第27話 戦況
2033.2.19
東京都 首相官邸 地階危機管理センター
16:00 日本標準時
「……それでは日二戦争の戦線についてですが、現在は日本が圧倒的な有利な状況となっております。具体的な状況としてはローサル島の約65%を占領下に成功しており、またニシル軍の戦力のうち空軍はほぼ壊滅、海軍についても序盤のわが軍の奇襲攻撃をおそれ戦力の過半数を港から退避、それを潜水艦隊が徹底的に叩いたことによって相当数の主力艦を撃沈しております。このままであれば、あと数日もあればローサル島は完全制圧ができるでしょう。」
「第三国を通じてニシル国との外交チャンネルの維持は成功したか?」
「はい、一応ですが政府には連絡が取れるようになっております……降伏勧告や戦後の賠償などについても外務省が現在急ピッチで作業を進めているのでそのあたりに関しても滞りありません、首相。」
「それならいいんだがね……。本土に直撃、とはならなかったがやはりというべきか核攻撃は行われてしまったな。これのせいで生半可なことでは国民に納得させられなくなってしまったのが心残りだよ。」
「我々が未然に防ぐことができず、本当に申し訳ありませんでした総理……!」
「いや、気にしないでくれ。今回の被害は不幸な事故だったのだから。それでも民間人に被害が出てしまった、奴らには相応の報復をさせてもらおうじゃないか。」
「――――ええ、流石に同じ核兵器による報復というのはいささか威力が過剰すぎるので、この戦争には【電子励起爆弾】の使用をもって敵に対し心理的に致命的なダメージを与え終戦としたい、と我々軍は考えております。」
「かつてのアメリカがドイツに対して核兵器を3発使用した際も、あまりの威力にドイツ国民に厭戦感情が出て、それが要因で戦争が終結しましたからね。戦略兵器を使用するということはそれだけ意味のあることになります。」
「……それで終戦となればいいのだがね。」
「総理、この【電子励起爆弾】を使用すれば確実に終戦になり得ます。少なくともこの数日でニシル軍に大打撃を与えておりますし、厭戦感情を出すための現地工作もそれなりに効果が出ております。爆撃もいまだ継続して行われているので向こうのマスコミも隠しきれていません。ですので国民の中でももうすでに戦争に負けつつある、という意識も出すことに成功しています。この爆弾を都市近くの無人地帯に投下すればほぼ確実に戦争は終結します。」
「相手がこれを核攻撃と誤認する可能性は?」
「確かにそれもなくはありません。ですが、すでに敵の反抗戦力はほぼ壊滅しておりますので我が国に対して再度報復攻撃を行えるだけの余力や機材などはもう残されておりません。……ですが、この爆弾を使用するのはあくまでも最終段階となります。中途半端な戦力が残されたままだと相手の抵抗が激しくなる恐れがある上、この爆弾を我々の切り札であると誤認させたいという目的もあります。」
「いずれにしても、しばらくは通常の戦闘が続くわけか……。」
「はい、そうなります。――――戦死者は今のところ340名、車輌も今のところかなりの被害が出ております。特に16式機動戦闘車1両を敵に鹵獲された可能性が高い、ということがかなりの痛手ですね。ただ、この車両の装備に関しては敵に鹵獲される可能性を考慮し、最新ロットのE型ではなく改修間際だったA型だったのが唯一の救いですね。」
「そうか……今のところ被害はそれだけか?」
「はい、上陸戦時の損耗はかなりの痛手ですがそれでも先進国を相手するにしてはかなり少なめの被害でしょう。今のところは許容範囲内です。」
「向こうも早めに諦めてくれるといいんだがね……。」
「そうはいかないでしょうね。向こうも先制してきたとはいえメンツがかかっているでしょうし――――おっと総理、そろそろ記者会見の時間になりますので本会議はいったん終了としましょう。」
その言葉を聞いた近藤 総理は締めくくりの言葉とともにNSCを終了し、次に控えた記者会見の場に赴くのであった。
☆☆☆☆☆
一方同時刻、ニシル国でも同じような会議がここ大統領府にある地下会議室で行われていた。……だが、そこで行われているのは戦勝に浮かぶ陽気な雰囲気などではなく、いまから断頭台に行くような、とても重苦しいものであった。
「……大統領、被害を報告いたします。ローサル島はもはや半分以上が占領されており、このままではあと数日で全土が占領されてしまいます。幸いにも民間人の避難は日本軍は見逃してくれているようで、病院船などに被害はありませんがそれ以外の被害が壊滅的と言って差し支えない状況にあります。」
「――――再度の核攻撃は可能か?」
「無理です。投射手段がもうありませんし、仮にできたとしてもさらに警戒度を増した日本に痛手を負わせられるかどうか……。それに、あの日本の怒り具合から見るにもう核攻撃はカードとしては役立ちそうにありません。」
「『我が国としては極めて遺憾である』、でしたか。全世界に向けてこれほどまで強く抗議したうえで我が国に猛爆撃をしてきました……あとで外交部が調べたところ、日本がもといた世界では【核兵器】は禁断の兵器扱いだったそうです。日本がただの一度の攻撃であれほど激怒するのも当然のことだったようです。」
「我々との常識の違いを調べていなかった官僚連中の怠慢ですな。」
「どうやら、日本側の常識としては核兵器を使用してきた際には相手にそれ以上の報復攻撃を行うということが常識であるようです。そのせいで日本を含め、その世界では都市丸ごと一つを焼け野原にできる規模の核爆弾を数千、数万発単位で保有する国家がいくつもいるそうです。」
「そして確か、超大国同士が戦略級核兵器を保有しそれぞれが使用を躊躇する環境にする『核抑止』という概念でしたか……」
「気が狂っているとしか言いようがないな。日本もその核兵器を数万発も所有しているんだろう?」
「いえ、日本はもともと数万発も所有する気もなかったうえ、維持コストなどの関係から現在は数百発にまで削減をしているそうです。ただ、それでも転移してくるまでは世界4位の核保有率を誇っていたようですね。ただ、それでも使おうと思えば我が国をすべて焼き尽くせるほどの量ですが。」
「なら日本は核兵器を使用しないのか?」
「今のところそのようなそぶりは見せていませんね。憶測にしかすぎませんが、あくまでも通常戦闘ですべて片付けたいのでしょう。」
「……どこで間違ってしまったんだろうか。」
「はい?」
「いや、何でもない。」
ふと大統領が近くにあるテレビをみると、そこには今回の戦争を批判したデモをする民衆たちを映したニュース番組が放送されていたのであった。
尺稼ぎ話




