靭惟之は問いかける
「冬野さんね、可愛い子だねぇ。ああいう料理好きの子はポイント高いよな」
ふざけた口調の惟之に品子は苛立ちを隠せない。
「……何しに来た? 資料はこちらから返しに行くと言ったはず」
つぐみに聞こえないように、品子は小声で惟之へとささやく。
同様に声を潜めつつも、楽し気に惟之は言葉を返してきた。
「いや、ついでにこちらに来る用事あったから。だったら俺が、そのまま資料を持って帰ればいいわけだろ。お前も来なくて済むから一石二鳥。なんせお前、本部には会いたくない人達もいるだろう?」
「それはどうもご丁寧に。資料は今すぐ返却しよう。彼女は今、友人の件でとても不安になっている。何も知らないあの子にこれ以上、負担をかけたくない。飯を食ったらすぐ帰れ」
品子の提案に、惟之は不満そうな表情を浮かべていく。
「なんでだよ。あの子が千堂沙十美の情報を今、一番もっているんだろ? なら解析組の俺だって話を聞かせてもらってもいいはずだ。それとも俺がここにいるのは、何か不都合でもあるとでも?」
台所の方から、出汁のいい匂いが漂ってきた。
もうじき料理が届くことだろう。
今、彼女と惟之が話をするのは避けたい。
品子はそう考え、つぐみに追加で料理を頼み時間を稼ぐ。
「惟之、冬野つぐみは普通の人間だ。力も持っていない子を必要以上に動揺させてまで、聞く必要がどこにある?」
「あるだろうよ。……なぁ、品子。あの子に、その無力とお前が言っている彼女に」
惟之はサングラスを指で押し上げると、品子を見据える。
「お前は何をしようとしている? 一体、何をさせようとしているんだ?」




