指示で別室にいるように言われていたことを聞かされる。

 先程までの話の内容は、シヤの力で聞いていたらしい。


 ヒイラギが、『まぁ。お前、頑張ったよ』と話しかけてくる。

 嬉しさとまだ落ち着かない混乱から、つぐみはまた泣きはじめてしまった。

 それを見たシヤが、無表情ながらもつぐみの頭をそっと撫でてくれる。


 シヤに撫でられる。

 そんな珍しい体験をしながら、しばらくつぐみは泣き続けた。

 泣いたことにより疲れたが、心は涙が出た分とても軽い。


 自分はきちんと品子の役に立てただろうか。

 そうだったらいいと願い、つぐみは笑顔とともに、涙をこぼした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私はとは様を天才だと思っていました。 ですがソレは思い違いだったようです、え? 超天才だったのですか? この展開は凄い、ジェットコースター過ぎて重力感が凄いです。急展開にいい意味で裏切られ…
[一言]  つぐみはよくやりましたよ!  さとみの資料を読んだ翌日にこれだけしっかりした対応ができるとは。  最後大泣きしてしまいましたが、つぐみは本当は強い女の子ですね!
2021/07/12 14:06 退会済み
管理
[良い点] 品子を人質に協力させようと思っただろう惟之をものの見事に返り討ちにしたつぐみは頭の回転がやっぱり速いですね。 木津家にいることである程度の情報は知っていると思い込んでしまっていた惟之の完…
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