第4話 不穏な影
『全システム完了――――4,3,2,1……リフトオフ』
管制官がそう言い放つと同時に、まばゆい光とともに光の槍――――H-4Aロケットが空高く飛び上がった。
今回は偵察衛星を積んでの打ち上げであったが、これをもって転移後1度も失敗することなく23回目も無事に軌道に乗せることができた。一時は天候不良から打ち上げ中止が危ぶまれたが、どうやら杞憂であったらしい。
――――日本が【転移】と呼ぶこの現象に遭遇して早6年が経過した。当初は危ぶまれていた日本経済の衰退も、この世界ではまるで嘘のように好景気を記録していた。
そして、このころになると日本は国際関係においてかなりの変化を迎えるようになっていた。
まず一つ目は日本への観光客の増加であった。転移前はビジット・ジャパン・キャンペーンの推進によって1000万人の外国人が訪日することを目標としていたが、達成の目前となってまさかの転移騒動で訪日外国人が軒並み訪れなくなってしまっていた。
これは観光業界としても非常に厳しい問題であった。特に困ったのは海外へと渡航するための航空機を持つ航空会社である。なにせ利益が国内線のみになってしまったのだ。これによって破産してしまう航空会社も中には存在したほどだ。
だが、それも転移によって事態は大きく変わることとなる。
もともと、日本は古都や世界最大の都市など観光をするにはうってつけな場所がたくさん存在していた。
転移後、特にそうした観光名所などに訪れようとする海外からの観光客が大量に訪れ、今や日本は世界でも有数の訪問外国者数を持つ国家となっていた。
これには航空会社たちはたちまち狂喜乱舞し業績も一気に回復、それどころか逆に海外の航空会社のM&Aを仕掛ける会社すら出たほどだ。
これに伴い、日本と他国との間の関係は非常に緊密になってゆくのであった。特に日本と最初に遭遇したランカー連邦国はその穏やかな国民性も相まって日本と最も親しい国家となり、今年の暮れには【日羅安全保障条約】が締結されるほどだ。
そして、国際連合においても日本の【太平洋安全保障条約】への加入が決定するなど、日本の国際情勢は更なる変化を遂げるのだった。
また、日本の産業界もこの世界に早くも順応し始めており、それの影響が比較的強かったのは精密部品などであった。いままでこの世界では精密部品といえば「ニシル国」や「イリオス共和国」、「ミスロア国」などどいった先進国の製品が主流であったのが、日本の登場によって一気に状況が変化してゆくようになったからだ。
もともと日本は手先に器用さが必要なものづくりにおいては非常に得意な分野であったし、競争相手は自分たちよりも20年以上は遅れた国である、一応販売のノウハウや実績は劣っていたがそれ以外は負ける要素がなかった為に日本はかなり強気に攻め、それによって日本は莫大な利益と世界シェアの獲得を達成したのであった。
そして、影響のある中でも最大クラスだったのは、やはり乗り物関係や日本独自の生産物であった。
いわゆる乗り物はバイクや車、航空機や商船などがこれに当てはまる。特に凄まじかったのは、やはりバイクであり、これはとある国内の4社が世界中を震撼させることとなった。なにせその4社はそのいずれも国内での熾烈な競争を勝ち抜き、さらには世界を一度は制したことのあるほどの大企業であるからだ。そしてこの世界でも累計生産1億台を記録したスーパー○ブは猛威を振るうこととなるのだが、それは割愛する。
また、航空機も日本はこの世界で好調な売り出しであった。特に【MR-J】と呼ばれるリージョナルジェットはこの世界で500機以上の発注がされるほど日本経済に貢献した。
他にも2028年に就航した【J-1】と呼ばれるマッハ3で飛行する超音速旅客機も世界でもっとも有名な日本製航空機として一躍有名になり、海外向けに輸出されるようになったのであった。
☆☆☆☆☆
さて、ここまで日本は転移によって凄まじいほどの経済成長を遂げたわけだが、やはりというべきか日本は異世界に転移するということに対してかなり浮かれていた。それもそのはずで、転移後はわずか4年程度で経済成長率が驚異の4%を超え、GDPも1100兆円を突破しまさに破竹の勢いであったからだ。
日本はいままで、かなり長い年月をかけて成長をしてきた。それも半世紀以上かけて、である。
それを6年間で一気に急加速したとあれば、流石にこの急成長は国民の気持ちを浮つかせるには十分であり、徐々に日本国民の横柄さが浮き出てくるようになる。
そしてこの急成長はやはりというべきか、あまり他国からはいい目を向けられなかった。特に今まで幾つかの製品においてそこそこのシェアを持っていた先進国にとっては日本はそのシェアを強引に奪い去っていった「悪者」にしか見えなかったからだ。
ただ、これはあまり表立った批判はできなかった。そもそも日本は自分たちよりも進んだ時代を歩んできた国であり、自分たちでも日本と同じような立場に立てば同じ行動をとっていたであろう、と分かっていたからだ。
それに、日本からもたらされる先進技術もきちんと吸収できれば我々だって同じものを作れる――――そういった自信を持っていたからこそ、対抗心を燃やしこそすれ、過度に恨むようなことはしなかった。
一国を除いて、だが。
それは「ニシル国」であり、この一件はやがて歪んだ嫉妬心をもって日本を恨むようになる。そしてそれは避けようのない衝突にまで発展してゆくのであった。
どうやって日本を戦争にまでもっていこうかなと考えた結果こうなりました。
日本人はこの世界では天狗になりますが、バブル並みかそれ以上の好景気ならそりゃあそうなっちゃうよね。それでもバブルの頃を反省してかだいぶ大人しいですが。
ちなみにですがこの小説では日本国債とか債権のお話は、筆者がそれほど詳しくないため省かせていただきました。
日本円が消えて世界経済ヤベーな感じなのですが、たぶん自分の腕では描写しきれない可能性が大なので許して下さい。
感想待ってマース