第十話 以心伝心創造神
破壊神と創造神は旅の途中で様々な人間と出会う。それはただの村人であったり、一国の王であったり、昔からの知り合いだったり、ときに人ならざる者だったりと様々だ。
そして物語を加速させるのは大抵そんな奴らだったりする。
「破壊神、イニズィオの町があんなに遠くに見えますよ」
「しばらく歩いたからな」
大きめの革袋をローブの上から背負った俺がそう返す。中にはもちろん食料や水など、町で買った旅の必需品が入っている。
どれもこれもすでに遠くに見えるあの町で買ったものなのだがその買い物には苦労した。
パン一つでも様々な種類があったし、値段が高いから俺がねぎったら店主が嫌な顔してたし、創造神に交代したらすぐに安くしてくれたし、そのあと創造神が迷子になるし……
正直言って俺はもう疲れた。旅が始まったばかりだけど。
天界でごろごろしてる日々が恋しい。
そんなことを口にしたら創造神になんて言われるか。というか思ってる時点で申し訳ない。
そんな俺の休みたい願望も、とりあえずこの草原を進めるとこまで進まないと叶えられない。
一度座り込んでしまったら後は惰性でずっと足を止める、ということになりかねないからだ。
「それにしても……どこまでもだだっ広い草原だな」
「ええ、馬車の跡がなければ迷いそうですね」
車輪の跡があってもお前なら迷子になりそうだけどな、という言葉は心の中にしまっておく。
言ったらどうせキツい一言が飛んでくるし。
「で、帝都方面でここから一番近い村とか町は?」
「それは分かりませんが、帝都があっちの方角だということは聞きました!」
「……っ⁉」
――気でも触れたか創造神。
帝都を目指すにしても、食料などを補給できる地点を経由することは避けられない。
それこそ旅の基本であって、最も重要な要素だからだ。
なのに、なのに……創造神は自信たっぷりな顔で遠くの山のほうを指さしている。
「冗談だよな……もしこのまま歩いていって泊まれるような安全な場所がなかったらどうするんだよ?」
「その時は野宿するしかありませんね」
最悪だなそれ。この丈の短い雑草の上で寝るってことじゃん。
――木板の床よりは柔らかそうだけども。
「破壊神、後悔してますか? 私の旅についてくるって決めて」
急に歩みを止めて創造神がそんなことを言い始めた。その声音はほんの少し震えている。
いまさら答えの分かりきったことだから確認なんて必要ないと思うんだが。
もしかして俺が不安オーラ全開だったせいで不安がうつったのか?
「俺は後悔なんてしてないが……創造神、お前こそ後悔してるんじゃないのか? 俺みたいなダメな神をお供にして」
俺が後悔していないことを伝えて恐る恐るそう聞くと、創造神はフルフルと首を横に振った。
「私も……後悔なんてしていません。それどころか嬉しいのです、あなたが私のわがままを聞いてくれて」
相変わらず否定して欲しい所を否定してくれないんだな。
ダメな神ってのは捻じ曲げようのない事実だからしょうがないけど。
「……昔からお前のわがままに付き合うのは俺の仕事だったからな。いつも暇な神は俺ぐらいだったし」
「仕事ですか。じゃあ私との旅は楽しくないとか?」
「つまらなくはないな」
「ふふっ、破壊神はやっぱり素直じゃありませんね」
嬉しそうに創造神がそんなことを言っているが――否定はしない。
少なくとも俺は今楽しいと感じているからな。一人でいるよりは。
ていうかコイツも俺の心が読めるんじゃないのか? 過ごしてきた時間はムダに長いし。
後悔がどうとかいう質問も、ただの確認みたいだった。
もしかして……
言葉にしなくても相手のすべてが伝わるとか?
可能性としてはあまりに低いどころか不可能に近い。だが、もしかしてと期待する分には別に誰も咎めたりはしないだろう。
そう思った俺は、フカフカのベッドで惰眠をむさぼりたいという思いを視線に乗せてみるが……創造神は「なぜそんな間抜け面しているのですか?」といった調子で俺の意図に気付いていないようだ。
まあ実際そんな痛撃を口にはしていないのだから俺の勝手な想像だが、それはやっぱり視線での意思疎通ができていないという事実の補強にしかならない。
やはり以心伝心なんて神にも無理なのか。伝えたいことは言葉にしないと。
それに思い至った俺は、
「創造神、とりあえず歩かないと日が暮れるぞ」
今夜の寝床を雑草の上ではなくベッドの上にするために言葉を放った。
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……え⁉ してない?