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冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―  作者: とは


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人出品子と靭惟之の場合

 リビングからの大きな音に、つぐみは振り返る。


 何があったのかと、リビングをのぞきこんだつぐみは、思わず息をのむ。

 惟之に上から覆いかぶさり、右手首を掴まれながらも、彼を鋭く睨む品子。

 そしてそれに動ずることなく、額に触れんばかりの品子の指先を見上げ、笑みを浮かべている惟之の姿がそこにはあった。


「なっ、何が? 先生!」

「冬野君! 体調はもう大丈夫だろう。今日は帰りなさい。後はヒイラギ達がやってくれるから!」

「でも先生、こんな……」

「いいから帰るんだ! 早くっ!」

「いやいや、まだ帰りたくないよね? 『無力な』つぐみちゃんは、どう思ってるの?」


 惟之の呼びかけに、品子がつぐみへと目を向ける。

 その隙を逃さず、惟之は品子の手首を強く握ると、空いた手で彼女を強く突き飛ばした。

 体勢を崩し、倒れた品子を横目に、惟之は立ち上がる。


「あー、やだやだ。暴力的な女って怖いなー」


 腕をぐるりと回しながら、惟之がつぐみへと近づいてくる。


「俺さぁ、つぐみちゃんに聞きたいことがあるんだけど」

「……私に、答えられることでしたら」

「怖がらなくても大丈夫。初対面でまだ知らないから、警戒しているだろうけどさ。俺、結構いいやつだから」

「そうですね。確かに私は靭さんとは初対面ですが、あなたは私をよく知っているようで?」

「えー、どうしてそんなことを言うんだい? さっきお互いに自己紹介したばかりでしょ?」


 近づく惟之に恐怖を覚え、つぐみは一歩、後ろへと下がる。


「確かに自己紹介はしました。でも私、苗字だけでしか名乗っていませんが?」

「あれ、そうだっけ? 品子が言っていなかった?」

「先生も確かに、苗字は何度か呼んでいました。ですが私も先生も、名前は言っていません。」

「惟之! この子は友人の件で今、とても不安な精神状態にいる。これ以上、彼女を惑わせるのは私が許さない!」


 手首を押さえながら、品子が叫んでくる。


「うるさいなぁ。別に取って食うわけじゃないんだから。……さてと、冬野さん。君に聞きたいんだが」


 惟之が笑顔を浮かべ、つぐみへと向き直る。

 張り付いたような笑みに、つぐみの警戒感は増すのみだ。


「ここに来たのは、ある資料を人出さんに返してもらうため。とても大事な資料でね。第三者に見られるなんて、あってはならないものなんだ」

「待て、惟之! 私は……」

「人出品子。私はあなたに、服務規律違反(ふくむきりついはん)の可能性があると考えている。その確認作業をしている今、あなたの発言を認めない。証拠保全のための録音も、今から行わせてもらう」


 惟之は胸元のポケットからスマホを取り出し、操作を行っている。

 品子は彼を見あげていたが、やがてうつむき、何も言わなくなってしまった。

 まずい。

 自分の答え方によっては、品子が罰せられてしまう。

 これからの発言を間違えることは、決して許されない。

 落ち着いて、しっかり考え答えなければ。

 ゴクリとつばを飲み込み、つぐみは前に立つ惟之を見上げていった。

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