だから俺は学校が嫌いだ
俺は学校が大嫌いだ。 学校はどこもうるさく落ち着ける場所もない。 とてつもなく無秩序だ。
それに、学校は……
ファルサに言われて学校に向かった俺はクラスを確認することもなく1-Aに入り窓際から2列目の一番後ろの席に座る。 そこは1年の時俺の席だった場所だ。
「なぁちょっといいか?」
「え、あっ……な、なに……?」
「そこ俺の席なんだけど」
「えっ?あ、ご、ごめん!」
違った。 一つ隣の席だった。 おれは一つ隣の窓際から3列目の1番後ろの席に座りなおす。
「ぷっ、奏斗君キョドりすぎだよ~。 コミュ障だね~」
後ろを漂っているファルサが笑いながら言ってくる。
うるせーな、人と話すの久しぶりなんだよ。 コミュ障言うな。
ちなみにファルサは俺以外の人には見えないらしい。
「ていうか、奏斗君死ぬまでこの学校通ってたんだよね?だったらさっきの子も知り合いじゃないの?」
「……知り合いじゃない。 ていうか友達とかいなかったし」
「だよね~知ってる~」
よし、こいついつか絶対ぶん殴ろう。
「なぁ、さっきから誰と話してんの?」
そんなことを誓っていると前の席に座っていた男子生徒が話しかけてきた。
こいつはたしか、藤本純だったか?
「……別に」
おれはクラスメイトAもとい藤本純を適当にあしらう。
「そうか?まぁいいや、俺は藤本純お前は?」
「月城奏斗」
「奏斗か、よろしくな」
「……」
そこで始業のチャイムが鳴り、小柄な女性教師が入って来る。
彼女は花宮奏。 このクラスの担任教師だ。
花宮先生がSHRを始める。
「あーあせっかく話しかけてくれたんだからもっと愛想よくすればいいのに」
「そんなんじゃ友達出来ないよ?」
「俺は誰とも関わらないし友達なんていらない」
さっきのやり取りを後ろで聞いていたファルサの言葉を適当に受け流す。
そうだ、俺は1人でいい。
「そうやって君は自分を正当化するんだね。 今までみたいに」」
「なに?」
「僕には他の人間と関わるのが怖くて上条凪海のせいにして逃げているようにしか見えないけどなー」
「そんなことは……」
「まぁ君の好きにプレイすればいいけどね」
そうだ、俺は凪海とは関わらない。 でも他の人と関わっていけない理由はなんだ?
「おい」
でもどの理由も人を避けるための言い訳にしか聞こえない。
「なぁって」
きっとおれには分からないんだ。 凪海以外の人間とどう関わっていいのか。
「奏斗!」
「え?」
「皆もう入学式行ったぞ?」
「あぁ」
なんだ藤本かよ。 なんでこいつまだ教室にいるんだよ。
俺は教室出て体育館へ向かう。
「なぁちょっと聞いていいか?」
「ん?」
俺は隣を歩く順に問いかける。
「なんで最後まで教室にいたんだ?」
「なんでって奏斗が残ってたから」
「なんで俺が残ってたらお前も残ることになるんだよ?」
「なんでって友達が残ってたら呼びに行くだろ、ふつー」
は? 何言ってんだこいつ。
「俺はお前と友達になった覚えはないけど」
「でもさっきよろしくって言ったよな?」
いや、それ言ったのお前だし、俺言ってねーし。
「じゃあこれから友達になろうぜ」
藤本は続いた沈黙を打ち破るかのように言う。
俺はどうすればいいんだろうか。 こいつと友達になってもいいのか? そんな資格がおれにあるのか?
そんなことを考えていると体育館に到着し、答えることなく入学式が始まった。
「よかったね友達ができて。 僕嬉しいよ~」
「……」
例のごとくさっきの話を聞いていたファルサのからかいを入学式という大義名分を使い受け流す。
入学式は滞りなく進み、生徒は教室に戻りLHR が行われる。
こちらも特に問題も取り上げることもなく順調に進んだ。 しいて言うなら、俺が自己紹介で噛みまくりファルサがそれを見て爆笑していたことくらいだろうか。 ほんともう勘弁してください……
LHRも終わり放課後となりクラスメイト達は次々と教室を後にする。
「奏斗、この後遊んで行かね?」
どうやら藤本は数名のクラスメイトと遊びに行くようだ。
「俺はいい」
「そっか、じゃあまたな」
藤本は俺にそういうと教室を後にする。
俺も藤本に続き教室を出て校門へ向かう。
外に出ると心地よい春風が全身を包み運動部の声がグラウンドに響く。
その声に背を向け歩き出すと見つけてしまった。
最も会いたくなかった人を。 そして、最も会いたかったその人を。
上条凪海。
彼女は誰もが振り向くような美少女というわけではなかったが散りゆく桜の中に悠然と歩く姿は今の俺にはとても美しく見えた。
あぁ、だから嫌だったんだよ……。
俺は分かっていた。 彼女に見ればこうなると。
彼女をまた見ることができて嬉しさで胸が締めつけられる。 でも彼女と話すことも触れることも出来ないと分かっているから胸が苦しくなる。
二つの感情が俺の中で渦巻き、それは時間が経つ度に大きくなっていく。
苦しい、胸がはちきれそうになる。
俺は分かっていた。彼女を見れば胸がはちきれそうなほど苦しくなるということも。 そして学校に通う限り彼女のことを無視できるはずがないということも。
学校にいれば関わることも許されないのに彼女のそばにいることになる。 俺はそれが苦痛で仕方ない。
だから俺は学校が嫌いだ。