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アーミー・ミート・チェーンソー

自分用だったのですが、管理しやすいので投稿しました。


 この街にはある噂がある。

 壊れたものから生まれた、『スクラップ』なる少女達がいると。

 そして人には見えない、怪物と戦っていると。




 ◆◇◆◇◆




 見渡す程広がる草原の中、風景に似合わない黒い屋根の家が一軒、建っていた。

 大人数の家族でも住んでいそうな広さだが、生憎ここに住んでいる人間は1人だけだ。


「うーん、今日も入ってるねぇ」

 家の外にある、郵便ポストを覗く男が呟く。

 コートを始め、服は黒ずくめ。目深に被ったテンガロンハットもだ。

 男はポストから何通か手紙を取り出し、鍵のかかっていないドアを開け家の中へ入った。


「やれやれ、相変わらず世の中は慌ただしいな」

 帽子も取らず男はソファーに寝転がる。

 手に持った手紙をヒラヒラと扇ぎ、誰もいない部屋で誰かに語りかけた。


「なぁレギー、君はどのお願いがいいと思う?」

 沢山の物が置いてある部屋の中で、男の声が響く。

 誰もいない部屋では、それはただの一人言だ。

 しかしその声に反応するものが、この家にはいる。


「また私か。随分使い潰してくれるものだ」

 声色は不機嫌そうに、しかし表情は平静に。

 軍服を着た金髪の少女が、クローゼットを開けゆっくりと身を出す。

 左側に火傷跡の付いた顔は気だるげで、見るからに眠そうだ。


「おはよう、レギーキッド。君が見れただけでも今日は良い日だよ」

「うん、そうか」

 男の笑顔と共に発せられた言葉に、欠伸で返す軍服の少女、レギーキッド。

 寝起きのような動きで、少女は男から手紙を受け取った。

 そして自らもソファーに腰掛け、手紙の封を開ける。


「毎度のことだが、恨み言ばかりだな。人間はこんな願いしかしないのか」

「直接送られてきた訳じゃないんだから、片寄るよ。お願いの手紙は無差別なのさ」

「それにしてもな……」

 不満げに手紙を見ていくレギー。


「なぁエドよ。我々スクラップが動かなきゃいけない程なのか? 世界は」

 エドと呼ばれた男は、笑顔を崩さず返す。

「程度の問題じゃないのさ。大事なのは助け合いだよ、レギー」

「歯が浮く言葉だ……ん」

 順に手紙を見ていたレギーだが、ある手紙で手が止まった。

 可愛らしい、幼児が使うような模様が付いている手紙だ。


「飼っていた猫が死んで悲しい……か」

 その手紙には、飼っていた子猫が外で死んでいたこと。

 それも全身がぼろぼろにされていたことが書いてあった。

「願いごとは……猫を殺したものを街から追い出して下さい、か」


「おやおや、何か気になるのかい?」

「いや……この手紙に拾われるということは、この子の思いは相当強いのだなと」

「へぇ、どれどれ」

 いつの間にか立ち上がっていたエドが、背後から手紙を掠め取る。

 レギーが「あっ」と声を漏らす時にはエドはもう中身を見ていた。


「へーぇ、レギーはこんなのが気になるんだねぇ」

「なんだ、その気味の悪い笑みは……」

 笑顔を崩さず、エドは手紙を裏返しレギーに見せる。

「報酬に熊のぬいぐるみって書いてあるんだけど、これ目当てなんじゃあないの?」

「なっ……、何か笑うことか!」

 頬を紅くし牙を向くレギーを余所に、エドは楽しそうに笑いだす。


「いつも思うけど、らしくないよねぇレギーは!〈軍人〉のスクラップなのにさ!」

「関係無いだろ! いいか、別に私はだな……」

「オーケー! 今回はこのお願いにしよう!」

 レギーが何か言うのも聞かず、エドは立ち上がり手を叩く。


「出ておいで、ハム! 君も行きなさい」

「はーい!」

 エドが言い終えるのとほぼ同時に、冷蔵庫から少女が飛び出す。

 ピンク色のフリル付きワンピースを着た少女は、エドの懐に飛び込み抱き付いた。


「久し振りだね! またハムを使ってくれるの?」

「勿論さ。たまには運動しないとね、ペッグハム」

 エドに頭を撫でられ、ハムはにんまりと笑う。

「レギーちゃんとだね、分かった! 頑張ろうね!」

 ハムの屈託の無い笑顔に、レギーはため息を吐きつつも笑い返す。


「それで? メンツは私とハムだけか?」

「いや、あと1人。ソウイーターを連れてきてくれ」

「ああ、あいつか……」

 名前を聞いて少し嫌そうな顔をしたレギーだが、分かったと言って外に出ていった。


 そんなレギーの顔を見て、ハムはエドに疑問を投げ掛ける。


「ねぇ、ソウちゃんってどんな子だっけ? 悪い子?」

「んんー? そんなことはないさ。〈チェーンソー〉のスクラップなんだけど、呼んでも中々来ないんだ。レギーはそこが気になるだけだよ」

 そっかー、とハムは窓の外を見る。

 程なくして、レギーが汚れたつなぎを着た少女を引き摺りながら戻ってきた。


「相変わらずだったよ、こいつは」

「……」

 引き摺られてきた少女は何も言わない。

 それは怒っているからではなく、口に包帯が巻かれているからだ。

 左目には眼帯が付けられており、残った右目はどこか空を見ている。


「やあソウ。起きていきなりだけど、出てくれるかな?」

「……う」

 渋々といった様子で頷くソウ。

 そんなソウにエドは首をかしげ、膝を降りソウと目線を合わせる。

「どうした? 何か不満でもあるのかい?」

「うー、うぅ」

 ソウは履いていたぶかぶかの靴を脱ぎ、エドの胸に押し当てる。


「あぁ、ソウは靴が好きだろ? だから置き場所は庭の物置小屋じゃなくて、玄関の靴箱がいいとのことだ」

「ううー」

 レギーの言葉に頷き、手元で靴を揺らすソウ。

 それに対しエドは困った顔をする。


「んー、置き場所はあんまり変えたくないんだよねぇ。そうすると他のスクラップの要望も聞かなきゃいけないし」

「うぅ……う」

「それに、ソウには靴なんていらないだろう?」

 ソウから靴を受け取ったエドは、裸足になったソウの足を指す。


 サイズの合わない靴の中にあったソウに足は、足首から先が手になっていた。

 上半身にある手よりも大きいその手は、小さい体を不自由なく支えている。

 当然この家にはそんなソウの足に合う靴は無く、ソウは仕方なくぶかぶかの靴を履いている。


「うー! うぅー!」

 エドの指摘にソウは激しく唸り、手の足で地団駄を踏む。

「うぅーん、何でこんな変な好みになったのか……」

「好きに実用性は関係無いんだよ、きっと! レギーちゃんもそう思うよね?」

「いや、とにかく今は早く出たいんだが」


 結局ソウはサイズに合う靴を作るということで落ち着き、ようやく出発の意思を見せた。


「それで、場所は?」

「D区だね。今日は霧が濃いから、気を付けて」

 レギーは扉のドアノブを何回か捻り、「D」の文字を扉に浮かび上がらせる。


「それじゃあ行ってくる」

「行ってきまーす、頑張るね!」

「うー」


「ああ、行ってらっしゃい」

 3人娘が出て扉を閉めるまで、エドは手を振り続けた。


 レギー達が扉を抜けると、そこは街の裏路地だった。

 家の扉だったものは、閉めた途端に小さな倉庫の扉へと変わる。


「移動完了。問題なくD区に来れたな」

「ほんとに霧が濃いねー」

 街は霧が濃く、日が暮れかけていることもあって薄暗い。


「D区は街灯が少ないよね。建物も古くて暗い感じ」

「古めかしいものを好む奴が多いんだよ、この街は。B区にでも行けば大分綺麗なんだが」

「うぅー?」

 街の景観について語りながら、3人は裏路地を進む。

 人の気配は無く、道にはゴミも多い。


「それでレギーちゃん、ここで何するの? 猫が死んだ原因なんて、情報無さすぎなんだけど」

「うー」

 ハムが疑問をぶつけ、ソウも同意する。

「推測だが、原因は分かる。今から奴がいそうな場所を……ん?」

 それにレギーが答えようとしたところ、地面が揺れた。

 地面の下から響くそれは、段々と3人に近付いてくる。


「下だ、来るぞ!」

「へ?」「う!」

 突如、3人の近くにあったマンホールの蓋が跳ね上がった。

 同時に、黒い波が地上に飛び出す。


 そしてその波を形作っているのは、大量のネズミであった。


「ネズミっ!? 下水道からかっ!」


 1つの塊となったネズミの大群は、無数の目で3人を見下ろす。


「レギーちゃん、これって!」

「やはり、"コープス"だ! 2人共、まずは出方を伺い……」

 レギーが指示を出そうとした刹那、ネズミの塊から細長い物が伸びる。

 それは鞭のような軌道を描き、ソウを薙ぎ払った。


「んむぅっ!」

 鈍い音を響かせ、ソウが壁に叩き付けられる。

「ソウ!」

 レギーは一瞬ソウの方を見たが、すぐにネズミに視線を戻す。


「ネズミ達を繋げて、肉の鞭を作ったのか……!」

 飛び出た鞭を戻したネズミの集合体は、更に変形し、蠢く。

 やがて一匹の巨大なネズミと化したそれは、鳴き声を上げた。

 ネズミの大群が纏めて鳴いたような、深いな音だ。


「こんのぉ、大きくなったからってぇ!」

 巨大ネズミに、ハムが飛び掛かる。


「迂闊だぞ、ハム!」「たぁーっ!」

 振り上げた右手が肥大化かし、大質量の武器となってネズミに振り下ろされる。

 肉同士がぶつかり合う音が鳴り、ネズミの背中を大きく削る。

「ギュギュイアアアッ!」

 しかし抉れた体からネズミの鞭が形成され、浮いたハムに振るわれる。


「ひぃっ!」

 片腕で防御し目を瞑るハムだが、ネズミの鞭は当たる前に弾け飛んだ。


「迂闊だと言ったんだ、ハム!」

 鞭を吹き飛ばしたライフル銃を下ろし、ハムを受け止めるレギー。


「ごめんね! ソウちゃんは?」

「大丈夫だ。あんな程度で壊れるなら、スクラップとは言わない」

 レギーの言葉通り、瓦礫の下からソウが這い上がる。


「んっ、んんんんー!」

 所々破れたつなぎの土を払い、ソウは喉を鳴らす。

 明らかな敵意を向けられ、ネズミもソウの方を向く。


「ソウ! さっさとチェーンソーを使え!」

「ん!」

 レギーに言われ、口の包帯を取るソウ。

 すると口内から金属音が鳴り始め、どんどんと激しくなっていく。


「ん、んがぁーあ!!!」

 金属の咆哮をソウが上げた途端、口から稼働状態のチェーンソーが飛び出した。


 膝下まで届くチェーンソーと、涎のようオイルを口から垂らしたソウは四つ手で駆け出す。


「ギャギャギャギャギャァーーー!」

「ギィィィィッ!」

 チェーンソーの音に負けじと、ネズミも金切音を上げる。


「わーぁ!かっこいいね、ソウちゃん!」

「そうは思わないな、私は!」

 突っ込んだソウに向けられる鞭をまたもライフル銃で撃つレギー。


 ネズミの懐に入ったソウが、チェーンソーを強引に突き立てる。

「ギャギィィィィッ!」

 体を多く削られたからか、ネズミは激しく暴れまわる。

 そして体にソウが刺さったまま、マンホール内に逃げ込んだ。


「ソウちゃん持ってかれちゃった! どうしよ!?」

「聞く前に走れ! 追跡するぞ!」

 下水道から鳴る音を追い、路地を走る2人。

「ソウ! 次のマンホールでネズミを出せ! ハムは肉砲の準備だ!」

「あいあいさー!」

 ソウからの返事は無いが、チェーンソーの音が下からうねり続ける。


(野生的で素直な動き……コープスになって日が浅いようだな)

 走りながらライフル銃をジャケットにしまい、レギーは腰のサーベルに手をかける。


 そしてマンホールが近くにきたところで、チェーンソーの音がより一層激しくなった。


「ギィィィィーーーッ!」

 同時に、ネズミが黒い血を撒き散らしながら遭遇した時と同じように飛び出す。

 体からは大量のネズミが零れ落ち、体表にしがみついていたソウも落とされた。


「よし。 二人で動きを止めるぞ、ソウ」

「ヴヴぅっ!」

 レギーは腰のサーベルを抜き、ソウはチェーンソーを唸らせる。

「ハム、止めは任せた」

「オッケー。いつでも大丈夫だよっ」

 後ろでは、ハムが右腕全体を肥大化させていた。

 膨れ上がった肉は捻れ、破裂寸前のソーセージのようになっている。


「ギ、ギィィァァァーッ!」

 並んだ3人に向かって吠え、肉が削れたまま突撃する巨大ネズミ。

 足元の小ネズミを踏み潰しながら、真っ直ぐにレギー達を狙う。


「ソウ!」

 レギーの声を合図に、左右に飛ぶ2人。

 そのまま姿勢を低くし、ネズミの両前足の肉を削り取った。


「ッギィィィィーーー!?」

 バランスを崩し、勢いそのままに倒れ混むネズミ。

 その顔面に、ハムの右手が向けられる。


「はい、どーんっ!」

 膨張した右手が破裂し、肉片が散弾となりネズミに振りかかる。

 ぶつかり合うのは共に肉だが、鉄の如く硬質化したハムの肉はネズミを容易にミンチに変えていく。

 一瞬で、ネズミは小ネズミごと肉片となり地面に散らばることとなった。


「ふぅ、終わったな」「ヴヴー」

 路地の横道から、隠れていた2人が顔を出す。

「どうよ、やっぱり私ってすごいよね!」

「まぁそうだな。これ使う度に片腕が無くなるのが問題だが」

 えへへー、とハムは無くなった右腕を振る仕草をする。


「ソウ、チェーンソーは仕舞っておけよ。オイルの無駄だ」

「ヴ!」

 言われるがいなや、足の手も使ってソウはチェーンソーを体内に押し込む。

 刃で手足を傷つけながらも、チェーンソーは無理矢理押し込められた。

「ソウちゃんは体張ってるよね~」

「〈加工肉〉のお前が言えたことか。そもそもスクラップとはそういうものだ」

「うー?」

 口の包帯を巻き直したソウも、輪に加わる。


「ネズミのコープスだったよね。あんな大きいのは見たことなかったなぁ」

「だな……ん」

 ネズミの残骸を見たレギーは、中に猫の死体が入っているのに気付いた。

「猫に狩られたネズミ達が、コープスになったのか」

「うーうぅ」


 レギーはバラバラになった猫の死体とネズミの肉片を集め、ライターで火を点けた。


「こういうの気にする?」

「いや……ただの後処理だよ」

 死体が完全に塵になったのを見届けた後、レギーは立ち上がった。


「さぁ帰るか。遅いとエドの奴がうるさいものな」

「うんー!」「うぅーう!」


 3人はその場を後にし、来たときと同じ倉庫の扉を開ける。

 中は薄汚れた倉庫だったが、3人が入り終えた途端に家の玄関へと変わった。


「お帰り。大したことはなかっただろう?」

 読書をしていたエドが3人を迎える。


「ああ、辛くはなかったよ……取り敢えずハムに右手を付けてやってくれ」

「おねがーい」

「はいはい、ハムは出る度にパーツ補修が必要になるね」

 立ち上がり冷蔵庫を開けたエドのコートの裾を、ソウがぐいぐいと引っ張る。


「う、をぅう」

「ああ、オイルかい? レギー、物置から取ってきてくれ」

「ソウを連れてきた時に持ってきてある。ほらソウ、飲んでおけ」

「う!」

 シャンプーボトル程の大きさのオイルを受け取ったソウは、左目の眼帯を外す。

 左目は空洞のようになっているが、オイル容器を近付けると中から舌がだらりと垂れた。


「うぅお~」

 美味しそうに、左目の口にオイルを流し込むソウにハムは首を傾げる。

「いくらチェーンソーだからって、オイルが美味しくなるものなの?」

「スクラップに味覚を期待するな。第一あまり物を食べないしな」

「自分で作っておきながら、エコだよねぇ! スクラップは」

「黙れ」


 ソウがオイルを飲み終わり、ハムも新しい右腕をくっ付けて貰ったところでレギーはクローゼットを開けた。


「あれレギーちゃん、もう寝るの?」

「長く起きてる理由もないしな。2人もだらけ過ぎるなよ」

「はーい」「うーう」

 そうしてレギーがクローゼットに入ろうとしたところ、エドが呼び止めた。


「ところでレギー。報酬の熊のぬいぐるみだけど、この手紙の子茶色とピンク色のを持っててさ。どっちの色がいい?」

「……」


 少し迷った後、レギーは顔を伏せたまま答えた。


「……ピンクで」

「うん! じゃあレギーにそのぬいぐるみの耳を付けといてあげるよ!」

「いるかぁ!!!」


 突っ込むと同時に、勢い良くクローゼットが閉められる。

 そのレギーの態度に、エドを肩を竦める。


「やれやれ、レギーは冗談が通じないなぁ」

「エドのは冗談じゃ済まないからだと思うよ」

「う」


 2人の冷めた返しに、エドは両手を上げながらソファーに倒れ込むのだった。

ロリとかグロとか、今作は趣味要素多めでお送りします。


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