表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―  作者: とは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/98

真夜中クッキング

「……寝られませんねぇ」


 もう何度、寝返りを打ったことだろう。

 つぐみの体にはまったく眠気が訪れてくれない。

 時計を見れば午後十時過ぎ。

 いつもなら、眠っていてもおかしくない時間だ。

 あんなとんでもない時間を過ごし、心も体もクタクタのはずなのに。

 それでも眠りはつぐみからは遠いようだ。


「あー、もうやめやめ! 寝るのはもう諦めます!」


 寝られないならば仕方がない。

 ならば眠くなるまで待てばいいのだ。

 布団から出てつぐみはキッチンへと向かう。


「とりあえず明日の夕飯の仕込みかな? あ、せっかくだから少し多めに作って先生に持っていこうか?」


 今までの傾向を考えて、好みは和食の味染み系だろう。

 そう結論づけ、冷蔵庫を覗き込み手持ちの材料を眺める。


「うん、大根と豚肉があるから豚バラ大根にしよう。先生は隠し味にこだわりがあるみたいだから。……うん、ここはポン酢かな?」


 ごま油で豚肉を炒める。

 ふわりと香ばしい香りがフライパンから立ち上った。


「んはー、いい香りだよ~」


 料理の間は何も考えなくていい。

 頭の中が思考渋滞を起こした今のつぐみには、実に都合がいいのだ。

 余計なことは考えない。

 そのためには心を無心にと、じゅうじゅうと音を立てているフライパンを眺める。


『千堂君の行方は、私には分からないんだ』


 不意に品子の言葉がよぎる。


「だめっ、考えるな! ……ふんふふ~ん、ごまあぶら~。豚肉ぅ~。バラ肉のバラって何さ~」


 余計なことを考えるくらいなら、どうでもいいことを考えてかき消せばいい。

 つぐみは思うがままに考えた自作の歌を歌いながら、豚肉を焼いていく。


「お、カリッとしてきたね! 大根投入~!」


 フライパンに薄く切った大根を入れていく。


「はんはは~ん。大根~。昔「オオネ」と呼んだのは私だけの秘密~」


 教科書の読み合わせ。

 そこで思いきり読んでしまった誤読(ごどく)

 そしてそれは、次の学年までそのあだ名で呼ばれるという悲しき儀式でもある。

 しばらくつぐみは違うクラスの人間に「オオネさん」だと思われていた。


「ま、まぁ。小学校時代なんて失敗してなんぼ、だよね」


 しょうゆ、みりん、ポン酢。

 そして恥ずかしい記憶をかき消すように、それらをぐるぐると計量カップの中で混ぜ合わせると、静かにフライパンへと注いでいく。

 しっかりと火が通ったのを確認し、コンロの火を切る。

 これで明日には味の染み込んだおいしいおかずの出来上がりだ。

 調理器具と皿を洗い片付けに入る。


 いなくなっていた睡魔も、つぐみの元へ戻りたくなったようでまぶたが重い。

 品子に渡す容器と保冷バッグを机に準備して、再び布団へともぐり込む。

 目を閉じたまぶたの中に広がる心地よい暗さを感じながら、つぐみは今度こそするりと眠りに落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ