第29話 悪夢
【E-10C J-STARS】、日本軍が保有する【P-1】哨戒機のいくつか存在するファミリーの一員であり、戦闘時の統合的な管制を行うことが目的の所謂「早期警戒管制機」として開発された大型軍用機だ。
本戦争時にはこの機を含めた2機が投入されており、いまもって戦闘中である部隊を指揮するためにローサル島上空を滞空していた。
――――事態はその機の中で前線にいる大隊を指揮していた士官の悲鳴によって急変した。
「?!緊急事態発生、グリッド51QTG46133073にて展開中の3個大隊が消滅しました!」
「なっ、どういうことだ?」
「……松代観測所から同区域を震源とした地震を複数観測したとのことです!また、付近の偵察大隊よりいくつもの巨大なキノコ雲が確認されたとの通信を受信しました!」
「ま、まさか……。」
その場では最も地位の高い士官――――五十嵐大佐はいやな予感をひしひしと感じていたが、その数秒後に受信された通信によっていやな予感がぴったりと的中してしまう。
『……こちらハゲワシ12!エンジェル01聴こえているか?!』
『こちらエンジェル01、聴こえているぞハゲワシ12、何があった?』
『クソッ、前方で巨大なキノコ雲を複数確認した!核兵器が使用されたかもしれない!』
『了解したハゲワシ12、貴隊はその位置だと放射性降下物の範囲内になる可能性がある。速やかに撤退せよ。』
『こちらハゲワシ12、了解した。直ちに撤退する。終わり。』
「――――五十嵐大佐。」
「貴官が言わなくともわかる。……司令部へと報告せよ。」
ローサル島でのノーヴェンバーことニシル軍は日本軍との戦闘においてこの悲劇について戦後このような報告書をまとめている。
『本戦争におけるわが軍と日本軍との間には明確な隔たりが存在した。兵士の質はそれほど差は存在してはいないが、技術的格差からくる兵器の質は顕著でありわが軍は非常に不利であった。そして何よりソフトの差とネットワーク技術の差が日本軍との間にはとてつもない差があった。これによってわが軍は敗北したのだ。そう、あまりの差で敗北してしまったのだ。』
『戦争にもあるルールというものが存在するが、このあまりの大敗北に当時の軍上層部は理性を失わせるには充分であった。それゆえにあのような悲劇が起こってしまったのだ。』と。
この報告を受けた前線司令部である強襲揚陸艦【択捉】の艦内は完全に静まり返っていた。理由は当然この突然の「核攻撃」だ。
日本軍としても当初からこの核兵器の戦術使用は想定されていたし、情報部もこの戦争ではノーヴェンバーが不利になったとたん使用をしてくるかもしれないと政府には報告していた。そして彼らの総力をもって核兵器の詳細な場所を調べ上げていたのだ。
この戦争では核を絶対に使わせずに戦争終結させるつもりであった、だがこうして自国内で平然と核を使用してくるニシル国に対し日本軍は戦慄していた。
そしてこの核兵器の居場所を特定できずにみすみす使わせてしまった諜報部の怠慢に対して上層部は激怒していた。……ただ、ニシル国は核のことは大きな爆弾としか思っていなかったために適当な倉庫に放り込んであったりと管理がずさんであり、「きちんと管理している」という諜報部の思い込みからこのような悲劇が発生してしまったのだが、流石に彼らを責めるのは酷である、という見方も上層部内には戦後あったとされている。
ただそれでも諜報部の失態には変わりないうえに実際3400名にも上る兵士を1度に亡くしてしまったのだ。
日本軍としても本戦争における最大の損失であり、この核攻撃は日本国民を震撼させることとなる。
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2033.2.20
総理官邸 地下 危機管理センター
11:12 日本標準時
「どういうことだね?核攻撃は未然に防いで見せると、そういったのではないのかね!」
「申し訳ありません官房長官。どうやら調査に取りこぼしがあったようです……。いままで保管されていた核爆弾以外に合計で6発が使用されました、それぞれ核出力は200ktとかなり低かったものの、同時に多方部で使用されたためにここまでの被害となった、と軍部から報告が上がりました。」
「使用されたからにはそのままでいる訳にもいくまい。報復攻撃は行えるのだね?」
「ええ、それはもちろん。現在一部の部隊が新田原基地にて待機中であり、いつでも離陸可能です。――――総理、どうしますか?報復を行いますか?」
「報復に当たって市街地などの人口密集地帯には落とさないことを厳命の上、攻撃を承認します。」
「っ了解しました!ただいまより報復攻撃を実施します。」
「総理、退出してきました!総理、今回の核攻撃では3000名以上の兵士が犠牲になったとのことですが、報復はなされるのでしょうか!?一言お願いします!」
「……今回の核攻撃によって非常に痛ましい被害が発生し、帰還を待っているであろうご家族の皆様には大変申し訳ない気持ちで一杯でございます。――――今後、しかるべき報復を行うかについては今この場では控えさせていただきます。」
かなり時間が空いたけど生きてます
核攻撃は実施しないとか前の話で大統領が言ってましたがそれは「政府」の考えですね。つまり軍の命令無視、よくない兆候ですねー
感想待ってマース




