第九話 何気ない朝だが旅の始まりだ
破壊神と創造神は旅の途中で様々な人間と出会う。それはただの村人であったり、一国の王であったり、昔からの知り合いだったり、ときに人ならざる者だったりと様々だ。
そして物語を加速させるのは大抵そんな奴らだったりする。
港町特有の波の音が微かに聞こえ、意識が覚醒した。
「くうぅぅ」
目を開ける前に、手足を伸ばし体をほぐす。ベッドで寝れなかったとはいえ、ぐっすり眠れたな。
これも創造神ローブのおかげか。
感謝しつつもそれを手で払いのけ、満を持してまぶたを上げると……
「創造神、何してるんだ」
長い金髪を前に垂らし、俺の顔を覗き込んでいる創造神がいた。
その距離、およそ小魚一匹分。
「あなたの寝顔を見てました」
ジッと視線を固定したまま、何でもないことかのようにそう言う。
その様子からすると、結構早くに起きていたっぽい。人の寝顔を観察するために。
まったく。
ちょっとびっくりしたぞ、起きてすぐ目の前に顔があったから。
せっかくの気持ちいい朝が台無しってわけじゃないが、心臓に悪いのは言うまでもない。
今度おなじことを創造神にやって、どれだけ心臓に悪いか思い知らせてやろう。
そのときの反応を想像するだけでも笑ってしまいそうな俺は、床の上を横回転しながら起き上がった。
「それで、旅の始まりに相応しい朝なんだが……これからどこへいくんだ?」
毛布代わりにしていたほうのローブを創造神に渡し、床に敷いていたほうを自分で羽織り直す。
旅をする心構えはほぼ出来ているが、肝心の行き先を俺は聞いていない。
昨日きいた限りだと、いまから始めるこの旅の目的はとても曖昧なものだった気がする。
本当に世界を見て回るだけが目的なのかは分からないが、当ての無い旅をするにしても、だいたいの目的地は絶対あったほうがいい。
そこんところちゃんと考えているのだろうか、この金髪女神さまは。
「とりあえず、この大陸の北に位置する帝都『テスタルド』に行ってみようと思います。――もちろんできるだけ寄り道しながら」
「寄り道しながら帝都か……」
俺も行ったことはないから嫌も何もないが、なぜ帝都がとりあえずの目的なのだろうか?
確かにあそこはこの大陸でも有数の大都市だが、魔族領も近くにあるため割と物騒な場所だ。そんな所だから観光なんてお気楽な目的にはそぐわないはずだが……いや、もしかして魔族領が近い都市だからこそなのかもしれない。
そんな俺の予想はだいたいあっていたらしく、
「勇者は今、そこにいるそうです。あなたが気を失っている間に女将さんに聞いたので間違いありません」
ちょうど思い浮かべていた人物の名が出てきた。
もともとは情報収集のために話かけたのに、問答無用で俺を斬った勇者。
そいつが帝都テスタルドにいるというなら、遅かれ早かれ行かなければならない。
――会って詫びを入れてもらうために。
まあ今はそんなしょうもない復讐よりも、創造神との旅を楽しむほうが優先だが。
「じゃあ、市場かそこらで食料を買ってから……行くか」
「行きましょう!」
そう言って俺の手を引く創造神と共に狭い階段を駆け下り、俺らは宿を出て市場に向かう。
唯一の心配といえば……金ぐらいだな。昨日払った宿代を含めたって、手持ちは多くない。
既に手元を離れた分を勘定に入れたってしょうがないけど。
これ結構すぐに尽きるんじゃないのか?
かなり心配だ。本当に。
そんな金銭的不安をよそに、創造神は眩しいほどの笑顔を浮かべている。
――太陽の下で旅の始まりを祝福するかのように。
読んでくれてありがとうございます。そして次回は、今回よりも1割増しでクオリティの高いものになっているので期待はほどほどに読んでみてください。