閑話 スパイ①
「日本への潜入任務でありますか?」
「ああ、そうだ。……実は、大統領からの直々の命令で『諜報部は日本の情報を最優先で入手せよ』とのお達しでな。数も急には増やせないものだから、欧州担当からある程度引き抜いて日本に潜入工作員兼諜報員として送ることになったのだよ。君もその口だ、悪いがこれからの半年間はこの日本について勉強しておいてくれ。」
―――突如別世界から現れた謎めいた国、『日本国』。この国は我々と同じような文明や価値観を持つ国であり、技術力は恐らく我々よりも進んだ国であるらしい。
そして、私ことアンドレイ・ミラーはそんな日本国へと潜入を命じられたのであった。
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【迎 オート貿易 様!】
日本製の航空機に揺られること数時間、日本のとある国際空港に降り立った私を出迎えたのは一人のランカー人だった。もちろん、このランカー人というのは大嘘であり、実際のところ私と出迎えてくれた女は生粋のニシル人である。
当然、この【オート貿易】もニシル国が日本で諜報活動をする際のダミーカンパニーである。正直、こんな分かりやすいダミーカンパニーなんていつ日本の警察組織、ないし諜報機関にバレて潰されるかなんてわかったもんじゃないが、見逃されているのか、それとも日本はこの手の諜報活動は苦手なのか幸いにもバレることなく潜り込むことができた。
出迎えてくれた女に案内された私は、早速観光という名の偵察任務を敢行することとなった。どうやら、日本はこの首都である『トウキョウ』にかなりの機能を集約させているらしく観光はもとより経済も相当発展しているようだ。ただ、その分攻撃には弱そうではあるが。
「どうです?日本は相当な経済力があるとお分かりいただけましたか?」
「ああ、かなり国力などにも余力がありそうだな。ただ、これでも元の世界ではまだ上がいるようだし、日本がいた世界というのもなかなか恐ろしいものだな。」
律儀にも女は日本について国力であったりトウキョウの魅力をこれでもかと説明してきた。……ただ、私が知りたいのはそういった情報だけではなく、日本の詳細な軍事力などに関してなのだが、どうもこの女はそのあたりを忘れているのか全くと言っていいほど無益な話ばかりであった。
この女とはしばらくチームを組んで調査するらしいが、こんな調子ではこの先あまりいい関係を築けないかもしれないな、と失礼ながらも考えていたのであった。
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ここ数日間、日本の軍事力などに関して書籍やインターネットを駆使して調査していた私にこのパートナーは日本軍が外国人向けに一般公開する海軍ショーのパンフレットを持参してきた。どうやら、この海軍ショーとやらは日本海軍の船にも乗ることが出来るらしく、デモンストレーションも行われるらしい。
早速、私とパートナーの女の二人でデートすることになり嫌々ながらも手をつないで歩き回ることとなった。
―――ヨコスカにある海軍基地へと訪れていた私たちはある巨大な物体に圧倒されていた。それは『大和型戦艦』と呼称されている一隻の巨大戦艦の存在である。
案内用の掲示板によればこの船は満載が5万トンをオーバーしており、主砲は45口径 41cm3連装砲を4基を搭載した『長門型戦艦』の後継艦として4隻が建造された日本最後の戦艦であるらしい。
日本が経験した世界大戦においてもこの大和型戦艦は多大な活躍をし、半世紀ほど前まではいまだ現役であったそうだ。
ただ、流石に日本軍もミサイルが主流の時代ではもはや時代遅れであるとして1970年代に起こった中東事変における対地砲撃任務をもって退役し、今はこうして記念艦として1隻がここに飾られ、もう1隻はモスボール処理され日本のどこかにひっそりと眠っているとのことだ。
こうして日本の戦艦を眺めていて思ったことだが、嫌に機能性に優れている、というか戦訓に基づいたようなデザインをしてるように思えた。
ぼうっと日本の戦艦を眺めていた私だったが、しばらくすると別の展示が視界の端にあることに気付いた。
『試製46cm砲(甲砲)』
……私はその名前が刻まれた巨大な主砲の説明を見て、驚くというよりも呆れの感情がこみ上げた。なにせ、当時の日本は世界最強の戦艦を作ろうと、この前代未聞の46cm砲を試作していたのだ。この説明によれば艦隊決戦思想に基づいた「大艦巨砲主義」を提唱した一部派閥によってこの砲を搭載した戦艦が計画されたそうで、案によれば最大で満載7万トン以上にものぼる規模の戦艦になる可能性すらあったそうだ。
ただ、当時の情勢からして戦艦同士がノーガードで殴り合うような艦隊決戦は起こりえないと判断した結果、使い勝手のいい『巡洋戦艦』として設計されて結果的にはこれが大成功だったらしい。それでもこの当初考えていた超大型戦艦の設計や思想などはある程度は反映されているらしく相当な技術がつぎ込まれたそうだ。
そんな日本海軍の戦艦はこうした催し物ではかなり人気のようで、私以外にも多くの観光客で賑わっていた。他にも『長門型戦艦』に使われていた主砲などもここに飾られているらしく、私は当初の目的をすっかり忘れ観光に浸るのであった。
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「随分と楽しそうだな……。あれが監視対象N-130番、アンドレイ・ミラー大尉か。」
「ええ、パスポートなどは巧妙に偽装してあり、向こうもばれていないと思っているようですが残念ながらこちらはある程度ノーヴェンバーの工作員は把握しております。本人とほぼ一致しておりますが……捕まえますか?」
「いや、彼も観光を楽しんでいることだ。しばらくは放っておけ。」
「はい、わかりました。」
息抜きの閑話
歴史は違えどやっぱり大和型は登場させたかった
そういえば最近あまり見ていなかった某仮想戦記、昨日見たら削除されててとっても悲しかったよ...結局あの燃料槽に入っていた謎の紙は何だったんだろうか
そして10万PVありがとうございます!
感想待ってマース




