表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/81

ミルクの過去

「なにはともあれ、まずは謝罪やね。お兄さん、ウチの不注意で、こんな事になってしもて、ホンマに、ごめんな?」


「気にすんなって。お前も予想外だったんだろ? それに、ちょっと脱力感が強いだけで怪我も何もしてないんだから、心配しなくても大丈夫だ」


あれから、身動きもロクに取れなかった俺は、二人に運ばれ、アインの屋敷に戻ってきていた。


今は俺の個室で、ベッドに横になっている状態だ。


そして、ベッドの傍では、申し訳なさそうなアインと、心配そうなミルク、大人しいもちこが椅子に腰掛け、俺の様子を見守ってくれている。


「……そう言ってくれると、ありがたいわ。とにかく、今日はしっかり休んでな?」


「ああ。アインの特製粥、美味しかったぞ。ズボラに見えて料理も上手いじゃないか。将来は良いお嫁さんになれるな」


ちなみに、屋敷に帰った後も、まだ体を起こすので精一杯だったから、アインとミルクに【あ~ん】をしてもらい、食べさせて貰った。


まさに、怪我の功名というやつだ。


こんな美味しい思いが出来るなら、またやっても良いかも……なんて考えていたら、ミルクの瞳から光が消え、俺の背筋に悪寒が走ったので、大人しく自重することにする。


「……ふふっ。じゃあ、貰い手が無かったら、お兄さんに責任とって貰おかな?」


「心配しなくても、そのうち、もっと良い人が現れるから。俺で妥協すんのは止めとけよ」


冗談めかしたアインのセリフに、こちらも自虐ネタで対抗する。


どうやら、ちょっとは調子が出てきたようだ。


「あらら、フラれてしもた。……ほな、ウチは下にいるから何か用事があったら、このボタン押してな。すぐに来るから」


クイズ番組に出てきそうな赤いボタンを枕元に置きつつ、アインが俺とミルクに、そう言った。


無難な呼び鈴とかじゃないのが、いかにもアインらしい。


「はいはい、あんま気に病むなよ。アインが、しおらしいと、こっちの調子が狂うからさ」


「あははっ。お兄さん、失礼やな~。こんなに純真で淑やかな女の子に向かって。ほな、お大事に。ミルクはん、後は、よろしゅうな~」


「はい、お任せですます!」


最後に、ひらひらと手を振って、アインは部屋を出ていった。


たぶん、気を遣ったんだろうな。


ミルクは帰ってきてから、ずっと何かを話したそうにしていたし。


なら俺もアインを見習って、ミルクが話しやすいように誘導してみるか。


「で、俺に何か言いたい事が、あるんじゃないのか?」


俺の問いに対し、ミルクはイタズラがバレた子供のように苦笑する。


「……バレてましたです?」


「そりゃ見るからに、そわそわしてたからな。同じくらい迷ってるようにも見えたけど」


「……ハルさんには全てお見通し、ですか。なら、これも良い機会だと思う事にしますです。ただ、それでも、今はまだ全てを話すことは出来ません」


申し訳なさそうに項垂(うなだ)れるミルクだが、そんな些細なことで罪悪感を覚える必要はないのだ。


「それで良いさ。話せる部分だけで良い」


そんな風に話を促しつつ、力の入らない腕を何とか伸ばして、ミルクの頭を撫でてみる。


すると、少しは緊張が解れたのか、ミルクは僅かに笑みを浮かべ、ゆっくりと話し始めた。


「……私は昔、大切な人を守れなかった事があります。……いえ、それどころか、大事な戦いの時に、傍にいる事すら出来ませんでした。あの頃のミルクは、それほど【貧弱】だったんですます」


これまで、幾度も俺に放たれた、【貧弱】という言葉。


それが、今は過去のミルク自身に向けられている。


そのことに対し、言い表せない想いが込み上げ、俺は思わずシーツを握り締めた。


「今でも思うんです。あの時、ミルクに力があれば、何かが変わったはずだって。それに、弱いままでいたら、また同じ事が起きるって。だから、ミルクは強くなりたいと願いました。そして、今では、その時よりも、ずっと強くなれたと思いますです。……でも、強いだけじゃ守れない物もあります」


「今回の俺みたいに、か」


「……はい。ハルさん、ミルクは、どうしたら良いですます? いったい何を頑張れば、もう失わないで居られますです?」


「…………」


まるで、幼き迷子のように、自分の道を見失っているミルク。


そんな彼女の問いに対する答えを、この時の俺は、まだ示せなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ