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えっ、なに、その語尾

「困った事になった」


「困った事になりましたね」


「…………(プルプル)」


キース達から、もたらされた衝撃の事実について、受付で確認をとった俺たちは、ギルドに併設されているBARの机に突っ伏し、途方に暮れていた。


もちろん、金などないので、水のみの注文だ。


BARに来て水だけ頼むとか、普通なら馬鹿にしてんのかとキレられて、叩き出されてもおかしくない。


しかし、俺達がキースと会話している間に、こっそり抜け出していた、もちこがファインプレーを見せた。


BARのマスターである妙齢の女性を、その可愛さで陥落し、ちゃっかり、ご飯まで貰っていたのだ。


知らないところで好感度を稼いでいたお陰か、事情を話すと、親切にもテーブル席と水を用意してくれた。


「不幸中の幸いか、もちこのお陰で、こうして腰を落ち着ける場所は確保できたが、これからどうしたもんか。というかリンネ、お前はクエストが枯渇してること知らなかったのか?」


「そうですね。私が知るのは、この世界の常識的な知識だけで、リアルタイムの情報は持ってません。分身体の間では情報の同期を行えませんし。私たちが得た情報は全て本体に送られて、重要と判断されれば、各分身体に再分配される仕組みですから」


「くっそう、この状況は最低でも一週間は続くって言うし、別の仕事を探さないとな」


「とはいえ、冒険者以外の仕事を探そうにも、今の白木さんにはコネもスキルもありません。この世界では、どんな仕事でも経験値を獲得して、スキルを習得してから就職するのが基本です。そう都合よく働き口が見つかるかどうか……」


「マジかよ。異世界生活スタートして直後に詰んだんだけど」


ちなみに、キース達は知り合いのパーティーに臨時加入させてもらっているらしい。


他に当てがないか聞いてみたが、今はどこも人手が足りているようだ。


俺達のように仕事にあぶれた転生者を既に受け入れていて、割り込む余地がないのだろう。


「いっそのこと別の街に……いえ、この辺りは比較的、安全地帯とはいえレベル1の丸腰冒険者が旅できるほどでは……」


「丸腰冒険者って、悲壮感が凄い単語だな。何をすればそんな事になるのか」


「他人事じゃありませんよぉ」


何故か俺よりも泣きそうになっているリンネ。


ナビゲーターとしても、あまり経験がない事態なんだろう。


一方の俺は、落ち着いているというより、もはや悟りの域だ。


こんなもの、どうしろというのか。


憧れのファンタジー生活のはずが、スタートダッシュで躓いて、崖から飛び降りた気分だ。


「あっ、お兄さん! ちょっと、聞きたいことがありますですっ」


お通夜のような暗い雰囲気を吹き飛ばす、明るい声と共に寄って来たのは、銀髪に褐色の肌、翡翠色の瞳を持つ小さな女の子。


割りと洒落にならない事態に凹んでいたが、元気一杯な女の子の様子に少し癒されて、思わず顔が緩む。


「どうしたの、お嬢ちゃん。迷子かい? 助けてあげたいのは山々だけど、俺もこの辺の地理には詳しくないからさ。あっちの綺麗なマスターか、上の階の受付で聞くと良いよ」


「ミルクは迷子じゃないですます! っていうか、お兄さんと大して変わらないと思いますです!」


「………………えーっと、うん。ご、ごめんね」


どうしよう、迷子がどうとか、歳がどうとか、そんな事がどうでも良くなるくらい語尾がおかしい。


【~ますです】なら、アニメとかで聞いたことあるけど【~ですます】って何だ。


ですます調とか言うけど、本当に語尾を【ですます】にしてる人なんか初めて見た。


これは、もしかしなくても、変な人に目をつけられたのでは?


ただでさえ問題を抱えているのに、これ以上は勘弁してほしい。


「分かれば良いです。もう、失礼ですねぇ」


「いや、謎の語尾は!?」


確かに、勘弁してとは思ったけども! 


唐突に止められると、それはそれで何かモヤモヤするんだけど!


「語尾? なんのことですます?」


「それだよ!」


なんで、きょとんとしてるんだよ!


くっそ、でも幼い顔立ちと相まって妙にかわいいから困る。


「だっはっは! 兄ちゃんもミルクの洗礼を受けたみてぇだな!」


豪快に笑いながら、少女の後ろからやって来たのは、筋骨粒々なスキンヘッドの大男。


その更に後ろから、他にも二人ほど、いかつい男達がぞろぞろとついてくる。


「洗礼?」


「おうよ! この子はドワーフでな。昔、人間の言葉を教えてくれたドワーフの姉ちゃんが、こんな口調だったそうだ。そのせいか、無意識にポロリとやっちまうみたいでな? 悪気はないから気にしないでやってくれ」


「そう……なんですか。分かりました」


気の良い笑みを浮かべる大男が話した事情に、俺は取り敢えず頷いておく。


突っ込みどころ満載な気はするが、いちいち気にしていては話が進まない。


なんか、このギルドに来てから変人ばかりと話しているなと思ったが、よく考えたらリンネも変人だった。


あぁ、平穏な日本の暮らしが懐かしい。


なんか無性に妹に会いたい気分だ。


「それで、皆さんは俺達にどんな用件が?」


「そうでした! 思わず脱線してたですます。お二人のこと、受付で聞きましたですよ。受けられる依頼がなくて困ってるって」


「あぁ、えぇ、まぁ、そうですけど」


「そこで、ミルク達のパーティーに誘いに来たのですます! たとえ自分のレベルが低くても、高レベルの冒険者が監督役になれば、ランクの高いクエストを受けられますです。それに、監督役をギルドに申し出て、無事に依頼を達成すれば、監督側にもメリットがありますから、お互いハッピーです!」


「なるほど……確かに、魅力的な提案ですね」


「へぇー、そんな制度があったんですか」


「いや、これも知らないのかよ。自称ナビゲーター」


「自称じゃなくて、れっきとしたナビゲーターですぅ!」


頬を膨らませて怒りを露にするリンネだが、ぶっちゃけ全く怖くない。


神の怒りと言えば、空に響く雷鳴とか、大地が裂けたりとか、海が割れたりとかだろ。


足元のスライムすらロクに動じてないんだが。


プルプルと震えてはいるけど、これはデフォルトだし。


「それで、どうですか? 悪い話ではないと思いますです」


「えぇ、お言葉に甘えさせてもらいます。俺は白木 春です。こっちの騒がしいのはリンネ。どうぞ、よろしくお願いします」


「はい! 改めまして、ミルク・メルクリウスですます。お二人を歓迎しますです!」


「おう兄ちゃん、俺のことはダディと呼んでくれ! 短い付き合いだが、よろしくな!」


「無視しないでくださぁい!」


こうして、ミルクのパーティーに臨時加入した俺たちは、クエストの準備を終えた後、さっそく仕事に向かったのである。


なお、さすがに扱いが雑すぎてリンネがヘソを曲げてしまったため、俺は日本にいた頃にも見たことがないパンナコッタを求めて、街を駆け回る羽目に。


その後、店を見つけたは良いものの、肝心の金がないことを思いだし、クエストの報酬で買うことを約束して、何とか事なきを得たのだった。


今後は弄り過ぎないよう気を付けるとしよう。


……可能な限りは。

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