1 とあるお話
初投稿です。よろしくお願いします。
それは、あるよく晴れた昼下がり、カルディナール王国でのことだった。
王都広場の中央に、その青空には似つかわしくない処刑台が設置されていた。そして、その周囲には王都に住むほぼすべての人が集められていた。大勢の人間がいるにもかかわらず、その場はとても静まり返っていた。なぜなら、彼らは皆、処刑台の上に、その上にいる二人の男に注目していたからだ。
一人は、派手はでしい衣服を身にまとい、同じく派手な装飾をされた剣を高く掲げて立つ黒髪の痩せぎすの男。その男の名は、パウル・フォン・シュバルツ。王家より伯爵位を賜った貴族だが、先日、この王都にて反乱を起こした謀反人であった。大量の魔物を連れ王城に攻撃を仕掛けたものの、王城全体に結界を張られ失敗に終わった。その腹いせのように今度は王都を狙い、そして制圧してしまったのだ。この日、彼は魔物襲撃の後初めて住人たちの前に姿を見せた。彼に敵対したものを、見せしめとして処刑するために。
もう一人の男は、汚れた服を着、手足を鎖で繋がれ、魔力封じの首輪をつけられてシュバルツ伯爵の足元に跪かされていた。整った顔をした金髪の青年であったが、そのどちらもまた薄汚れている。この青年の名は、クリス・ハイドン。カルディナール王国王立騎士団の団長であった。謀反が起こされたその時、彼はまず、主である国王陛下を守るため、彼と契約している光の精霊王の力を借り、魔物が入れないよう結界を張った。その後、住人たちを助けるために騎士団を率いて魔物たちと闘っていたのだ。だが、力及ばず、今朝ついに敗れてしまい、シュバルツ伯爵のもとに連れてこられたのだった。彼の付けられている魔力封じの首輪は、その名の通り、魔力を封じるものだった。これにより、彼は魔術による抵抗も、精霊に頼んで助けてもらうこともできなかった。
集まった住人たちの関心がこちらに向いていることを確認し、シュバルツ伯爵はクリスの初経の前に演説を始めた。
「よく聴け、皆のものよ!今この国は未だかつてない未曽有の危機に直面している!その原因を知っているか!この国に危機が訪れたその原因、それは、王族をはじめ貴族共、一部の平民どもが、精霊などという邪悪なものを信仰し、その力を使い我々敬虔な信者に対し横暴に振る舞ってきたからだ!だが、神は我々を見捨てはしなかった!神聖なる眷族を遣わし、邪悪な彼らを排除してくださった!彼らは今までの行いの罰として、我らが神の怒りをくらっているのだ!
おお、我らが神よ!素晴らしく慈悲深き神よ!我らは感謝致しまする!貴方の想いに応え、こやつを始末し貴方に捧げ致しまする!」
徐々にヒートアップしていくシュバルツ伯爵は、まさに恍惚とした表情を浮かべていた。彼は、神への賛美を述べながら、クリスに向かって剣を突き付けた。
「ここにいる罪人クリス・ハイドンは、奴らの手先となって率先して我らを虐げてきた!邪悪なものの力を使い私利私欲のため罪もない我らを痛めつけた!さらに、神が使わしてくださった神聖なる眷属までも殺したのだ!さあ、皆のものよ、この大罪人を処刑するときが来た!今までの罪の報いを受けさせるのだ!そして、我らが神に感謝を捧げるのだ!」
シュバルツ伯爵の演説を聞いた住人たちは、興奮している彼とは裏腹に、こそこそ近くの者と言葉を交わしていた。
「…ねえ、クリス・ハイドンって、クリス騎士団長様のことよね?クリス様が罪人って、あいつ一体何言ってるの?」
「…あいつの言ってる「神聖なる眷属」って、もしかして三日前から街中でずっと暴れてる魔物のことか?あいつらのどこが神聖なんだよ!俺はあいつらに命を奪われかけたんだぞ!騎士団の人たちが来てくれなかったら、とっくに死んでたんだ…それに、精霊様の力で傷を治してもらったぞ、精霊様のどこが邪悪なんだ⁈」
「大体、クリス様達がいつ俺らを虐げたっていうんだよ!むしろお前のいう神の眷族とやらの方が酷い!邪悪なのは精霊様じゃなくてその神の方なんじゃないか⁈」
「それにクリス様は俺らの恩人だ!処刑なんてふざけてる!」
「「「そーだそーだ!その方を離せ!」」」
最初は小さかった住人たちの声は今や大合唱となり、その声は恍惚としていたシュバルツ伯爵の耳にも届いた。そしてそれは、彼の信じる神への冒涜ともとれる発言だった。
「何を言っている、貴様ら!我らが親愛なる神が邪悪だと!神のご慈悲を受けながら何たる物言いだ!」
顔を真っ赤にし唾を飛ばして反論するシュバルツ伯爵だったが、それに対し住人たちは、
「「「あれのどこが慈悲だ!ただの害悪だろ!」」」
「「「今すぐ処刑なんてやめちまえ!」」」
と、返した。今この場には敵はシュバルツ伯爵一人しかいない。だからこそ、住人たちは臆することなくシュバルツ伯爵に非難をぶつけていた。だが、それも短い間だけだった。
「ええいうるさいぞ貴様ら!貴様らも邪悪なる奴らの手先か!もういい、貴様らを救ってやろうとした私が馬鹿だった。全員死んでしまえ!」
なんと、シュバルツ伯爵が腕を大げさに振ると同時に、広場に魔物が大量に現れたのだ。
「邪悪な奴らの手先どもめ!やれ、神聖なる神の眷属よ!我らが神を侮辱するからこうなるのだ!はーっはっは!」
シュバルツ伯爵の掛け声により、一斉に魔物が住人たちを襲い始め、住人たちが慌てて逃げ出す。足元の阿鼻叫喚な様を見下ろし高笑いをするシュバルツ伯爵だったが、足元から聞こえたかすかなつぶやきを聞き逃さなかった。
「…貴方は、…そこまで…落ちているのか…」
「はぁ⁈何を言う、貴様!罪人の分際で!」
そうかすかにつぶやき、シュバルツ伯爵が過剰ともいえる反応を返したその相手は、彼の足元に跪かされている、この場で処刑される予定だったクリス・ハイドンだった。彼は、シュバルツ伯爵と同じく広場の様子を見下ろしながら、その金の眼にある決意を秘めていた。
「貴様、まだ死んでいなかったのか。ははっ、見ろ!貴様が命を懸けて守ろうとした愚民どもが今目の前で襲われている様を!何もできずただ見ているだけの貴様が、どんなに無意味で、どんなに愚かなことか!」
「…もし、精霊が…貴方の言う通り、邪悪だとしても…それで、民を…皆を守れるのなら…私は、その力を…使うことを躊躇わない…」
「貴様、一体何を言っているのだ?この愚民どもを助けでもしたいのか?その状態で?はっ、笑わせてくれる!今の貴様は、魔術を使うことも邪悪な奴らの力を借りることもできないんだぞ?できるものならやってみろ!」
「ルーチェ…光の精霊王…もし叶うのなら、…皆を守ってくれ。…もう誰も、死なせないでくれ…」
「ふん、最期までふざけたやつめ、邪悪な奴らに願いごとだと!よく見ろ、愚民どもよ!これが奴らの末路だ!」
シュバルツ伯爵がクリスに剣を振り下ろす直前、魔物を、人間を、広場中を、とても暖かな光が包み込んだ。その光に包み込まれた住人たちの怪我は、驚くべきことにすべて治っていた。一方、その光に触れた魔物はすべて消滅し、シュバルツ伯爵もまた、捨て台詞を残し、消えていったのだった。
「な、なぜだ⁈何故私が消えるのだ!邪悪な精霊め!よくも、絶対に許さーーー」
突然傷が癒え、また恐るべき敵も消滅したため混乱の絶頂にあった広場に、暖かみのある女性の声が響き、そして消えていった。それと同時に、暖かな光もまた、消えたのだった。
「貴方の願い、聞き届けたわ。お疲れ様、クリス。ゆっくり、お休みなさい」
「…あり、…がと、う…、わた、しの、あい、…ぼ、う…」
ようやく混乱から覚め、処刑台に上がった住民らは、ゆっくりとクリスの体が倒れていくのを目撃した。シュバルツ伯爵が手放した剣が、彼の体に突き刺さっていたのだった。だが、彼はとても穏やかな笑みを浮かべていたといわれている。
誤字脱字あったら教えてもらえるとありがたいです。あと感想もできれば。
コロナ大変なことになってますね。オリンピックどうなるのか...