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バースデーブルー

作者: 秋山 そら


疲れた。


 朝目が覚めると最初に発した一言目がその言葉だった。しかし、今部屋のパソコンに向かって文章を書いてる時もそれは変わらなかった。


 〇月△日は俺の誕生日の一日前の日付だ。しかし、子供の頃のように無邪気に誕生日を祝う気などししない。思い起こせば、誕生日を楽しみにしていたのは小学校の年少の頃が最後であるように記憶している。

そのころは、誕生日にはケーキとその当時流行のキャラクターの絵本が両親からプレゼントされた。

 しかし、その当時の俺は、そのキャラクターにあまり興味がなかった。ただ悶々と両親に気を遣ってその絵本を貰うか、駄々をこねてこれは嫌だとほかのものを強請るか葛藤していた。結果として俺はその絵本で我慢することにしたのだ。今思い起こせばあの時の優柔不断な性格が今も災いしているように思う。

 今年で、俺も35歳になる。新社会人と言われたのが遠い昔のことのようで、運よく就職氷河期の時代にそこそこの企業に就職できた。そして今まで転職をしようと思えるほどの出来事も起きなった。かと言って会社の重要なポストにいるわけでもない。30歳を過ぎての一種の人生というものへの不安や焦りも感じているこの頃それを余計に意識していまう。誕生日が憂鬱で仕方がない。しかし、あと一時間もすればその日は誰にでも平等に訪れる。

 せめて学生時代のように誕生日を祝ってくれる友人や今まで一度もいたこともないが彼女がいれば誕生日も一種の記念日としてポジティブに捉えることが出来たかもしれないがそんな奇跡は起きなかった。

 ここ一年で起きた小さな奇跡がひとつだけある。それは、雨の日の深夜に傘を買いにとある森の中のコンビニに寄ったのだがそこで出会った店員の女性に一目惚れをしたのだ。ここ数か月、コンビニに行くたびに彼女と仲良くなろうと身だしなみに気を付けてみたり、会話を勉強したりと努力を重ねてメールを交換し、たまに連絡をとるような関係にまでは発展したのだが、彼女の再就職が決まったため、連絡をとるようなこともなくなった。もう彼女はそこのコンビニにはいない。しかし、その出来事がきっかけで深夜にふと目を覚ますと今までは深夜の闇と同時に不安や焦燥感に襲われていたのだが、夜中でもひっそりと朗らかな顔で働いている彼女のことをふと思い出すようになってからはそれが和らいだ。


 そんなことを思いだしながら窓をふと見ると窓の手摺のところに人影が見えた。どうやら全身黒いスーツを着た30代前半の若い男性らしい。しかし、ここは二階だから手摺に座るようなこと人間ができるわけがない第一に男は座るというより手摺に腰かけているような姿勢で浮いているといったほうが良い。

「誰だ」俺は思わず声を出した。

「あと一時間で、もしお前の寿命がなくなるって言ったらどうする」

男は、俺の質問を無視して勝手に話始めた。

「なぁ、バースデイブルーって知ってるか。誕生日は自殺する人数が増える現象のことをそう言うらしいぞ人間は」

「人間はって、お前は何なんだ」

「俺は死神だ」

「死神ってことは、俺は死ぬのか」

「あぁ、バースデイブルー。ちょうど明日がおまえの命日兼誕生日になる」

俺は、パソコンに向かって書いていた文章をとりあえず上書き保存した。しばらく次の言葉が出なかった

すると死神が先に口を開いた。

「そのパソコンに打ち込んでいる文章もどうせ遺書だろ」

「そうだな」ため息交じりに返事を返した。

死神は自分の腕時計を静かにみると俺のほうをその冷酷な表情を変えずに見てきた。

「あと、一時間でお前は死ぬ。しかし、俺の気まぐれで一時間ほど早くお前に会ってしまった」

死神は空咳をした。

「そこでだ。残りの一時間はお前に協力してやろう。死ぬ前に何かやり残したことはないか」

俺は、深いため息をついた。どうやら人生最後の会話の相手が人間ではなく死神になるようだ。

「そうだな、特にはないなぁ。誕生日っだからって死神にお祝いされるのもなぁ。誕生日」

そういえば、彼女の誕生日は俺の誕生日に近いと言っていたような俺は死神に聞いた。

「おい、死神。遠くに離れた女性に手紙を送ることはできるか」

「そのくらいならお安い御用だ」

「そうか、それなら俺が死んだ後に彼女の部屋の窓辺に一輪のバラとその手紙を置いといてくれ」

「わかった。ずいぶんとロマンティックなことを思いつくな」

「いや、ロマンティックというのはその後に相手との関係が発展しそうでわくわくした状態のことだろ。

どうせ俺は死ぬのだから関係ない。それに、数年後には捨てられるかも可能性もある。これは、俺が最後にせめてやっておきたいだけのことだ」

「そうか、ならせめて手紙は彼女のもとから離れないように俺が工夫しておいてやろう」

「ずいぶんと親切な死神だな。ありがとう」

俺は、部屋の机の引き出しから数年前に買った万年筆とどこか外国に旅行にいった際にお土産で購入した便せんを取り出した。

「自分の遺書はパソコンに打ち込むのに、手紙は、手書きなのか」

「俺の部屋にプリンターはないし最後に相手にやるプレゼントだ手書きのほうが良いだろ」

久々にもつ万年筆は芯が固くなって書づらかった。


 ちょうど書き終えたころに時計の針が深夜零時を刺した。俺は便せんを死神に渡して最後に一言いった

「どうか、中身はみるなよ。そして、赤いバラを一輪添えてくれ」

「わかった、バラの代金と宅配料はあの世で請求しよう」

「ふっ、死神も随分現実的だな、最後に質問していいか。俺は地獄にいくのか」

「現実的に答えるとあの世には地獄も天国もない。人間が勝手に自分の人生の行いに対して満足しているか、後悔しているか白黒つけておきたいためにその発想からそうなったのだろう」

「それを聞いて安心した」


ある晴れた日彼女は、ベットから起きると朝食を食べようとリビングに向かった。すると、一匹の黒猫が

窓辺に現れ、ニャーと鳴いた。ここは、二階だ猫が昇ってきてもおかしくはない。しかし、このマンションは出窓になっているため入っては来れないはずだ。窓辺に行くと猫の姿はもうなかった。

そこには、一本の赤いバラと手紙が置いてあった。


拝啓 

 お元気ですか、再就職おめでとう

突然俺からの手紙に君は驚くだろう。でも、これだけは伝えたかったから

とある友人に協力してもらって手紙を送ります

君にあったのは深夜の大雨の日に俺がコンビニに寄ったことが始まりでした

ドアを開けてすぐ入り口のビニール傘を手に取った俺は会計をしにレジに行った

君はすこし暇そうに腕を組んで手を顎に当てて何か考えていた

最初は、君が雨で凄いですねって話しかけてくれた

俺は、君とここ数か月、友人になるようなことも出来なかったけれど

とても楽しかった。

深夜に目を覚ますと暗闇でふと焦燥感に襲われるても働く君を思い出すと焦燥感が和らいだ。

ありがとう

どうか、幸せに


以上




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