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第2話 混乱と転移

 日本が転移するかもしれない――――この情報を知った各国の首脳は何を馬鹿なことを、とこの情報を持ってきた諜報担当者に怒鳴り散らした。


 それに、さすがの諜報組織もこの情報はあまりに突飛すぎると鼻で笑う人間も多かった。だが日本がワームホールを発見してからの行動があまりにも異常であったためこの件に関し各国が詳細な調査をした結果、このような馬鹿げた情報がまさかの真実である、と判明したときの各国の諜報関係者は一斉に頭を抱える事態となった。


 SFじゃあるまいしあまりにも空想じみている――――大統領にそう茶化されるのも無理はなかった。


 実際日本政府にこの件を問い合わせても日本人お得意の曖昧な回答をされるだけに留まった。だが、日本政府が国外にいる邦人に対し緊急帰国命令を出しているあたり、恐らくはこれは真実なのであろう、と各国はそう納得したのだ。

 

 そしてしばらくして鼻の利くマスコミ連中はこの突拍子のないお話を大々的に報道し、投資家の連中は早々に日本国債を売る事態が発生していた。まさに日本が恐れていた事態が起こっていたのだ。



☆☆☆☆☆



 流石にワームホールが無視出来ない大きさになってくると日本が転移してしまうという話を与太話にする人間は少なかった。日本国内にいる外国人は軒並み逃げるように退去し、いま日本にいるのは永住を決意した帰化外国人と、転移した世界で暮らそうと夢見る一部のチャレンジャーのみであった。


 そして、当の日本人であったが意外にもこの事態をあまり重くは見ていなかった。というのも遅かれ早かればれていただろうし、この情報をいつまでも隠しているわけにはいかないと判断した政府がワームホールの向こう側についての全情報を公開したというのが一番大きい。


 それに、転移しても日本はすでに向こう側の国家と国交を結んでおり、すぐに貿易を再開できる状況となれば悲観しようがなかったからだ。


 ただ、企業は楽観的という訳にはいかなかった。日本が消えてしまうと危惧した海外の企業たちが取引を一斉に取りやめたのだ。特に海外輸出が収益の大部分であった企業は大打撃を受けることとなる。


 本来ならあまりの損害に看板をたたんでしまうところであったのだが、それを予期していた政府が救済法を施行したおかげですぐさま路頭に迷う人は少なかった、とされる。それでもなんとか維持できたのは一部の大企業であり比較的規模の小さい企業などはいくつも倒産してしまったのであった。


 そして海外の先進国から日本がこれを利用して異世界での利権などを独占しようとしているのではないかという声も上がっていた。


 というのもワームホールの向こう側に人間がいる上に高度な文明を築けるほどの資源リソースがあるということが日本政府の口からようやく聞かされたからだ。

 ただ流石にこのことに関して日本に文句を言う国はほとんどいなかった。ワームホール自体制御できるものでもないし故意にやろうにもいくらなんでもそんなワープ装置を各国の諜報網に一切引っかからずに開発できるはずがないからだ。


 ただそれでも日本が独占しようとしている、俺たちにも分け前をよこせと図々しくも一部の国家から不満が出た。だが、ワームホールは不安定であるし、日本が消えてしまうことの方が喜ばしいという世論がその一部の国家では圧倒的であったために日本が大々的に非難されることはなかった。


 というよりもむしろ日本が転移してしまうことによる経済に及ぼす影響があまりにも巨大過ぎるために、各国はそれに影響に追われていた。


 何しろ日本は世界的にも三本の指に入るほどの経済大国かつ資源消費国であり、工業生産品も日本が世界シェアをほぼ独占している製品が多数存在していたからだ。

 中でも一部製品に使われる制御センサや特殊なフィルム、高機能電池用の精密不織布など日本しか製造できない製品に関してはもうお手上げ状態であったとされる。また日本が製造しているのはどれも製品において欠かせない基幹部品が多く、これらがもし今後製造困難となった場合の世界経済に与える影響は計り知れない。


 一説にはなんと数兆ドル以上にも及ぶとされており、特に先進国が使用している兵器の様々なところに使われている日本製の部品が入手できないとなると判明したときは、とある兵器製造会社の社員が心臓発作を起こしたほどだ。

 また、このままだと残された日本製部品をめぐって経済紛争が勃発すると予測されており、最悪数ヶ国が地図から消えるとまで予測されたのであった。



 そして世界中で様々な影響を与えた日本であったが、日本自身も非常に切迫した状況に立たされていた。なにしろ今まで日本が輸入してきたすべての資源が一時的とはいえ途絶えてしまうのである。

 いちおうは資源もある程度は備蓄できているし、ただ何もない場所に放り出されて一から探索させられなかったのは幸運といってもいい。


 何より向こう側に交流できる異国があるのは日本からしてみればまさに奇跡そのものなのだ。ただそれでもやはり全く未知の世界に転移するということは解決すべき問題が山ほどあった。


 なかでも一番大きな問題は言語であろう。向こう側の世界には一部に英語と似たニュアンスが近い言語が存在したため、全く喋ることができないということはなかったが、国際連合に加入した際はほとんど片言であった。


 流石に数カ月たった現在は外務省はじめ様々な研究機関が血汗を流すデスマーチを行った結果、何とか日本語と向こう側の世界とである程度通じる翻訳用の辞書は作成できたし、外交を行う担当者の中にはすでに数か国語をマスターした者もいた。


 だが、流石に民間にこれを流通させられるほどの時間は残念ながら転移するその瞬間まではなかった。そのため、これに慣れるにはかなりの長い時間が必要であった。

 それでも転移直後には真っ先に翻訳の勉強をさせられた軍人の中には向こう側の世界の言語を同時翻訳することができるほどの話者を育成することができたのは幸いだろう。


☆☆☆☆☆



 そしてそれからさらに数か月ほどたったとある日、世界中が見守る中日本は「それではごきげんよう。」という最後の通信を残し地球から完全に消滅するのであった。




プロローグは終わり。


実際日本が消えたらどんな影響があるんでしょうね?ここでは最悪数ヶ国が地図から消えると書きましたがあながち本当のことになりそう。

特に精密部品において日本はかなりのシェアを持っているのでそれが丸々消えるとなると……

ほかにも有名なところではカメラにバイクあたりは被害額がとんでもないことになりそうですね。


感想待ってマース

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