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キザ男、現る!

「ここが冒険者ギルドか。なんか、普通だな」


「いやぁ、ギルドに個性を求められても困るんですが……」


門番を何とか説き伏せて街へ出入りできるようになった俺とリンネ、そしてもちこは、さっそく冒険者ギルドにやって来ていた。


本来なら宿なり酒場なりで腰を落ち着けて、リンネから異世界チュートリアルを受けたいところだったが、深刻かつ急を要する問題に直面した。


そう、俺は無一文である!


勢いよく言ったところで、何の自慢にもなっていないが、とにかく金がない。


宿に泊まるどころか、喫茶店でちょっとお茶する程度の金すらない。


ついでに言うと、俺とリンネは良いとしても、もちこは、まだテイムしていないモンスターなので、お腹が空いてしまえば、たぶん普通に人を襲う。


今、素直に付いて来ているのは、俺の態度から飯をくれることをどこかで期待しているからだと思われる。


よって、詳しい話は後に回して、何はともあれ、まずは金を稼がないと、どうにもならんということで、すぐに仕事がもらえて、即金で支払ってくれる冒険者ギルドにやって来たわけだ。


なんだけど、いざ本物のギルドに来てみると、少し思っていた印象と違った。


「いや、ほら冒険者ギルドって言えば荒くれどもの巣窟だとか、階級制による差別だとか、勢力を競う派閥争いだとか、ドロドロしたイメージが多いからさ」


「まぁ、中央の都市に行けば、そんな空気にもなりますが、ここは転生者のスタート地点に選ばれるくらい平和な、辺境の街なので。集まる冒険者も比較的、穏やかなんですよ」


「なるほどな」


異世界のギルドで定番のイベントと化している、新人いびり等は心配しなくて良さそうだ。


ギルドの内装も落ち着いていて、受付のお姉さんもフォーマルな服装で統一されている。


受付のあるロビーのほか、吹き抜けになっている地下部分には酒場も併設されているようだが、荒れた様子もなく、大人な雰囲気の漂うBARといった感じだ。


「おやおや、丸腰で冒険者ギルドに来るとは、もしや君も新人転生者かな?」


ギルドの内装に一通り目をやっていると、ふいに声をかけられた。


振り返ってみると、そこにはプラチナブロンドのサラサラとした髪を弄る、キザったらしい男が立っている。


歳は俺と同じくらいに見えるが、金の鎧に銀の盾、他にも派手な色の装備を身に付けており、随分と景気が良さそうだ。


その後ろには、銀の髪にルビーのような瞳の美少女が控えている……のだが、彼女の姿には見覚えがあった。


「なぁ、あの女の子、リンネに似てないか? 髪の色も目の色も、あと雰囲気も少し違うけど、どことなくさ」


「ああ、あれ、私ですね」


「おい、ちょっと君。無視するんじゃ――」


「……えっ、私? どゆこと? 双子とかじゃなくて?」


ん、今なにか聞こえたか? 


いや、気のせいだな。


「はい、あれは間違いなく私です。正確には、今ここにいる私と同じく、本体が生み出したナビゲート用の分身体ですね。神としての力はなく、転生者をサポートする最低限の機能だけを備えています」


「くっ、いい加減に――」


「見た目や雰囲気が違うのは?」


ん、また何か聞こえたような?


「分身体のデータは、転生者の嗜好を反映して決定されるんです。どうせなら、好みの相手にサポートされたほうが嬉しいでしょう? その気になれば、性別も変えられますよ」


「サービスがいいなぁ。ところで、本体って、あの白い空間で見た姿か? その時と目の前のリンネが変わってないんだけど」


「えぇ、あれが本体ですね。転生者を送るのは本体の力がないと出来ないので。ちなみに、姿が変わってないのは、白木さんがありのままの私を好きってことですねっ! もぅ、照れるじゃないですか~!」


何やら一人で盛り上がって、こちらを肘で突っついてくるリンネ。


非常に鬱陶しいが、俺の好みを反映したと言っている以上、下手に否定したところで、ツンデレと思われるだけか。


「チッ」


「いま、舌打ちしました!?」


「してない」


「しましたよねぇ!? もう、素っ気ない態度とっても、白木さんの本心はバッチリ、この姿に反映されてるんですからね!」


そう言って、リンネがプンスカと、こちらに詰め寄ったその時。


「ええい、いい加減に、こっちを向きたまえ!」


「ひぅっ!?」


突然の怒鳴り声に怯えたリンネが、素早く俺の後ろに隠れてしまう。


こいつ、本当に女神か? いや、もうさんざん、それっぽいところも見てるんだけど。


どうにも威厳のオンオフが激しいんだよな。


まぁ、それはともかく、連れを怯えさせられて、良い気分はしない。


「いきなり、怒鳴らないでください。何か用ですか?」


「いや、いきなりではなかろう! さっきからずっと話しかけているではないか!」


「そうでしたっけ? そういえば、第一声で何か嫌みったらしいセリフを聞いたような。まぁ、いいです。それで、何か?」


「白木さん、こんな人に敬語は必要ありませんよ! こんな人に!」


「いや、こんな人でも初対面だし。こんな人でも」


「こんな人を連呼するな! くっ、このキース・ザオラル。ここまでの屈辱を受けたのは初めてだ!」


なんか、使い勝手の悪い蘇生呪文みたいな名前だな。


「そうですか。良かったですね。それでキザ男さん、用件は」


「ええい、キース・ザオラルだっ! 勝手に略すな!」


「いえ、別に略した訳じゃないんですけど」


でも確かに、略してもギザオになるな。


ますます、ぴったりな呼び名じゃないか。


と、俺が勝手に納得していると、今までキザ男の後ろで控えていた少女が前に出た。


「ふぅ、キースさん。話が進みませんから、少し大人しくしててください。……気分を害して申し訳ありません。彼は、少し色々と拗らせているだけで、根は悪い方ではないのです。どうか、お許しください」


謝罪と共に丁寧に腰を折り、頭を下げる少女。


未だに俺の後ろでビクビクしているリンネと、元が同じとは思えない。


とはいえ、女神モードの時のリンネは、こんな感じだったか。 


「ご丁寧にどうも。大変そうですね、ナビゲーターの仕事」


「いえ、日々の癒しもありますから。それほどでも」


「……やっぱり、パンナコッタですか?」


「はい、パンナコッタです」


そこは何があっても譲らないのな。


いったい、パンナコッタの何が彼女をそこまで惹き付けるのか。


ちょっと食べたくなってきたんだが。


「ん? リンネはパンナコッタが好きなのか? それくらい、言ってくれれば僕が用意するのに」


いや、お前は知らないのかよ。


名乗ったときに聞かなかったのか?


「前にも言いましたよ、キースさん。本当に、あなたは忘れっぽいですね」


「す、すまない。そういえば、そうだったな」


どうやら、このキザ男、見た目以外は非常に残念なようだ。


天は二物を与えずとは、よく言ったもんだな。


「話が逸れましたね。白木さん、キースさんは新人転生者に、よく声をかけているのですよ。こう見えても世話好きなので」


「なるほど……と言っても、そっちのキザ男さんもチュートリアル中なんですよね? 教わることなんて、それほどないんじゃ……」


「確かに、チュートリアルは終わっていないのですが、こちらの世界に来て一年になりますので、それなりに知識は豊富なのですよ」


「一年!? えっ、チュートリアルって、そんなに掛かるんですか」


「そんな訳ないでしょ、白木さん! そこの男がポンコツなだけですよ~だ」


「キッ!」


「ひぅっ!?」


ようやく顔を出したと思ったら、人の背中で毒を吐くわ、睨まれて簡単に怯むわ、お前もだいぶ情けない感じだけどな。


まぁ、とにかく、状況はだいたい分かった。


「……せっかくのお話ですが、遠慮しておきます。こっちのリンネとキザ男さんの相性が悪そうなんで」


「そうですか。やはり、第一印象は大事ですね。キースさん、これを機に色々と省みた方がよろしいかと。いつまでも財閥の跡取り気分では、前に進めませんよ」


「む、むぅ」


……どうやら、このキザ男、前世では相当な金持ちだったようだ。


尊大な態度は、前世からの負の遺産か。


「じゃあ、俺たちはこれで。ほら、リンネ行くぞ」


「は、はい」


二人に別れを告げて、さっさとカウンターに向かおうと踵を返す。


もともと、ここには依頼を受けに来たのだ。


世間話に来た訳じゃない。


「あっ、最後に一つ忠告を。初心者が受けられる低レベルクエストでしたら、今は募集していませんよ?」


「近頃、転生者が増加してクエストの供給が追い付かなくなっているようだね」


………………えっ?

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