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第30話 報復



 『――――こちらアヴェンジャー01、目標空域に到達した。《This is avenger01,Arrive at the target area》』


 『了解したアヴェンジャー01、爆弾を投下せよ。《Roger that avenger01. bombs now!》』


 『爆弾、投下!《Ready,bombs away!》』


 ニシル国による核攻撃に対する日本軍の報復、それは日本からしてみればこの世界では初めての「核攻撃」であった。本来であれば作戦の最終段階として【電子励起爆弾】と呼ばれる核分裂、ないし核融合による爆発を利用しないいわば次世代の大量破壊兵器を使用する予定であった。これは【金属ヘリウム】という本来であれば存在しないはずの物質を電子励起状態で作り出し、そしてそれを利用して莫大なエネルギーを爆薬に使用するというものだ。

 これは従来のTNTの500倍を超える威力を持つとされており、日本は世界に先駆けて実用化し実戦配備を行った。今回の戦争ではその初の実戦使用であったのだが、核攻撃の煽りを受けてしまい予定を変更し従来型の核兵器を使用することになってしまったのだ。

 

 戦争ではこうした「大量破壊兵器」は単なる「兵器」としては見られない。


 大量破壊兵器とは戦略兵器なのだ、「戦略」と名がつく通りただ大規模なだけでなく非常に広範囲を破壊し国家そのものに対して打撃を与え、そしてその国を滅ぼせるだけの力を持っている。それだけのインパクトを持つのが戦略兵器なのだ。さらには政治的にも非常に大きな意味を持つ。

 大量破壊兵器はその派手な爆発をもってその国民に対し恐怖感を与え、そして戦争そのものに対して厭戦感情を与えることすらできる。だから超大国はこうした兵器を廃止せずに保有し続けているのだ。


 日本も例外ではなかったし、今回の報復攻撃にはそのすさまじい威力の核爆弾――――B-87水素爆弾。正式名称【87式熱核爆弾】がニシル領空内にこっそりと侵入した【B-4戦略爆撃機】から投下された。

 そして投下されたB-87は極限まで落下速度を抑えるために設計された専用のパラシュートが開かれ、減速し、そして高度300mという非常に低い位置でその巨大なキノコ雲……10Mt級にも達する核出力をもって存分に無人地帯を焼き尽くした。

 この巨大なキノコ雲はあまりにも巨大であり、不気味なものであった。


 たまたま撮影に来ておりその様子を見ていた民間人のカメラマンは自身の視力と引き換えにその核爆発をフィルムに鮮明にとらえており戦後、ニシル国の「愚かさの象徴」として語られることとなった。



 ☆☆☆☆☆



 2033.2.20

 総理官邸 地下 危機管理センター

 17:34 日本標準時

 


 「総理。……30分前にニシル国内に対して報復核攻撃を敢行し、これに成功したとのことです。民間人への死者は0であり、完全な無人地帯に投下が行われました。」


 「そうか、よくやった。ニシル国はこのメッセージには気づくだろうな?」


 「ええ、間違いなく気づくはずです。人口密集地帯ではなく無人地帯への核攻撃、そしてわざわざ弾道弾ではなく戦略爆撃機を使用しての攻撃。これに気がつかなければ我々はさらなる攻撃をせざるを得ません。」


 「ローサル島での戦闘はかなり中途半端だが致し方あるまい。……これで戦争が終わればいいのだが。」


 「本来であればローサル島を占領したのちに戦略兵器を無人地帯に使用し、反撃手段を喪失したタイミングで恫喝して戦争を終結させるはずだったのですがね。官房長官、これからの記者会見にはありのままをお伝えください。国民にも納得のゆく形で報復攻撃を行ったと説明しなければ支持率などにも大きく影響が出かねません。ただでさえ野党の追及が日に増して大きくなってきておりますからね。」


 「諸外国にも止む負えない攻撃であった、と説明しなければならんな。まあ戦争が無駄に長引いた挙句、戦後統治すらまともにこなせないようではどこかの国の二の舞ですからね。」


 「まったくだ。……殉職した兵士たちには本当に申し訳なく思っている。せめて靖国に還れればよいのだが。」


 「総理、過ぎたことは仕方がありません。今はやるべきことをやるだけです。」


 「ああ、そうだな。」



 ☆☆☆☆☆



 『本日17時30分ごろ、わが国は報復攻撃として1発の水素爆弾をニシル国の領土内で使用した模様です。威力などに関しては――――』


 「日本はついに核兵器を使用しましたね。……アンドレイ・ミラー大尉、『活動』はどうしますか?」


 「ふん、今更どうしようもあるまい。まさか危惧はしていたが本当に戦略核兵器を使用するとはな。それにしても大統領は本当に自国内での核攻撃による防衛を承認したのか?」


 「にわかには信じられないわ。」


 「そうだろうな。我が国はもはやかなりの苦境に立たされている。そしておそらくこの核攻撃がターニングポイントだろうな。」


 「ターニングポイント?それってもしかして。」


 「ああ、我が国は近いうちに負けるだろうさ。そして我々もお払い箱だろうな。」


 「そうですか……。じゃあ今のうちに日本から脱出しなければいけないですね。大尉、それじゃあ――――。」


 『アンドレイ・ミラーだな?中にいるのはわかっている!特別高等警察だ!扉を開けろ!』


 「思ったよりも早かったな。少尉、命令だ。武装を解除し、彼らの言うことに従うんだ。」


 「了解しました。……待遇はしっかりしてくれますかね?」


 「それは我々の行動によるだろうな。さて、それじゃあ行くとしようか。」


 日本では核攻撃後、こうした特別高等警察、すなわち特高によるスパイ検挙が相次いで行われた。日本の省庁内ではもはや戦争はこれで終結することが前提であり、油断しきっていたということがこの大量のスパイ検挙に非常によく表れていた。

 事実このような事案からわかるように、この時の日本人はほぼすべてがこれで戦争が終わると、そう信じ切っていた。

 少なくともある程度は冷静に物事を見据えていた政府や軍を除き日本中ほぼすべてが「転移」後に起こった高度経済成長のせいか非常に驕り高ぶっていたし、戦争でもほぼ勝っていることも拍車がかかりとにかく緩みきっていたことは間違いない。


 世の中には「油断していると足下をすくわれる」という言葉がある。そしてその言葉通りのことがこの後起こるのだが、日本にはまだそれに気づくことができた人間は政府を含め存在しなかった。



GW最終日なんで連続投稿しちゃいまーす

最後につかまったスパイ君は閑話で戦艦眺めてた人です

※感想欄で日本は甘いとは言ったけど後から考えたがこれ完全な無人地帯に落とした方が誤爆だの何だのって戦後に文句言われないしこちらの方が良かったかもしれないっすね


感想待ってマース

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