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side build-1 Return of A Ward

 床や天井、壁までも白く染まった一室。

 白衣の研究員達が各々作業をする中、1つのカプセルが開き全裸の少女が目を開いた。


「ぷはー!またレギーに負けたぁ!」

 〈射手〉のビルド、ヴァルバレットが悔しそうな顔でカプセルから身を起こす。

 そして側にいた研究員から布を受け取り裸体を隠した。


「何日掛かった? 私の復元」

「3日です。今回は全身のパーツが原型を留めていなかったので、復元に手間取りました。その代わり、体及び武装の部品を更新し性能を向上させております」

 淡々とした女性研究員の返答に、ヴァルバレットは満足そうに頷く。


「へぇ、思ったより早いじゃない。街の再建とか大変じゃなかったの?」

「ほぉ、よく分かってるじゃないか。馬鹿の癖に」

「はぁん!?」

 初老の研究員が、嘲笑を浮かべながらヴァルバレットに歩み寄る。


「クソッタレのスクラップのせいで街の一角は更地同然。そこにいた住民はほぼ全員死亡。その修復にA区のリソースをどれだけ割けばいいか分かるか?」

「それで何で私が怒られてるみたいになってるのよ。確かに色々壊したけど、最後はネガクロックの仕業じゃないの」

「だからといってお前が壊していい訳じゃねぇだろ、クソガキ」

「っ、誰がクソガキ、よ……?」

 怒りのままカプセルから出たヴァルバレットだが、思うように立てずその場にへたりこんでしまった。


「あ、あれ……なんかバランス取れない……って何これ!?」

 思わず自分の体を見たヴァルバレットは、自分の手の半分が無くなっていることに気付いた。

 それどころか、全身の後ろ半分がすっぱり切られたように無くなっていた。

 臓器も丸見えになっているが、透明なフィルターが張られ零れなくなっている。

「ちょっと、罰にしたってやり過ぎじゃない!? これじゃあ歩くのもままならないわよ!」

「黙れ、しばらくその姿で反省しろ。専用の杖を寄越してやるから、被害現場でも見てこい」

「ぐ、うぐぬぅ……!」

 今すぐ研究員に飛び掛かりたいヴァルバレットだったが、立ち上がるのが精々で隣の女性研究員にもたれ掛かってしまう。

「覚えてなさいよぉ、クソ爺ぃ……!」

「私の一存ではないがな」

 ヴァルバレットは苦々しい顔で杖を受け取り、中指を立てながらべッ、と舌を出して研究室を出た。

 研究員達はそれを見て、やれやれというように苦笑した。


 通路に出たヴァルバレットは、布で体を隠し左右を見渡す。


「やーヴァルちゃん、あなたも罰を受けたクチ?」

「ん?」

 そこに、車椅子に座った少女がにこやかに声を掛けた。

 少女の頭には猫を模した機械の耳が付けられており、縦長の瞳孔も猫を想起させる。


「フレーメンも? 見たところ下半身が無いようね」

「うん、流石に動けないから車椅子は貰えたけどねー」

 フレーメンと呼ばれた少女は半分程しか無い太ももを擦り、困り眉ではにかんだ。

「何やらかしたのよ? あんたよく他区に行くけど、いつもは怒られるだけで済んでるじゃない」

「いやー、今回はちょっと派手に能力使っちゃって。帰って早々足取られちゃった」

 歩くのに四苦八苦しているヴァルバレットを見て、フレーメンは自分から車椅子を寄せる。

「スクラップさんを見かけてね。やっぱり好奇心には勝てないのにゃー、猫だけに」

「殺されてから言う言葉ね、それ」

「ニャハハハー、はんっ」

 舌を出して笑うフレーメンの頭を、ヴァルバレットは軽くチョップした。


「私は外言ってくるけど、あんたは大人しくしときなさいよ。口うるさい奴に出会ったら説教かまされるわ」

「はいはーい。ヴァルちゃんも気を付けてね、その口うるさい子が探してたっぽいから」

 それを聞いて、露骨に嫌そうな顔をするヴァルバレット。

「うへぇ……今逃げらんないのに」

「いっそ首だけになれば、隠れられやすかったのにねぇ」

「それこそ冗談じゃないわ」

「ニャハハ」

 ヴァルバレットの吐き捨てた言葉にわざとっぽく笑ったフレーメンは、「じゃあ頑張ってねー」と言い通路の奥へ行った。


 1人になったヴァルバレットは、ヨロヨロと研究所の通路を歩く。

「ほんと災難だわ。レギーに負けてから悪いことばかりなような……あいつ、軍人じゃなくて呪いのスクラップなんじゃあないの……?」

 ぐちぐちと恨み言を溢すヴァルバレットだが、それが言い訳に過ぎないのに気付きまた機嫌が悪くなった。

 イライラオーラを辺りに振り撒くヴァルバレットを、すれ違う人達は苦い顔で避ける。


「ん……? 職員以外の人間が多いわね。部隊じゃなくて一般人っぽいし」

 気になったヴァルバレットは、人の出入りが多い部屋を覗いた。

 その大きな部屋にはヴァルバレットが入っていた物と同じカプセルが並べられており、次々と人間が作られていた。


「おや、〈射手〉さん。こちらには面白そうものはございませんよ?」

 入り口の側にいた女性職員が笑顔で応対した。

「これ、蘇生作業中?」

「はい。何分死者が多かったもので、現在急ピッチで進めています。この第3蘇生室以外も稼働していますよ」

 丁寧な説明に、ヴァルバレットは少しバツが悪そうにする。

「悪かったわね、私がヘマやって」

「いえいえ。最近死亡事故が少なかったので設備が錆び付くところでしたよ。でもここまでの数は勘弁してくださいね?」

「わ、分かったわよ!」

 少し圧を感じたヴァルバレットは逃げるように部屋を出た。


「もう研究所は出て、現場に行った方がいいわね……今は居心地が悪いわ」

 入り口でタクシーを拾ったヴァルバレットは、後ろを確認しながら研究所から離れた。


 ■□■□■


「ふーん、結構直ってきてるわね」

 災害現場に着いたヴァルバレットは、まだ瓦礫の残る道をぶらぶらと歩いていた。

 沢山の作業員と巨大な機械が忙しなく動き、街を元に戻している。

 崩壊事故から3日しか経っていないが、街の大部分は修復され都市機能も回復していた。


「派手な壊れっぷりだったけど、地盤が無事だったのかしらね。〈蟻〉の数もあまり多くないみたいだし」

 現場で1つ不思議だったのは、作業員に混じって働いている沢山の少女達だ。

 彼女達は全員が全く同じ容姿で、大きな瓦礫も重機無しで軽々と持ち上げている。

 彼女達もビルドの1人なので、ヴァルバレットも作業員も、誰も違和感など抱かないのだが。


「〈蟻〉も大変ねー。殆ど休みなんてないんじゃないかしら」

「へぇ、あなたも少しは罪悪感というのをもっているのですね?」

「いっ!?」

 突然後ろから声を掛けられ振り返ったヴァルバレットだが、首筋に棒状の物を突き付けられ硬直してしまう。

 その手の先では、緑髪の少女が冷たい目でヴァルバレットを睨んでいた。


「素直にここに来てくれましたね。探し回ることにならなくて良かったです」

「相変わらずね、グラスクラウド……」

 表情では笑みを浮かべるヴァルバレットだが、内心では面倒臭い奴に会った、とうんざりした気分になった。


 白黒のブレザーにチェック柄のスカートを履いた少女、グラスクラウドはそんなヴァルバレットの気持ちを知ってか知らずか、突き付けていた刀の鞘を腰に収め距離を詰める。


「ヴァルバレット、あなたの失態のせいでこれだけの人に迷惑が被っているんですよ。頭を下げに行くぐらいしたらどうです?」

「別に減るものじゃないんだし、いいでしょ。壊したのはスクラップなんだから」

「そういう態度が良くないって言ってるんですよ?」

「怖っ、怖いから! 分かってるわよ、そんなこと!」

 機械仕掛けの鞘に手をかけたグラスクラウドに、ヴァルバレットも思わずたじろぐ。


「ならいいのですが……しかしそれにしても、今回はスクラップに好きにやられましたね。ネガクロックまで出してくるとは」

「ねぇ。あいつらA区はどれだけ壊してもいいと思ってるのよ、きっと」

 矛先が自分から逸れたことに安堵したヴァルバレットは軽口を叩く。

「報告では他にもレギーキッド、ポークルに未確認1体、それとD-レックスもいたとあります。そう考えると被害は小さい方ですかね」

「扉が繋がってる限り簡単に侵入されるものね。それの解析はできないの?」

 申し訳なさそうにグラスクラウドは首を振る。

「こちらの技術力では、エドの作った扉を追えません。博士達は認めたくないようですが」

「あの変態共、プライドだけは高いわねぇ……って、え?」


 やれやれと肩を竦めたヴァルバレットの眼前に今度は抜き身の日本刀が向けられる。


「あなたが言えたことですか? それとも復活したてでボケているとか?」

「あ、あーそうかもね、調子悪いかも。それじゃあ私は研究所に戻って調整してもらうか、らーぁ!?」

 立ち去ろうしたヴァルバレットに、グラスクラウドの足元から放たれた電撃が流れる。

 そのまま麻痺して動けないヴァルバレットの首根っこを掴んだグラスクラウドは、冷ややかな顔のまま引き摺り出した。


「まだ関係者へのごめんなさいができていませんよ。この際ですし、あなたにはたっぷり礼節というのを学んで頂きましょう」

「ごめんごめん、ごめんなさいって! せめて体が元に戻るまでは待ってー!」


 嫌がるが、半分だけの体では力も出せず容易く好きにされるヴァルバレット。

 この後謝罪ツアーをすることになったのだが、プライドの高い彼女は終わるまで3日もかかり、その間グラスクラウドに折檻され続けた。

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