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冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―  作者: とは


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木津ヒイラギは怒る

「うっはぁ、お姫様だっこだ! ヒューヒュー」

「あほか! 仕方ないだろう。こいつ意識が無いからこうするしかないんだから!」


 指定された第三駐車場には誰もいない。

 つぐみを品子に任せると、ヒイラギは草むらに置いていた荷物を取りに向かった。

 鞄の外側に付いていた枯れ草を払い、改めて様子を見る。

 ファスナーのある鞄なので、虫などは入ってこなかったようだ。

 荷物を後部座席で眠る彼女の横に置き、ヒイラギは助手席に座る。

 車を発進させた後も、品子が妙にニヤニヤと笑っているのがどうも気に食わない。


「……何が、おかしい?」

「いやいや。だって年頃の男の子が、年頃の女の子と二人っきりの密室でしょ? これってさぁ」

「誰が密室で、何だって?」

「い、痛いです。ヒイラギさん。運転中の人の腿(もも)をつねるって、人として間違っていると思いませんか?」

「まず、お前の心根が間違っているということに気付けよ」

「ひどい! これでも教職員として、生徒の日々の成長を見守りながら、一生懸命に生きているのに!」


 駄目だ。

 品子の相手は、無駄に精神が削られてしまう。

 いつものペースに乗せられるのを嫌ったヒイラギは、話題を変えようと口を開いた。


「それで、これからこの人をどうするんだ? 家まで送っていくなら俺、先に一人で帰るけど?」

「え~、いやいや。今からこの子を連れて、君達の家に向かうつもりだよぉ」

「……なんで?」

「えっ、やだー。声がこわーい。そんなんだから女の子とお話し出来な……」

「ふざけるな! こいつを巻き込むのか?」


 こみ上げる怒りのまま左手の拳を車のドアに強く叩きつけ、ヒイラギは品子にどなりつけた。

 だん! という大きな音が響くも、品子は全く動じない。


「巻き込むじゃないよ。彼女は自ら協力したいと言ってくれているんだから」

「だって! こいつは普通の!」

「彼女はね」


 ヒイラギの言葉を遮り、品子が続ける。


「その『普通』なのに、千堂沙十美の携帯を私が持っていること。彼女に何か起こったであろうということを、たった一人で導き出して私の所に来たよ」

「……え、こいつが?」


 思わずヒイラギは後ろを振り返った。

 相変わらず眠り続けている、つぐみの姿がヒイラギの目に映る。


「全くさ~、うちの解析組(かいせきぐみ)もダメダメだよね。彼女がたった数日でここまで来てるっていうのにさ。見習ってほしいよね。特に無駄に目ぇ垂らしてるあいつとかさ~」


 惟之(これゆき)が、すごいとばっちり受けている。

 その場にいない自分の仲間に、ヒイラギは心から同情してしまう。


「こいつは発動の事は?」

「まだ知らない。教える前に寝かせちゃったから」

「寝かせたって、お前さぁ」

「だからね。その力を見て、判断してもらった方がいいと思った。それで断ってくれるならとも考えてるし」


 品子は淡々とヒイラギに語る。

 その横顔からは、どういった意図(いと)があるのかは全く分からない。


「私だけではなく、他の人のも見せればもっと説明しやすいし」

「それでうちに来るのかよ」

「そうでーす」

「シヤが何て言うかねぇ」

「わかんなーい。でも説明する必要は無いから、話は早いと思うよ」


 言われて後ろを振り返り、眠っているつぐみの左手にヒイラギは目を凝(こ)らす。

 彼女の左の手のひらに浮かぶのは、かすかに揺らめく青い光。


「……何だよ、知らなかったの俺だけかよ」

「まぁまぁ、怒らないでよ。シヤ~! もうすぐ愛しの品子さんが帰るからね! リビングに、この子を寝かせる用の布団を敷いておいてほしいな」


 嬉しそうに話す品子の声を聞きながら、ヒイラギは後ろの席を眺める。

 何も知らないつぐみは、いまだ静かに眠り続けている。


「利用される位ならば……」


 品子に聞こえないように、ヒイラギは小さく独り言を呟く。

 その後に続けようとした言葉を、慌てて飲み込む。

 

 ――もういっそこのまま、目を覚まさないでいた方が、こいつの為にはいいのでは。

 自身が考えた内容に驚き、ヒイラギはふるふると首を振る。


「どうしたんだい? まるで『このままこの子が目を覚まさなきゃいいのに。え、俺って今、何を考えて……』って思っているかのようなその行ど……」

「あ・ん・ぜ・ん・う・ん・て・ん・だ! お前はそれだけ考えていろ!」

「痛いっ、ヒイラギさん。運転中の人の頬をつねるって、人として間違ってひるとおもひませんか?」

「思わねーよ!」

「ひどいわ。これでほっぺたがびろーんてなったら、お嫁に行けなくなっちゃう!」

「まずお前の心根が直らない限り、その嫁の行き先とやらにたどり着けないということに気付け! もう限界だ! お前の相手なんてしていられない!」


 ヒイラギはどかりと音を立て、座席に大きくもたれかかる。


「寝る! 着いたら起こせ!」

「あら、寂しいわ~。でも若人(わこうど)は、睡眠も大事よね」

「あと、その変な口調やめろ」

「はいはい。……今日は手伝ってくれてありがとな。おやすみ」


 ポンポンと品子は優しくヒイラギの頭に触れる。


 もうそんなことをされる子供じゃない。

 そう思いながらも、ヒイラギはそれを口には出さないでいた。


 ……まだ、『嬉しい』と思う自分。

 それを自身の中に、感じていたからだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お、お姫様だっこですか? これは小説のヒーローに相応しい絵だ。 そして当然の如く冷やかす品子。 面白いです! しかし品子は本当に色んな意味で良いキャラしてますね(笑)
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