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嵐の前触れ

 カルボン・シティの周囲は広大な農地で覆われている。

 その水源はエスタ山脈から流れる大河とその途中にある大湖から引かれている。

 ただ、山脈と農地帯の間には、大湖からの支流が削り取った断崖絶壁の谷が横たわり、橋こそ渡しているが、軽い気持ちで山脈へ進入することを拒んでいるようにも見える。

 三人はその橋が見える地点までやってきた。

 ここからでも見える崖の向こうからは、谷底を流れる水音が幾重にも反響して聞こえてくる。馬車などがうっかり落ちないよう、崖際には幹の太い木が等間隔に植樹され、崖下からの風で生い茂る葉を気持ちよさそうにそよがせている。


「いい天気だね」

「う、うん」


 口調も歩調も軽いコウタと違って、レニーシャはまだ緊張した様子だ。

 並んで歩くふたりを少し後ろから見守るミィシャだったが、ふいに空をぐるりと見回し、何度か空気のにおいを嗅いでミィシャが提案する。


「すぐにひと雨来そうです。どこか雨宿りが出来るところを……」

「え、でも」


 こんなに晴れてるのに、と続けようとしたが、すぐに重苦しい雲が立ちこめ、いまにも降り出しそうだ。


「わわ。じゃああそこの木の所に……」


 吊り橋を支える大木を指さす傍から降り出してきた。

 細やかだった雨粒はすぐに剛胆になり、剥き出しの地面を激しく叩く。遠くの空から雷の音が聞こえる。


「取り敢えず雨宿りしよう」


 仕方なく走り出した三人の前に、黒い雷が落ちた。


「あいつ、また……っ!」 


 闘戦場で暴れた黒いガウディウムが橋の手前に現れる。コウタが切り落とした右腕もくっついている。距離は十分にある。カイゼリオンをこの場で召還して戦ったとしても、まだかなり余裕がある。

 今度は遅れを取らない。そのための力もある。背中のリュックを下ろし、星帝丸をすらりと抜き放ち、叫ぶ。


「カイゼリオン!」


 三人の眼前に落ちた白い雷の中から、碧と白に輝くカイゼリオンが現れる。

 彼が琥珀色の光を放つとコウタは言う。


「待ってカイゼリオン。少し様子を見たいんだ」


 ぴたりと光は止み、コウタは笑顔で礼を言った。


「あの、あなたの目的は、」


 ガウディウムが動く。速い。三人が目指していた巨木に匹敵する巨体が躊躇なく抜刀し、蛇と見まごうほどのしなやかな加速で突き進んでくる。


「援護します」


 ミィシャが身を低くしつつ突進。黒いガウディウムの真横に回り込むと同時に、その足下に氷雪を纏った息を吹き付ける。脚が地面から離れるよりも速く凍結していくために、黒いガウディウムは動きを封じられる。

 だがそれも気休めの時間稼ぎなのは、コウタにも感じ取れる。ぎしぎしと聞こえる低く鋭い音は、もがく黒いガウディウムの足下に絡みつく氷を確実に破壊している音だ。


「コウタロウさん、はやく!」


 ミィシャが下がったのはレニーシャを守るため。彼女が龍の目で推し量ったコウタと黒いガウディウムの実力は僅差。コウタに守る戦いをやらせるにはまだ未熟だと判断してのことだ。

 これは出発前から打ち合わせているので三人の動きに澱みはない。

 一度大きく深呼吸をして、コウタはカイゼリオンを見上げる。


「待ってくれてありがとう、カイゼリオン。お願いっ」


 同時に、彼から琥珀色の光がコウタに照射され、ふわりと浮き上がる。


「コウタ、気をつけてね」

「御武運を」


 ふたり並んで見送ってくれた。


「レニーシャをお願いします」


 レニーシャが一歩前に出て、不安そうに叫ぶ。


「気をつけてね!」


 ありがと、と笑顔で返し、コウタはカイゼリオンに吸い込まれていった。

 搭乗すると同時にカイゼリオンに抜刀させ、右足を絡みつく氷から開放したばかりの黒いガウディウムに向かう。

 イグラードの助けを借りたとはいえ、一度は生身で撃退している。

 今日はカイゼリオンに乗っている。

 負ける要素は無いと、この瞬間までコウタは油断していた。

 例え油断していなくとも、結果にどれほどの差があったのかは分からないが。


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