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プリムの事情とアインの事情

「そういえば、プリムは何で、あんなに神を目の敵にしてるんだ? そのくせ、改造してあるとはいえ、シスター服を着てたりするし、よく分からないな」


女マスターに、文字通り冷や水を浴びせられ(タルごと!)、正気を取り戻した俺は、疑問に思っていたプリムの態度についてミルクに話を振る。


すると、ミルクは困ったような顔をしつつ、ゆっくりと語りだした。


「ミルクも詳しいことは知らないのですます。ただ、昔はプリムさんも、あの教会でシスターをしていたと聞いてますです。いま着ているのは、その時の服の成れの果てだとか。何か、神様を信じられなくなった切っ掛けがあって、シスターを辞めたみたいです」


「なるほど、ミルクにも昔のことは話してないのか。プリムの隣……というか下にいた男は?」


「彼はアバカム・ルーラ。盗賊の職業で、プリムさんの下僕……を自称してますです」


「盗賊で、アバカムとルーラか。最悪の組み合わせだな」


「?」


「いや、こっちの話」


ちなみに、アバカムは某国民的RPGに登場する、どんな扉も開けられる呪文だ。


そして、ルーラは行ったことのある街に移動できる呪文。


俺は、アバカムを使って王城に忍び込み、そこにある宝を根こそぎ奪い取って、ルーラで逃走する盗賊の姿を想像してみる。


うん。最悪すぎる。


とはいえ勇者(プレイヤー)は、これと似たような事をゲームの中でやってるけどな!


「あと、お二人は義賊の共犯関係でもあるみたいですます」


「義賊ぅ? 義賊って、悪徳貴族とかから宝を盗んで、貧しい人に恵みを与える、あの?」


「はい、その義賊ですます」


「金髪、元シスター、成金改造服、ドS、その上、義賊とか、設定盛りすぎだろ……」


ほとんど関わりのない俺が知っているだけでもこれだ。


仲良くなったら、ギャップ萌えとか含めて更に上乗せされていく気がする。


まぁ、もう関わる気はないので、それは杞憂か。


「ところで、不思議に思いませんですか? 何故あの教会は、あんなボロボロでも、未だに存続しているのか」


「それは、近い内に潰れるのかな、とか。さすがに教会が潰れることまでは街の人も望んでないから、最低限の寄付は送られてるのかな、とか。そんな風に考えてたけど」


「実は、あの教会は、ほぼ100%、プリムさんが納めている、賃貸料という名の寄付で成り立っていますです」


「マジか……あの本職のシスターさんに聞いたのか?」


「いえ、寄付の話については街でも、それなりに知られていますです。どうやら部屋代と称して、毎月それなりの額を渡しているみたいですます」


「でも、だったら何で、あんなにボロい教会なんだ? 金があるなら直せばいいんじゃ……」


「ハルさんは、廃れて人も来ない教会が突然、お金のかかった大改装をしたらどう思いますです?」


「その、お金はどこから……って、なるほど。盗んだ先の悪徳貴族に目を付けられないためか」


「その通りですます。あと、プリムさんの服に付いてた宝石も、その為のカムフラージュだって言ってましたです。金持ちの娘が、お情けで教会に援助していると周囲にアピールするためとか。プリムさんは治癒師の職業で、評判も収入も良いですから、義賊の可能性を疑われる事もないそうです」


「だったら、あのアバカムとかいう男は? 職業からして盗賊なんだから、真っ先に目を付けられるんじゃ……」


「はい、プリムさんも、そう考えたようで、人の目を逆に利用したそうですます。アバカムさんは、街ではドジなお調子者として振る舞っていて、その変態性も有名です。反対に、盗みの手口は鮮やかで、全く証拠を残さない仕事人。あえて二面性を持たせることで、義賊の候補から外されてますです」


「あんな馬鹿な変態が、そんな繊細な仕事できるわけないって思わせてるのか。色々と考えてるんだな」


「あと、あの教会は孤児院も兼ねていて、それなりに出費が多いですから、建物にお金を使うと余計に怪しまれますです。一応、最低限の補修はされているみたいですけど」


「ふーん、神様に対する態度以外は好感が持てるんだけどなぁ」


「昨日は、ミルクも迂闊だったですます。あらかじめ、ハルさんにその事を伝えるべきだったです」


「まぁ、あれは俺が突っかからなきゃ何も起きなかった訳だし、ミルクが気にする必要はないさ」


「その通りや!」


「「……えっ!?」」


突然、横から入り込んできた声に、二人してバッと振り返る。


すると、そこには短めの茶髪に黒い瞳の、白衣を纏った美少女が、ニコニコと楽しそうに立っていた。


日本で育った俺には馴染みのある容姿だが、こちらの世界では、あまり見かけない。


「お二人さん、なんやプリムはんと揉めたらしいけど、あの人も気にせんでええって、言うてはったよ?」


「えぇっと、どなた、ですます?」


ミルクが困惑しながらも、当然の疑問を口にする。


俺としては、その口調の方が気になったけど。


もしかして、この子も転生者だろうか?


「ウチ? ウチはアイン・シュタイナー。この街では【ガラクタの錬金術師】って、通り名の方が有名かなぁ?」


「あ、あなたが噂の!?」


「……なんだ、その不名誉な二つ名は?」


つーか、日本人じゃねぇのかよ!


「彼女は、高価な素材や珍しい素材を集めては、面白いけど特に役に立たないアイテムへと変える変人と言われてますです」


「失礼な噂やね。ちゃんと、安い素材も使うてるし、既存のアイテムの改良や修理もしてんのに」


「でも、改良しては副作用を増やし、修理すれば余計な機能を付け足し、おまけに、あなたが手掛けたアイテムの大半は爆発すると有名ですます。何故か、綿と布で作ったぬいぐるみが爆発したこともあったとか」


「怖すぎるだろ!? 女の子がママゴトしてる時に爆発する可愛いぬいぐるみが頭に浮かんだんだけど!?」


「大丈夫、その女の子はウチやから!」


「あんたが巻き込まれてんのかよ! 良く無事だったな!?」


「アイテム製作に爆発は付き物。一度の暴発で怪我してたらキリないで♪」


「そんな常識、聞いたことないですます! でも、確かに彼女のアイテムで被害を受けたという話は聞きませんです。改良や修理の失敗も、予め責任を負わない契約を交わしてると聞きますし、その多くは元通りにして返しているとか」


「その通りや。ウチは安心、安全、面白いをモットーに掲げる錬金術師やからね!」


「嘘つけ。絶対、最後の一つに振り切ってるだろ」


「まぁ、それは置いておいて」


わざとらしく、手に持った架空の何かを置き直すジェスチャーを見せるアイン。


誤魔化すの下手くそかっ。


「お二人さんのことはプリムはんから聞いてるよ。揉め事の他にも、パーティーメンバーを探してることとか。プリムはん曰く、今ならウチみたいな問題児でも受け入れてくれるよってな」


「問題児だって自覚はあるのか……」


「それで、改める気がないのは余計に質が悪いのですます……」


「いやぁ、照れるなぁ♪」


「「なんで!?」」


「まぁ、それはええとして。そろそろ、アイテムの開発費が底を尽きそうやから、ウチもパーティーに入れてくれへん? ほら、ウチって基本的にアイテムで戦う、か弱い乙女やから、ミルクはんみたいな優秀なタンクがいると心強いんよ」


「か弱い乙女を自称するとは良い性格してんな……。それはそうと、パーティー加入の件、俺は良いと思うけど、ミルクはどうだ?」


「戦闘力が低くても、充分な支援をしてもらえるなら良いと思いますですが、大丈夫ですます? 彼女のアイテムが、どれだけ役に立つのか分からないですよ? あと、暴発の危険も……」


「つまり、仲間になりたければ力を示せっちゅうことやね。ええよ、ほな街の外に出よか。ウチの実力、見せたげるわ!」


そんな訳で、俺達はアインの実力を確かめるべく、街の目の前に広がる草原へ足を向けた。


あそこなら見晴らしが良い上に広いので、暴発の被害を他所に与える心配はないだろう。


ただ、自分達が食らう可能性については否定できないけど。

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