10 本っ当に申し訳ない
第二章の始まり~!
更新たぶん一日に一回程度のペースになると思います。
―あの長い夜から、数年もたったある日。
子供の成長というのは早いもので、私もすっかり大きくなった。最近では、屋敷の庭を駆け回ったり、腕立て伏せをしたりしている。後者のほうは幼い子供がやるには不自然であるため、アンナ嬢や使用人にばれないようこっそりとだが。
...時々走っているところを目撃されたが、幸いにして「ご令嬢としてはしたないからやめろ」とは言われなかった。むしろ生暖かい目で見られた気がする。
「ねえ、クリスティーナ」
「はい、何でしょうお母様」
私は今、アンナ嬢と二人で夕食をとっている。...成長し、家庭教師に言葉や礼儀作法を教わるようになり、この『お母様』呼びを避けることはできなかった。アンナ嬢は大変好ましい人柄であり、母性溢れる方ではあるのだが、だからといって開き直って素直にそう呼べるわけでもない。そのため、呼ぶ度に目が死んでいるのが自覚出来て、なんとも言えない気持ちになる。
「もう半年くらいしたらあなたももう5歳になるのね」
「ええ、お母様」
「そう、それでね、クリスティーナも無事に大きくなったから、そろそろ王都の屋敷のほうでお父様と一緒に住もうと思うの。いつまでも王都と領地の往復するのはお父様も大変だもの」
「そうですわね。ただでさえ忙しいお父様にこれ以上時間を使わせるのは申し訳ないですもの」
「バーンスタイン領は特に王都から遠いものね。小さい子に長旅をさせるのはよくないけれど、あなたならもう大丈夫だと思うわ」
バーンスタイン侯爵家。それが、私が生まれた家だ。
家庭教師曰く、バーンスタイン侯爵家は古くからカルディナール王国に仕える貴族家の一つであり、王国の東寄りの辺りにある領地から宝石が多く取れることで有名である。現在の当主バルド・フォン・バーンスタイン―私の今世の父親だ–は、王宮に文官として仕えている傍ら、馴染みの商会にその宝石を卸しているという。
本来なら、私もアンナ嬢も王都の屋敷でバルド候―心の中ではお父様とは呼んでいない、というか恥ずかしくて呼べない―と暮らしていたはずなのだ。だが、アンナ嬢が語るには、この別居には、深いわけがあるらしい。
アンナ嬢のおなかの中にいる時、私はかなり弱々しかった―体内の魔力がほとんどなかった―ようで、無事に生まれるかどうかも怪しい、と医師に言われていたらしい。人間は魔力がなくては生まれることすらできない。ほぼ魔力がないに等しい状態だった私は、確実に死産だと思われていた。
だが、アンナ嬢はそれでも生まれてくる私のことを諦めきれなかった。せめてもと、当時荒れていた王都を出て、のどかで平穏な領地に移り、無事に生まれるよう毎日神々に祈り―そうしてやっと私が無事に生まれた時には、もう感激で涙が止まらなかったのだとか。
―そんなに待ち望んでくれた娘の正体がこんなのでものすごくいたたまれないんだがな!!本当に申し訳ないアンナ嬢、バルド候。そしてその娘は将来家を出るかもしれない。うん、本当に申し訳なさ過ぎて涙が出てくる。
まあそれはそれとして、要するに私のためにわざわざ王都から遠いバーンスタイン領の屋敷に住んでいた―王宮で働くバルド候と王立騎士団のまだ見ぬ兄を残し、私とアンナ嬢と使用人だけで―ということだ。赤ん坊が馬車での長旅というのはきついものがあるので、私が大きくなるまではそのままずっと領地に滞在していたが、充分成長したのでそろそろ王都へ移ろう、ということになったらしい。
ちなみに。バルド候は、まあ、なんというか...かなり娘のことを溺愛している。それはもう、目に入れても痛くないと言わんばかりに。仕事があるだろうに、月に一回は必ず領地までやってきて私のことをかわいがる―ちなみに王都からバーンスタイン領まで馬車で約5日、早駆けで約3日かかる―ほど。身も蓋もなく言ってしまえば、うん...親ばかという言葉がよく似合うお方である。
―中身が全然違い過ぎて本っ当に申し訳ないな!絶対に正体をばらせない理由が増えた。
誤字脱字あったら教えてもらえると嬉しいです。
ブックマーク、評価ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。