義憤と崇敬
「という訳で、ミルク。人を殺せるくらい苦い、お茶に心当たりはあるか?」
「なにが、という訳なのですます!? っていうか、それは、もう飲み物じゃないと思いますです! 劇薬です!」
ギルドで待っていてくれたミルクと合流して、開口一番に相談を持ちかけた俺は、熱烈なツッコミを受けてしまう。
しかし、俺はリンネに激怒した!
必ず、かの邪知暴虐の神を除かなければならぬと決意した!
義憤に駆られる今の俺は、この程度では、へこたれない。
「じゃあ、劇薬でもいいや。取り敢えず苦ければ誤魔化せるだろ。茶と薬って字も似てるしな。それに、どうせ死にやしないし」
「ミルクは今、犯罪の手引きをさせられてる、ですます!? そんなことより、リンネさんとは、きちんと、お別れ出来ましたです?」
「……次に会う時までに、パンナコッタに合う劇薬を用意しとけってさ」
「そんなものは無いですます! 茶葉ですね、茶葉だと思いますです! 分かりました、探すの手伝いますから、劇薬から離れて下さい!」
「むぅ……まぁ、いいか。できるだけ苦いのを探そうな」
「これが、歪んだ愛という奴ですます? ……でも、ふふっ、良かったと思いますです。その様子だと、お互いに言いたいことは言えたみたいです」
「……まぁな、俺も次に会った時に笑われないように頑張らないと。あいつのナビがないと何も出来ないと思われたくないしな!」
「その意気ですます! じゃあ、まずはパーティー結成を機に、呼び名を変えたいと思いますです」
「呼び名? ミルクじゃダメなのか? 職業が重戦士だから、ミルクタンクとか?」
「そんな呼び方を採用したら、通報まったなしですます! 私じゃなくて白木さんの呼び名を変えたいと思ってます。これからは、ハルさんと呼びますです」
「なるほど、それいいな。じゃあ俺も今日からはミルクをウシさんと呼ぼう」
「だから、ド直球なセクハラ発言は止めるですます! ミルクはもう立派なレディです! ちっちゃいからって許されませんですから!」
「すまん……男は……胸の誘惑には勝てないんだ」
昨日、飲み会で、初めて装備を外したミルクを見た俺は、それはもう驚愕した。
初めて会ったときも、冒険中も、鎧で隠れて分からなかったが、ミルクは、その小さな体躯に反して、大層なモノをお持ちだったのだ。
リンネにも散々、説明したが、俺は断じて、おっぱい星人ではない。
だが、男である以上、大きなモノには尊敬と好意を抱かずには、いられないのだ。
加えて、ミルクは活発で、よく動く。
すると、連動するように自然とソレも動き、存在感を強調する。
で、あれば視線と思考がそこへ誘導されるのは必然!
「いや、だからと言ってセクハラ発言は正当化できてないですます」
「えっ、俺、口に出してた?」
「はい、バッチリと出てましたです」
「……わかった、ではこうしよう。もちこ!」
「……?(ピョンピョン、ピョンッ)」
腕を広げて呼び掛けた俺の意図を察して、胸に飛び込んでくる、もちこ。
俺は、もちこを両手でしっかりと抱き留め、そのまま前に突き出した。
「さぁ、ミルク。触ってみてくれ」
「もちこちゃんを、ですます? なぜ急に?」
「いいから。触れば分かる」
「は、はぁ、では遠慮なく」
俺の腕の中で大人しくしている、もちこに、そっと手を伸ばすミルク。
やがて、両者がしっかりと触れ合った瞬間、ミルクの顔に衝撃が走る!
「こ、これはっ!?」
そこからは、ひたすら無言で、もちこを触り続けるミルク。
時にプニプニと、時にポヨンポヨンと、時にムニムニと、時にプルルンッと、時にムニィーッと、時にビヨーンビヨーンと、その柔軟かつ弾力のある身体の魅力を、余さず味わい尽くさんと。
「分かってくれたか? 俺にあるのは決してやましい気持ちじゃない。ただ、この、人に愛でられるために生まれたような至高の感触に崇敬の念を抱いているだけなんだ。だから、その素晴らしさを、声を大にして語りたい。それだけなんだよ」
「ハルさん……」
感銘を受けたように、静かに俺を見上げるミルク。
うむうむ、これでミルクも認めて――、
「でも、それとセクハラは話が別だと思いますです」
くれないよね! 知ってた!
……というわけで、俺の魂の叫びは、俺の胸の中でだけ木霊する事となった。
しかし、ここに新たな、おっぱいの理解者が生まれたのだ、悔いはない。
え、俺?
俺は、もちろん、おっぱい星人じゃないですよ?