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12 兄は心配です

今私がいるのは、バーンスタイン領の屋敷を出発し、これから王都へ向かおうという馬車の中だ。さすが侯爵家の馬車というべきか、前世で乗った移動速度重視の騎士団の馬車とは比べ物にならない程、揺れも振動も少ない。座席のところに何か工夫でもされているのか、長時間乗っていてもあまり腰も痛くない気がする。



...ただ単に腰より頭が痛いからかもしれないが。



この内装も華美な馬車の中には、私とアンナ嬢の二人だけ。その前後には、使用人と私たちの荷物を載せた馬車が数台。さらにこの列の周囲には、私たちを護衛する騎士―王立騎士団の者ではなく、バーンスタイン侯爵家に仕える騎士だ―が十数人、馬に乗って周囲を警戒している。



これだけならば私も気を抜いて、今世初となる長旅を十分に楽しめたことだろう。

...馬に乗ったあいつが私たちの馬車の隣にいて、窓越しに私に話しかけてこなければな...!



「母上、どうして愛しい妹は僕と顔を合わせてくれないのですか?久しぶりに会ったというのに、とっても寂しいです」

「そうは言ってもねえ、ヴィル。あなたがクリスティーナと会ったのは、この子がとっても小さいときに一回きりだったでしょう?クリスティーナはあなたのことを全く覚えていないんじゃないかしら」


小さいときどころか、生まれてすぐの、産婆に取り上げられた時のこともよく覚えているが。何ならその時の衝撃もつい最近のことのように思い出せるが。


「ああ、確かに。言われてみれば、僕が会いに行った時、クリスティーナは母上の腕の中で寝ていた気がします」


寝てたんかい私。それなら覚えているはずもないが、だったら起こしてくれればよかったのに。


「『クリスティーナを起こしてあげるからちょっと待っていて』って言ったのに、あなた達ったら『そんなのかわいそうだから、そのまま寝かしてあげなさい』ってさっさと王都に戻っちゃうんだもの。クリスティーナにとってはこれが初対面なんだから、もう少し気を遣ってあげなさい」

「それもそうですね。では、改めまして。初めまして、クリスティーナ。僕はヴィルヘルム、バーンスタイン家の長男で君の兄です。今は王立騎士団の副団長を務めています。これからよろしくね?」

「...クリスティーナです。よろしくお願いしますわ」

「うん、よろしく!」



...見れば見るほど、かつての愛弟子がそこにいるようにしか思えない。名前も、侯爵家の長男という立場も同じ。顔も、最後に見た時から数年がたち少し大人びたかと感じる程度の差異しかない。周囲の人間の言うことを素直に聞き入れるところも、少し幼さを感じるはきはきとした物言いも変わっていない。


馬の乗り方も、周囲を警戒する視線も、時折剣の柄に手をかけるその動きも、かつて私が彼に教えた動きのそれと、全く同じ。なんなら、相手の返事を待つ短い間に何度もそわそわと視線を左右に動かすその癖まで、何一つとして変わっていない。



本当に彼が、私のかつての愛弟子ヴィルヘルム・フォン・バーンスタインなのだろう。

...だからこそ、なおさらわけが分からない。



一体どうして、私に対してこんな歯が浮くような台詞を吐くんだろうな!いや、本人からしてみれば、かつての師ではなく年の離れた妹に対して言っているつもりなんだろうが、それだけでも、かつての初々しい少年と隣で馬に乗る今世の兄を結びつけるのを邪魔するには、十分すぎる。



おそらく、いや、ほぼ確実に同一人物なのだろう。でも、どうしても認められない自分がいる―ここで認めてしまうと、なんとなくだが、私が教育を間違えてしまった気がするのだ。そんなわけないが。



...さて、ずっと現実逃避をしているわけにもいかないから、そろそろ答え合わせとしようか。幸いにして、確認する方法はいくらでもある。


「...あの、ええと...お兄様?」

「なんだい、クリスティーナ?別にヴィルヘルムお兄様でも、ヴィル兄さまでも構わないよ」


本当に誰だこいつ。個人的にはヴィルヘルム!と一発活を入れたいところだが、まあ今は置いておいて、


「いえ、そうではなく...その、お兄様が私に会いに来られた、というのはいつのことなのですか?」

「クリスティーナが生まれてから数日たった頃だったと思うよ。そうだよね母上?」

「そうね、その頃だったと思うわ。確か、学園の校外学習か何かで、領地の近くまであなたたちが来たんじゃなかったかしら?」

「王都に帰る途中で、クリスティーナが生まれたって聞いてね。ついでに同じ班だったレオンも連れてったんだよ」

「...その、レオン?様というのは...?」

「ああ、レオンはね、ハイデッカー公爵家の当主で、僕の幼馴染なんだ。僕と同い年なのに、もう当主と魔術師団長の二足の草鞋を履いているんだよ。凄いでしょ」



はい、同一人物確定。公爵家の息子と侯爵家の長男の組み合わせの幼馴染がそうたくさん居てたまるか。



レオン・フォン・ハイデッカー。前世での、私の義弟だ。私が死んだ時は、次期公爵家当主として決まってはいたが、本当に当主になったと聞くと感慨深い。魔術師団長のほうも、精霊王と契約しているあの子ならば納得のいく人選だ。だが、忙しすぎて体を壊していないかが心配だ。元気でやっているだろうか?



…あの子まで、変な方向に変わっていたりはしないだろうな?兄は心配です。

誤字脱字あったら教えてもらえると嬉しいです。


先が長い...まだ題名に出てくる人は一人しかいないんですよ信じられます?

多分もう少しでもう一人出てきます、もうちょい待ってください。

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