人出品子は考える
――ここまで発動がうまくいくと正直拍子抜けする。
ぼんやりとつぐみを見つめ品子は思う。
「さて、どうしたものか」
目の前で椅子にもたれかかり、気持ちよさそうに眠るつぐみを前に品子は考える。
「……うん、とりあえずヒイラギを呼ぼう。この子を私一人で、連れて行くの大変そうだし。私、非力な女の子だしぃー」
呟きながら、自らのスマホを取り出すとヒイラギへと連絡をする。
ぎゃんぎゃん喚いているヒイラギとの通話を一方的に切った後、しばらく待つ。
足音が響くこともなく唐突にドアが開かれ、直後に叫び声が響く。
「品子、てめぇ! ……え、誰これ? あ、この間のやつだ! え、何で?」
息を切らしながら現れたヒイラギは、目の前の光景に言葉を失っている。
「やぁ、ヒイラギ君お疲れ。というわけでこの子を私の車まで運んでくれる~?」
「何でいきなり呼ばれたかと思えば、そんなことをしなきゃいけないんだよ。っていうかこいつ、寝ながら笑っていないか?」
「いや~。きっといい夢、見ているんだろうね~。私はこの子の靴を取って来るよ」
品子は腕時計を見ながら、今後の行動を確認する。
「彼女の下駄箱に寄って、えぇとそれから。停めている駐車場は、他の車もまだ停まっているよね。この子を連れているのを見られないように、他の駐車場に移動しなきゃ」
ヒイラギへと品子は手早く伝える。
「十五分後に第三駐車場で集合ね。間違えて今、停めてる第一駐車場に行っちゃだめだよ」
つぐみの荷物を手に取り、ドアへと向かいかけた品子は足を止める。
彼女の荷物を持っているのを、他の生徒や職員に見られるのはまずい。
「ヒイラギ。彼女の荷物も、一緒にお願いできる? 私が持っているの、見られたくないから」
「えー、面倒ごと押し付けてくるなぁ」
ヒイラギはぶつぶつ言いながらも、品子へと手を伸ばしてきた。
「……どう? 人、まだたくさん残ってる?」
つぐみの荷物を、渡しながら品子は尋ねる。
「ん……、大丈夫。この位なら抜けられるところいっぱいあるから」
目を閉じたまま、ヒイラギは答えている。
「じゃあ、十五分後だよ。よろしく」
「人使い荒いなぁ。……ってうわっ、この人、めっちゃよだれ出てんだけど!」
「いや~。きっと夢の中でさ、美味しい豚バラ大根を食べているんだろうね~」
品子は笑いながら、ヒイラギに部屋の鍵を渡す。
「下駄箱に人がいないとも限らない。見られると厄介だから少し急がせてもらうよ。では後で」
ヒイラギの返事を待たずに、品子は扉を開き部屋を出ていくのだった。




