雷神の奇跡
村人たちは苦戦していた。
俺にも、ゴブリンたちが襲い掛かってくる…!
ゴブリンに命中した……!
俺は、ちょっと達成感を憶えていた。
だが……、そのゴブリンは深手を負いつつも、俺を恨みの篭った目で見てきた。
それと同時に、小剣の村人を取り囲んでいたゴブリンたちが一斉に、こちらを見る。
どうやら……俺は、ゴブリンたちを怒らせてしまったようだった。
ゴブリンたちは、一斉に俺に向かってきた。
後ろに下がって応戦するしかないが、生憎、背後は壁だった。
絶体絶命のピンチだ。
これは、俺、もう死んだな……。
俺は、思った。
もし、俺に魔法が使えたら……。
こいつらなんて、一掃して、村を救えるのに。
俺は頭を抱えて座り込んだ。
神様、助けて下さい。
どうか、こんな俺を見捨てないで下さい。
俺は、こんなところで、死にたくないんです。
神様、どうか、神様……。
俺は、必死に、神様に祈っていた。
どんな神様でもいい、どうか、どうか、助けて……!
その時。
『仕方がないな。
今回は、力を貸してやろう』
頭の中に、声が響いた気がした。
そして、奇跡は起こった。
空がたちまち暗雲に包まれたかと思うと、頭上で雷の音がしている。
それに気が付いた瞬間、空から稲妻がほとばしった!
稲妻は、正確に、俺を狙って攻撃しようとしていたゴブリンたちに、命中した。
「ギャァァァァァァ!!!」
ゴブリンたちは悲鳴を上げながら、その場に崩れ落ちて行く。
小剣の村人は、それを見て、呆気に取られたように、呟く。
「これは……裁きの雷……」
「こ、これが、魔法なのか……?」
俺は、思わず、呟いていた。
しかし、小剣の村人からは、返事は無い。
村人の周りには、まだ、ゴブリンが数匹残っている。
どうやら、俺に向かって攻撃してきたゴブリンのみに【魔法】は発動したようだった。
見ると、残ったゴブリンは、じりじりと後退りしている。
俺の【魔法】の威力の効果があったようだ。
そうか、神様に祈れば、良かったのか。
神様、どうか、もう一度、奇跡を……!
俺は、必死に祈った。
しかし、【神】からは、もう返事は来なかった。
気が付くと、小剣の村人が、村の外へゴブリンを追いやっている。
ゴブリンの数が少なくなったことで、一気に態勢が逆転したらしい。
俺は、こうなれば、手持ちの槍で加戦することにした。
村の外に追い出したゴブリンたちを、槍で威嚇して、追い払う。
手負いのゴブリンたちに効いたのか、ゴブリンたちは逃げて行ってしまった。
こちらは片付いた。
俺は、魔術師の村人と、妹の方へ目をやる。
魔術師の村人は、更に魔法を使ったらしい。
取り囲むゴブリンの数は、数匹にまで減っていた。
そして、妹の方は、すっかりゴブリンを片付けてしまって、
魔術師の村人の方に、加勢に来ようとしていた。
俺も、そこに、槍を手前に突き出しながら参戦する。
ゴブリンたちは、もう己の敗北を悟ったのか、俺たちの様子を確認すると、
散り散りになって、一目散に逃げて行ってしまった。
その辺を瞬時に判断できる程度の知性はあるんだな。
俺は、半ば呆れつつも、感心してしまった。
妹が、俺の方に駆け寄ってくる。
「お兄様……お怪我は」
「ああ……大丈夫だ。怪我は無い。
その……皆さんのおかげで」
俺がそう言うと、妹は、即座に2人の村人に頭を下げる。
「皆様のおかげです。感謝いたします」
小剣の村人が切り出す。
「いいえ、助かったのは、私の方です。
雷神の奇跡で……」
「雷神の奇跡……」
妹は、反芻するかのように、呟く。
「クルトさんが神に祈って下さったのでしょう。
真実の祈りであれば、神は必ず聞き届けられる」
妹は、俺の方を見て、少し驚いたように言った。
「でも、お兄様、奇跡を呼び寄せるなんて……
また、レベルアップされたのですね」
俺は、少し困ったように、苦笑いをした。
アレは、魔法ではなく、奇跡だったのだ。
俺は、魔法を使えるようにならなければならない。
教わることを、恥だなんて言っていられない。
俺は、魔術師の村人の方を見て、頭を下げていった。
「お願いです、俺を弟子にして下さい!!!」
妹を含め、3人の村人は、その様子を呆気に取られたように眺めていた。
次回は、主人公の魔法修行パートです。
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