5 死因:羞恥心
そのニ。何故生まれ変わったのか。
これに関しては、心当たりがある。彼女が意味もなくこんな真似をするはずもないので、何かしらの理由があるのだろう。私が生きていないといけない何かが。だが、それを本人に確認するにはあと十数年待たないといけない。それに、今更足掻いたところで女の子から男の子になれるはずもないのだから、潔く諦めて―それが出来たら苦労はしないのだが―もっと有益なことを考えるべきだろうな。
結論:再び会うことが出来たら訳を詳しく聞かせてもらうことにして、とりあえず保留で。...ほんっとうになぜ彼女は性別を変えたんだ。それさえなければ素直に感謝できたのに。
その三。ここはどこで、私が死んでから何年くらいたっているのか。
アンナ嬢の話から、ここは私が死んだ後の世界であり、この家は私がいた国、カルディナール王国の貴族家の中の一つであると思われる。でなければあんな話はしない。だが、身に着けている衣服や使われている道具類を見るに、技術が新たに生まれるほどの年月はたっていないようだ。せいぜいあれから百年たっていないくらいだと思う。
それと、これもアンナ嬢の話から知ったのだが、どうやら私には年の離れた兄が一人いるらしい。そして、その兄が“クリス様”を尊敬していて―なんと“クリス様”の後を追って騎士団に入ったのだとか―、そのため彼女も私に“クリス様”の話をするようになったらしいのだ。...なんというか、とても怖い。もしその兄に会って目の前で美化された“クリス様”の話をされたら思わず逃げてしまうかもしれない。
だが、兄が騎士団関係者というのは僥倖かもしれない。もしそうなら、私の将来の夢への障害がひとつなくなったことになる。不幸中の幸いというものだ。
結論:詳しいこと―私の生まれた貴族家についてとか―は、これも保留で。いずれ話せるようになれば、それこそ幼児の無邪気な質問として大人たちに聞けばいい。貴族の子女なのだから、そういったことを学ぶ機会もあるだろう。
その四。私の前世について周りに話すべきか否か。
これについては非常に悩ましいところだ。生まれ変わり―転生?とでも呼ぼうか―の理由次第によっては、王族や国にも話を通す必要がある。その時、“クリス様”の肩書があった方が楽かもしれない。それに、アンナ嬢をはじめとする家族に隠し事をするのもよくない。良心が痛む。騎士の教えにも、『騎士たるもの嘘をついてはいけない』というものがあったのだし。
...だが。だが!それは無理だ。恥ずかしすぎて私が死ぬ。考えてもみろ、英雄のように語られている人が私の前世なんだ!とか言ったらただのヤバい奴でしかない。絶対周りに白い目で見られる。もし信じてもらえたとしても、この数か月で散々聞かされたあの話のように美化されたら、余計に恥ずかしい。私の死因が“魔力不足”から“羞恥心”に代わる。せっかく生まれ変わったのに、こんなに早く死にたくはない。
結論:基本的には秘密。ただし非常事態には話す決心を固めておくべき。...騎士の教えは、『嘘をついてはいけない』のであって『隠し事をしてはいけない』ではなかったからセーフのはずだ。たぶん。
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