第二十話 遠いのは帝都と耳
破壊神と創造神は旅の途中で様々な人間と出会う。それはただの村人であったり、一国の王であったり、昔からの知り合いだったり、ときに人ならざる者だったりと様々だ。
そして物語を加速させるのは大抵そんな奴らだったりする。
「すいません、帝都ってこっちの方角で合ってますか?」
畑に足を踏み入れないようにそう話しかけると、老人は鍬を持った手を止めてこちらに振り向いた。
「えぇ? なんだってぇ? よく聞こえん」
「帝都までの道を聞きたいのです……」
「ああ、帝都ねぇ。とーいねぇ」
畑を耕している途中だったらしいその農民は間延びした声でそんなことを言う。
俺の声が聞こえなかったあたり耳が遠いようだが……創造神の声には一発で反応するんだな。おかしい。
そしてこのおかしい人が言うには、とーいらしい。もちろん帝都が。
イニズィオの町から草原を越え、そして野宿した森を抜けてこの農村地帯まで来た。
辺りにはポツポツと木造の民家があり、あぜ道を除いた地面のほとんどが作物を育てる畑となっている。
村の範囲を示すであろう石垣もあるにはあるが、獣が簡単に飛び越えられるぐらい低い。
こんな場所まで歩いてきたが、思いのほか距離が縮まっていなかったようだ。
「あんたら帝都へ行くつもりなのか? 徒歩は無理だなあ、馬車でもねえと」
鍬の柄頭に両手を置いて爺さんはさらなる追い撃ちをかけてきた。
その一言に唖然としつつも、俺は自分の頭を必死に動かして打開策を考える。
このまま徒歩でテスタルドを目指すのは、体力的に難しいのもそうだし時間もかなりくってしまうだろう。初めからそれに気づいていれば良かったのだが、俺は下界に降臨する頻度は決して高くないほうだったため、細かい地理には疎い。
おまけにその、ちょっと舞い上がっていたこともあり、移動手段のことをまったく気にしていなかったのだ。我ながら情けない。
そんな俺と同じく立ち尽くしていた創造神が何か案でも思いついたのか顔を寄せてきた。
「破壊神、どうしましょう? 私は一度イニズィオの町に戻って馬車に乗せてもらうのがいいと思うのですが……」
なぜ暗い顔をして言葉を濁すのか、その理由が俺には分かった。
――馬車に乗るお金がない。
単純かつ明快で悲しいまでに現実を突きつけられる問題だ。
まさか最高位の神二人が金銭的にここまで苦しむことになるだなんて。
使えない火打石とか買わなければよかったと後悔するが、だいたいこういうものは手遅れなのが常で、未然に防げることは稀だ。
だから今は過去よりも未来に目を向けなければならないのだが……その未来の雲行きはとても怪しい。
「のう、お前さんたち」
すっかり地面のほうを向いていた顔をあげれば、老人がまるで神様みたいな穏やかな笑みを浮かべていた。
「近いうちに知り合いの馬車がこの村を通るんだが……交渉次第では乗せてくれるかもしれん。どうだ、それまでの間わしの手伝いでも――」
「ぜひやらせてください」
食い気味にそう応える。もちろん創造神もそれに賛成のようで抗議の声は聞こえてこなかった。
――が、しかし。
「ええ? なあに? 聞こえんから、もう一度いっとくれ」
抗議の声とはまた別の声が飛んできた。
「えっと、ですから……その馬車がくるまで手伝わせてもらえないでしょうか?」
「おう、助かるわい」
で、やっぱり創造神の声はよく聞こえるらしい。
この人の耳が一体どんな構造になっているのか不思議だが、今はとりあえず素直に農作業の手伝いをすることにした。
それもこれも旅がしたいからであって、土いじりをするためではないのだが、創造神はやる気に満ち溢れていて、もう鍬の使い方を老人に指導してもらっている。
――これも楽しい旅の一環なのだろうか?
読んでくれてありがとうございます。




