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第6話 急変

 ニシル国――――この国は420年の歴史を持つ長寿国家である。そして、この長い歴史の中でニシル国は市民革命など様々な犠牲を払いながら、議会制民主主義国家として発展を遂げて来た。

 いわゆる非白人国家ながら、近代化などもいち早く取り組み重工業化もほかの白人国家に比べかなり早い段階で成功させるなど、いわゆる「優等生」と呼ばれる国である。


 そして、そんな優等生であるニシル国であるが日本が転移してくるまでとある問題に苦しんでいた。それは、「紛争難民の受け入れ」である。


 この世界では世界大戦がたったの一度しか発生せず、そのせいか戦争そのものに対するハードルは大分低くなっていた。特に世界大戦を中立国、ないしは参加したもののほとんど戦火にさらされなかった国は戦争の恐ろしさというものに対しての意識が非常に希薄だった。


 そんな中、この星において石油生産が盛んである中東でちょっとした事件から発端とした大規模な紛争が勃発。

 事態を重く見た国際連合は紛争の停戦と調停のためにPKFを派遣することが決まり、それにはニシル国も国連軍として参戦することとなったのだ。ただ、このPKF自体は問題なかった、むしろ問題はこの先にあったのだ。


 当時のニシル国にはいわゆる「リベラル派」と呼ばれる派閥が政府のトップであったのだが、そのトップがニシル国内に難民を受け入れよう、と主張。そしてあろうことか反対意見をすべて強引に押し込め、無理やり受け入れを実施してしまったのだ。


 それには、このPKO以外に今までなんの実績を上げてこなかった政権に何か箔をつけようと焦っていたとも、国際的な場でニシル国は「優等生さ」を見せびらかしたかった、とも言われるが結局その真相は謎のままである。

 

 そして彼ら政権からしたら、「いいことをした」つもりであったが国民からしてみればたまったものではなかった。

 この年からなんと数万人規模でこの難民を受け入れたのだ。その結果、自国の経済はこれらお荷物を保護するために莫大な金を必要とし、雇用面にも難民によって仕事を奪われるなど失業者が国全体の9%にも上り、多大な影響が出たのだ。失業者が道にあふれ、生活保護費も年々増えていった。

 そこに加えて重くのしかかったのは難民による犯罪率の増加であった。毎日のように放火であったり強姦などの重犯罪が頻発。


幸い、この難民を受け入れた愚かな女性大統領はその後すぐに辞任することになるが、それでも過ぎてしまったことはどうしようもなく、国民のストレスはまさに限界であった。


 そして更に運が悪いことに、そこに日本が転移してきたことによって最後の砦である高度産業が壊滅的な打撃を受けてしまったのだ。


 ……日本がニシル国民に恨まれるのは見当違いかもしれないが、爆発寸前であった国民の矛先が八つ当たりのように向けられたのは非常に運が悪かったといえよう。


 また、日本が転移してきて5年後、ニシル国内には今までの出来事に対する反動か、いわゆるタカ派とも呼べる政権が誕生してしまったのだ。


 彼らは自分たちの選挙活動において、日本製品の排斥を主張。また、国にとってお荷物でしかなかった移民の強制帰国などがマニフェストに盛り込まれたのであった。

 彼らは時に非常に過激な言葉で「悪の日本」を批判、それを「我が正義のニシルが対抗する」と声高に主張、そしてそれに応える形で世論は徐々に危険な方向へと向かってゆくのであった。


 こうした世論の過熱は一般市民だけでなく軍人にまで伝染してゆくことになってしまう。


 特に顕著だったのは比較的最近軍に入隊した者たち――――いわゆる新兵たちであった。10年前ほどから発達し始めたインターネット社会において日本が叩かれると、彼らはそれに同調して、日本を叩いていた。娯楽に飢えた軍人にとってインターネットはまさに最高の暇つぶしだったから影響に乗せられやすかった。特に操作に慣れ親しんだ若い世代にとっては。


 これがインターネット発達前なら簡単には影響に乗せられなかったであろうが、それもまた非常に間の悪かったともいえるであろう。


 そして、それらを食い止めることができず、のちに大きな代償を払うことになるのだが、残念ながらこれに気付けた者は存在しなかった。



☆☆☆☆☆



2029.11.19

ニシル国 大統領府 会議室

15:30 日本標準時



 「大統領閣下、それは本当ですか?!日本と本気で事を構えるだなんて正気じゃありません!」


 「ふむ……確かにそうかもしれないがね国務長官。日本と我が国との境界線――――そこにガス田が見つかったそうじゃないか。それも我が国に食い込む形で、だよ。日本は共同開発を行おうと主張しているが断じて許さない。これはわが国のものであるからな。」


 「――――日本の言うとおり、共同開発でもよかったのでは?」


 「日本の甘言に乗せられろ、と?フン、冗談じゃない。私は日本製品の排斥を謳ってここまで来たのだよ。今更、日本の言うことに耳を傾けてしまったら公約違反じゃないか。」


 「ゆえに、日本とはこの問題に関してことを構えるつもりでいる、というのですか?」


 「そうだ。」


 ――――ダメだ、この目の前にふんぞり返っている男は現実を見ていない。国務長官である男はそう直感するほど、あまりにも稚拙な考えの持ち主であった。

 そして悲劇的なことに、この男は難民を招き入れた愚か者と同レベル、またはそれ以下の大馬鹿者であったのだ。そして今まさにガス抜きとして日本を利用したのだ、よりにもよってこんな時にだ。


 「そして、最悪の場合は日本から強硬手段でこのガス田を奪い取るつもりだ。すでに国営の資源開発部に命令して掘削船の派遣準備を整えてある。これで72時間以内に日本から色よい返事がもらえなかったら我が国の領海に食い込んでいる部分に強硬して押し入ってここを開発する。」


 「そんな、無茶苦茶すぎます。国連で批判されたらどうするつもりなんです?!」


 「なあに、わが国は『優等生』だから問題はないだろう。それに、我が国の領海内で資源を掘ることに何の問題がある?」

 

 「……日本からの猛烈な反発があるでしょうね。それにこれは下手したら侵略行為ですよ?日本がそんなにおとなしくしているとは思えませんがね。」


 「"問題ない"といっただろう?わかったら早く退室したまえ。」


 「ええ、わかりました。」


 ――――このとき、国務長官であるこの男にとって何か嫌な予感がしていた。そして、その数日後、その嫌な予感が最悪の形で的中することとなる。





どんどん更新


前半にでた「愚かな女性大統領」はヨーロッパのとある国の首相がモデルです。ヒント:○イ○


後半の会話でベースとなったのは東シナ海ガス田問題です。

こういった問題の積み重ねで戦争は起こるんだろうなーと妄想しながら書きました。


感想待ってマース

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