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ハイジャック・ストライク

「レギー! 街の外に行って来てほしい!」

 エドに叩き起こされたレギーはイライラとした顔を上げる。


「何だいきなり……急ぎの願いか?」

「いや、でも急ぎ」

「緊急事態、でいいのか」

 エドは頷き、指を上に向ける。


「外から来た飛行機にね、コープスが取り憑いてしまったんだ。このままだと街に墜落するから、乗り込んで対処しておいて」

「……空、しかも飛んでいる飛行機か。扉繋げたのか?」

「いや出来ないよ、外の物はいじれないし」

 あっさり否定したエドにレギーは嫌な予感がした。

「じゃあどうやって飛行機に……」

 エドは笑みを崩さなかったが、レギーはすぐに察した。




「やっぱり直接かぁぁぁぁーーー!!!」

「HEYレギー、叫んでると舌噛みますヨー!?」


 バイヨン・ベイに抱えられ、レギーは物凄い勢いで空を飛ぶ。

 実際の戦闘機と変わらない速度で飛ぶベイはあっという間に雲を抜け、飛行機が見えるようになった。


「目標捕捉! 普通にフライトしてますネー」

 飛行機の外観に変化は無く、安定して飛行している。

 ベイはホバリングしながらゆっくりと飛行機に近付く。

「油断するなよ。エドがコープスの情報を教えなかったから、何が来るか分からん」

「オーケーオーケー。じゃあ乗り込みマース」

「ああ……ん?」

 加速しようとした時、飛行機から黒いオーラが立ち上った。

 そして黒い点がオーラから独立し、段々と大きくなっていく。

 それは、2人へと向かってきていた。


「ベイ、回避!」

「ワーオ!?」

 旋回したベイの真横を黒い物が高速で横切る。

 鳥の形をしたそれは、そのまま空の彼方に消えていった。


「まだまだ来マース! 加速しますヨー!」

「気にせず突っ込め! 乗り込まなくては話にならない!」

 レギーが撃ち落としながら飛んでくる黒い鳥を掻い潜り、2人は飛行機に肉薄する。

 窓から中を伺うと、機内にも黒いオーラが渦巻いていた。

 乗客が騒いでいる様子は無く、誰もかれも座席に着いている。


「機体全体に影響を与えてるようデス。皆静かデスねー」

「パニックになられるよりはいいな。それじゃあ、私は突入する」

「ハーイ、鳥はワタシが相手しますネ」

 窓目掛けてレギーを投げ、ベイはその場を離れる。

 鳥はレギーよりもベイを優先し、攻撃を続ける。

 レギーは窓を蹴破り、機内に侵入した。


 機内に転がり込んだレギーだが、乗客達に反応は無い。

 乗客の覗き込んだ顔色は青く、苦しそうにうなされている。


「ふむ、コープスの瘴気にあてられたか。私としては都合がいい」

 銃器を構え、レギーは機内を走る。

「飛行機を乗っ取るなら……操縦室かエンジンのあるところか。くそ、間取りが分からん」

 走るレギーに、黒い鳥が襲い掛かる。

 マシンガンで迎撃していくが、鳥や流れ弾が乗客を巻き込んでいく。


 乗客の被害は気にも留めずレギーは機体後部へと走る。

 たまに外で爆発音が響き機体が揺れるが、飛行機が墜落する様子は無い。


「爆撃は阻止されているか。まぁベイなら大丈夫だろうが……ん」

 黒いオーラが立ち込める中、機内の空間の一部が歪みだした。

「なん……っ? っ!」

 銃を向けたレギーだが、悪寒を感じ低くしゃがむ。

 すると空間から斬撃が放たれ、レギーの頭上を掠め後ろの座席を切り裂いた。


(コープスじゃない、ならばこれは……)


 空間の歪みからは刀が突き出ており、その持ち主も現れる。


 抜いた日本刀を持った、白黒ブレザーにチェックのスカートを履いた緑髪の少女。

 グラスクラウドは機械仕掛けの鞘を腰に付け、機内にふわりと降り立つ。


「あら、コープスかと思ったら薄汚いスクラップでしたか。間違えましたね、ごめんなさい」

「社交辞令のつもりか? ビルド」

 互いに武器を向ける2人だが、グラスクラウドが先に刀を仕舞った。


「今の状況だと不毛ですね。〈軍人〉のレギーキッド」

「お前は……知らないな、私は」

「〈剣士〉のグラスクラウドです。知り合ってない方が多いのですから、当然ですね」

 レギーも銃を仕舞い、お互い武器に手を当てながらも近寄る。


「私はコープスを優先します。そちらを助けはしませんが、目標は同じということで?」

「構わん、両方を相手取るのは手間だからな。……ところで操縦室ってどっちなんだ?」

「情報無しですか……使えない」

「文句はエドに言え。お前達とはバックに付いてる奴の規模が違うんだ」

 悪態を付きながらレギーはグラスクラウドの後に続く。


「ところで、どうして外の飛行機にコープスが憑いたんだ」

「そこからですか」

 グラスクラウドは呆れた態度を隠さない。

「この飛行機は元々墜落するものなのです。よりによって私達のA区に」

「A区に落ちる未来があるから、コープスが生まれたということか」

「はい。コープスを排除した上で飛行機の墜落を阻止するのが私の任務です。あなたはどうですか?」

「合っているのはコープス排除までだ。そこまででいいな」

「分かりました」

 黒い鳥を振り払いながら2人は機内を走る。


「鳥のコープス、空だからか?」

「それはこの飛行機の墜落の原因が関係しています」

 刀に付いた瘴気を拭き取るグラスクラウドは、決してレギーに背中を見せようとしない。


「バードストライク。飛行機というのは案外脆いものですね、生物1匹で堕ちるとは」

「人口物なんてそんなものだ。私達も含めてな」

「そうでしたね」


 2人は操縦室までたどり着き、グラスクラウドが扉をこじ開ける。

 中からは大量の瘴気が湧き出て、2人を無視し天井をすり抜け外へ出ていった。


「ちっ、外か」

 操縦室のパイロットは死亡しており、オート操作で動いている。

 グラスクラウドは天井を切り裂くとすぐに機外へ跳んだ。


「ベイ、来い!」

 レギーも飛び出し、同時にベイがその手を掴む。

 再びレギーを抱え飛ぶベイには、目立った傷は見られない。

「さっきまで雑魚ばかりデシタが、今のが本命デスか」

「ああ、本体は機内にいたようだ」


 飛行機の半分程の大きさを誇る黒い怪鳥が飛行機の上でグラスクラウドと対峙していた。

 怪鳥からは無数の黒い鳥が生まれ、グラスクラウドを取り囲んでいる。

 レギーはマシンガンを乱射し、周りの鳥を落としていく。


「援護はする、巻き込むかもしれんがな!」

「気遣いは無用です」

 レギーの射撃の中、グラスクラウドは怪鳥に切り込む。

 常人には見えない剣速で鳥を払い、飛行機の上ということを忘れるような速度で怪鳥の懐へと入り込んだ。


(速いっ)

 レギーが驚く中、グラスクラウドは刀を鞘に納め居合の姿勢になり


「抜刀―――5フィート」

 瞬く間も無い速さで振り抜いた。


 怪鳥は寸前で飛び上がったが、両足を切断されている。

 グラスクラウドはまた刀を納め腕に力を込める。


 怪鳥は慌てたように羽ばたき、飛行機から距離を取る―――が


「抜刀―――10フィート」

 十分な距離があったにも関わらず、怪鳥は真一文字に両断された。

 グラスクラウドは既に刀を納めており、無表情で落ちていく怪鳥を見送った。


「援護要らなかったんじゃないか、あいつ」

「お強いデースねあの人。ワタシはビルドと戦ったこと無いんデスけど、どれもああなんですか?」

「雑魚からあいつレベルまで色々だ。外に出てくるのは稀だから比較対象が少ないが……」


 そこでグラスクラウドが、刀に手をかけたまま飛行する2人を見る。


「終わりましたが、あなた方はこれからどうします?」

 終わりという言葉と裏腹に、グラスクラウドは戦闘態勢を崩していない。

 レギー達も、今回はコープスを倒すことだけが目的ではない。


「ここからが、違うんだな」

「ええ。私はこの飛行機をA区に不時着させるつもりですが……そちらは、落とすのでしょう?」

「話が早くて助かるな」

 言い終えると同時に、レギーが撃ちグラスクラウドが刀を抜く。

 どちらも当たらなかったが、ベイは射撃を続けるレギーを抱え飛行機の周りを飛ぶ。


「お構い無く撃ってきましたね」

「悪いな、こっちは壊すつもりだ。乗客ごとな」

 飛行機横に付いたレギーは、機内に向けて発砲する。

 瘴気が消え続々と目を覚ましていた乗客達は、悲鳴を上げながら倒れていく。


「ベイ、斬撃を避けながら旋回。まだ乗客は満足には動けないはずだ」

「オーケー! 的としてはイージー過ぎマスねー!」


「この飛行機を……乗客ごと材料にするつもり。なら回収は無理ですか、これは」

 グラスクラウドは一息吐き、


「スクラップはやはり廃棄すべきですね」

 刀を構えたまま跳び、空に体を投げ出した。


「ヘイ! あいつダイブしマシタよ!?」

「何だ……? ベイ、機体の陰に隠れろ!」

 落下しながら居合の構えをとるグラスクラウドに、レギーは慌ててベイを動かす。

 グラスクラウドは髪を激しく靡かせながらも、正確な動きで機械仕掛けの鞘から刀を抜く。


「抜刀―――80フィート」

 刀が抜かれた瞬間、飛行機が中心から2つに切断された。

 遅れて爆発し、機体の裏から2人がふらふらと現れる。


「れ、レギー無事ですか?」

「死ぬよりましって程度にはな」

 ベイは無傷だが、レギーは両足を失っていた。

 鋭利な切断面からは大量の血が無抵抗に流れ出ている。


「中々豪快なことをする奴だ。一刀で切り捨てるとは……」

 グラスクラウドが刀を抜いた直後、2人には迫り来る刀が見えた。

 長大な刀身は飛行機を両断し、振り抜いた時にはもう鞘に戻っていた。

 グラスクラウドはその後、動かずに落ちていく。


「任務は完遂出来なかったか。ビルドの妨害を考えておくんだったな」

「キル数も少なかったデスね。落とせただけ良しとしまショウ」

「そうするしかないか。勝てただけでも御の字……?」


 2人の下方、落下していくグラスクラウドの周りの空間が歪みだした。

 グラスクラウドの落下が止まり、機内での彼女の時と同じように空間から少女が出現する。


 体格は小さめで、頭には犬のような獣耳。派手な装飾を付けたフリルドレスの少女が、グラスクラウドの肩を抱く。


「―――――」

 少女は何か言った後炎上する飛行機に手を伸ばす。

 すると空間の歪みが飛行機を包み、跡形もなく消滅させた。


「後処理、ご苦労様です」

「―――いい」

 少女はグラスクラウドの頭を優しく撫でる。

 そして2人共、歪みの中へ消えていった。


 それを見てベイはきょとんとしているが、レギーは苦い顔をする。


「〈虚無〉のゼロリバイス……! くそ、空間転移で気付くべきだったな」

「ゼロ? それってまさか……」

 ベイが何か思い当たる中、レギーは表情を変えず


「そのゼロで合っている。あいつら側についた、〈虚無〉のスクラップだ」

「Oh……いたんデスねー、そういうの」

「いて当然と思うべきだ」

 嘆くベイにレギーはあっさりと返す。


「今さらどうこうできることでもない。そんなのエドに任せておけ」

「そうデスね。ジゴウジトク、デース」

 諦めた顔で、2人は街の方に飛ぶ。


 空には、飛行機の煙が僅かに残るばかりだった。

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