7 今更遅いが
...最後、少し荒ぶってしまった。いけないいけない。騎士としても、また貴族家の子女としても、激情をあらわにするのはあまり良くはない。これからの人生、注意していかねば。
これで大体の整理はついたと思う。また何か悩むことがあったら、また新たに考えればよい。臨機応変にやっていけばいいのだ。
さて、整理が済んだところで、次は私の将来について考えていこうと思う。
私は将来、前世と同じように、騎士になりたい。
...アンナ嬢の話から、シュバルツ伯爵の謀反の際、私以外にも死亡者が出たと聞いた。守るべき国民たち、私が率いて共に戦った部下たち。彼らの死に思うところがないわけではない。
もし、私があの時結界を張らなければ。もし、私がもっと強ければ。そうしたら、魔物が王都を襲うことも、彼らが命を落とすこともなかったのではないか―。
だが、その考えはあまりにも傲慢であり、また無礼だ。私は神々のように全知全能でも、聖人でもない。ただのちっぽけな人間一人の行動で生死が決まってしまうほど、彼らの命は軽くはないのだ。私にできるのは、彼らの死を悼み、この経験を糧にして、二度と同じことを繰り返さないこと―それだけだ。
だから。だからこそ、この手で。皆を守りたい。この王国を守りたい。大切な人たちを失いたくない。前世よりもっと強くなりたい。
もう誰も、死なせたくない。それこそが、私の―クリス・ハイドンの、最期の願いなのだから。他人任せにせず、自分の手で叶えたいのだ。
だから、私は、騎士になる。
...まあ、その前にいろいろとしなくてはならないことがあるのだが。女性の騎士が全くいないわけではないのだが、それでも大半が平民出身だ。私の知っている貴族出身の女性騎士なんて、前世でも3人しかいなかった。一人はたしか下級貴族の出身で、大勢の弟妹の食い扶持を稼ぐため騎士になり、一人は同じく下級貴族の一人娘で、男兄弟がいなかったため家業の騎士を継いだのだったか。
そして、最後の一人は...伯爵家だったか、割といいところのお嬢様だったのに、無理やり嫁がされそうになったため家出し、その家との縁を切るために騎士になった―騎士になると準男爵の地位を授けられ独立した貴族の当主となるため、実の親でも無理やりいうことを聞かせられなくなる―のだと昔本人から聞いたことがある。あの時は、貴族とは恐ろしい...と思ったものだ。
約20年騎士団に所属し、全ての騎士団員を把握していた前世の私ですら、貴族出身の女性騎士は3人しか知らないのだ。そう考えると、私の夢にはかなり厳しいところがあるかもしれない。まだ見ぬ兄が“クリス様”を追って騎士になったのなら私も同じ言い訳を使えばいいと思っていたが、そもそもとして男と女では前提が違う。この家が下級貴族だったならばともかく、家財道具や服などから考えると、ここはかなり高位の貴族の家のはずだ。
...高位の貴族に生まれた娘は、その大半が政略結婚の道具として使われるのだと、例の三人目の女性騎士から聞いた覚えがある。あの時は他人事だったが、今となってはそうではない。もっと詳しく聞いておくべきだった。...今更遅いが。
誤字脱字あったら教えてもらえると嬉しいです。