第八話 安眠にはお金がかかります
破壊神と創造神は旅の途中で様々な人間と出会う。それはただの村人であったり、一国の王であったり、昔からの知り合いだったり、ときに人ならざる者だったりと様々だ。
そして物語を加速させるのは大抵そんな奴らだったりする。
夕食を済ませた俺らは旅を始める……のは明日にして、とりあえず宿をとることにした。
神である俺らは本来睡眠など必要としない体なのだが、力のほとんどを失っている今では限りなく人間に近い存在だ。
当然、眠くもなるしお腹だって空く。だから今日はここで夜を明かそうというわけだ。
潮の匂いがする海辺の宿屋、値段はそこそこ安いほうだと思う。
狭い部屋の端っこには清潔感溢れるフカフカのベッドがあって、思わず飛び込みたくなる衝動に駆られる。
――しかしそのベッドは一つしかない。
本当は二部屋とりたかったのだが創造神が「節約は旅の基本です!」などと言うのでこの部屋だけにしておいたのだ。
確かに路銀が多いに越したことはないが、安眠もお金と同じくらい大事だと俺は思う。
仕方ないと言えば仕方ないのだ。
さっき金貨を寄付しちゃったのだから。自業自得ってやつだ。
「じゃあ、おやすみ」
「え、破壊神……あなたは床で寝るのですか⁉」
ローブを下に敷いて床で寝ようとする俺を見て、創造神は驚きの声をあげている。
まさか二人で一緒に寝るとでも思ってたのか?
そんなことしたら寝返りがうてなくてお互い翌朝は睡眠不足というのは必至だ。
別に問題はそれだけではないが、とにかく二人で一つのベッドを使うのは賢い選択ではない。
それならせめて創造神だけでもそのベッドを味わって、後日感想を聞かせてくれれば俺はそれでいいと思ったのだが……
「あと一人ぐらいなら入る余裕がありますよ」
ブランケットを軽く持ち上げてそんなことを言う。
「俺は硬い床で寝るほうが好きだからな。ベッドの空きスペースはお前が使ってくれ」
「そうですか、それなら仕方がありません……せめてこれを」
あっさりと引き下がった創造神がそう呟くと、目を閉じて完全に眠る体勢だった俺に、ファサッ、となにか布のような物が覆いかぶさった。
おそらく創造神がさっきまで身に着けていたローブだ。
温もりが若干残ってるし、創造神のいい匂いがする……気がする。
なぜか落ち着くんだよなこれ。
「おやすみなさい、破壊神……」
耳元でささやかれたその声に少し動揺しつつも、俺は心の中でささやき返す。
――おやすみなさい、命の恩人さん……
読んでくれてありがとうございます。そして次回もよろしくお願いします。
余談ですが、タイトルを少し変えさせてもらいました。といってもストーリーに影響はないのでどうぞ安眠してください。